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ふざけたマネ

 

 連日の捜索で何も見つからない事による気落ちと、昨日の警官殺しによるショックがあったが、翌日俺はいつものように学校に登校していた。そして玄関で靴を履き替えると、ある事に気が付く。



 玄関から少し入った場所にある学内掲示板の前に大勢の人集りができていたのだ。そんな事は珍しかった。平時でも学校新聞が貼られた時に少しだけ人間が集うような場所に、今日は大きな人集りが形成されていたのだから。



 当然興味が惹かれ近付く。しかし人の群れが凄すぎて皆が何に注目しているのかが分からない。



 「何見てんの?」



 俺が一番後方にいた男子生徒に声をかけた瞬間だった。



 俺は一人に声をかけた筈なのに、その場にいた大勢が俺を見たのだ。



 え……どういうこと……



 俺がそう思った瞬間だった。皆んなが同じような事を考えたのか、パラパラと人と人の間に隙間が出来た。皆んなが俺を見つめているその状況で俺は恐る恐る掲示板まで進む。そうして皆が何を観ていたのかに気が付き、息を飲んだ。



 それは俺と鞠猫が写った写真であった。



 新宿で一緒にいる時の物。パンケーキを食いにカフェに入った時の物。高田馬場駅を降りた時の物。表参道を歩いた時の物。しかもその一つ一つにマジックペンで日付と時間がご丁寧に記入されていたのだ。



 「な、なんだこれ」



 どれもが俺達から離れた場所でありながら、本人であると分かる距離感から撮影された物だった。



 ……一体誰が…何の為にこんな盗撮のような真似を……



 こんな事をされたのは初めてだった。そしてこんな事をされる謂れもない。



 俺はわけも分からず咄嗟に周囲に聞いた。



 「おい、誰だよこんな真似したやつはよ!?」



 誰も何も言わなかった。口を閉ざし辺りを見渡す。誰も知らないのだ。



 「俺が朝来た時から貼られてたよ……」



 恐らく一年生だろう。関わりも持った事のない男子生徒が恐る恐るそう言ってくれた。



 朝から……ずっと……?



 いや……いや、いや、だとしても意味が分かんねーだろ!!



 な、なんで……俺と鞠猫が一緒にいるところを盗撮なんてされなきゃなんねーんだよ! 



 意味が分かんねーぞ!!




 ────いや、意味なら分かるか……



 「奏君……」



 聞き覚えのある声にそちらを見る。スラッとしたスタイルの女生徒。生徒会長。小熊林鈴華先輩がそこには立っていた。



 「この写真……本当なの?」



 彼女の目が俺を見る。悲痛な表情で俺を見る。



 それはまるで裏切られたと言うような顔だった。



 俺は周りを見渡す。いつの間にか俺の周りの人集り

が女の子ばかりになっていた。元々いた男子生徒達を押し退けて、女の子ばかりが俺をまるで責め立てるように取り囲んでいた。



 「かなでさん……今は誰とも付き合わないって……」



 誰かがそう言った。その方を見れば俺が一年の最後に告白を断った女の子の真波さんだった。



 「女の子は苦手だから恋人とかはちょっと……って言ってたよね奏……?」



 またそんな言葉……その声の方には一年の最初に告白してきた上野さんが。



 「わ、私が先に好きだったのに……奏君だって知ってた筈だよね……!?」



 その声に向けば話したこともない女の子が取り乱した様子でそう喚いている。



 困惑した顔、痛々しい辛さを抱えた顔、怒ったような顔、今にも泣き出しそうな顔……



 ああ……そうだった。俺はこれを恐れていた筈だっただろうに……




 「奏君?」



 そんな阿鼻叫喚な状況を切り裂いた声が響く。



 群衆を挟みながら、俺を見る一人の女の子の姿がそのにはあった。



 鴉皮鞠猫だった。



 新たな主役の登場に人集りはまるでモーセの海割りのように掲示板までの通路を開く。



 何事かと困惑しながらもコントラバスケースを背負った彼女は何かの異様さに気が付き、ズンズンと歩を進めると、俺が無意識に前に立ち塞がっていた掲示板に貼られた写真を俺を押し退け、見るのだった。



 彼女もまたそれを観て息を飲んだ。そんな音がした。



 衝撃に固まる表情。目を見開き彼女は口を固く結んでいた。



 その心中を察するには容易かった。二人揃って最悪な気持ちだったことだろう。



 「鴉皮さん……これなに?」



 女子の誰かがそう言った。



 「二人ってそういう関係なの?」



 その言葉に鞠猫は咄嗟に口を開いた。



 「そんな関係ってなんですか?」

 「分かるでしょ? 付き合ってるのか聞いてるの」

 「そ、そんなわけないです! これは偶々一緒に……」



 鞠猫は言葉を紡げなかった。当たり前だ、何をしていたかなんて言えるわけがない。本当の事を言ったところで信用される気もしなかった。



 そんな鞠猫の気持ちも知らない女生徒は続ける。きっとやましい事があるから言葉が出てこないと思ったのだろう。



 「偶々……なに? なんでなにも言わないの? 事実だから言えないんじゃないの?」

 「そういうわけじゃ……」



 ここにいる誰もが俺と鞠猫を見ていた。

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