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パンケーキと鞠猫

 

 それは誇張無しにキラキラしていた。



 目の前に出された、フッワフワのパンケーキに色とりどりのフルーツとホイップクリームが乗り、真っ赤なルビー色の苺のソースが掛けられた逸品を見つめる鞠猫は目を輝かせて外見的に5歳は幼く見えた。周りには光の粒が飛んでいるような錯覚をしそうな程だ。



 俺も俺で注文したシーフードカレーの到着に歓喜したもんだが、言葉を発さず、黙ってパンケーキを見つめる鞠猫の方が注文した品に対する興味と誘惑が大きそうだった。



 俺はいただきますと言って、正直がっついてカレーを食べ始めた。しかし目の前の鞠猫は一向にパンケーキに手を付ける素振りを見せなかった。



 「鞠猫、食わねーの?」



 なにか問題があるのかと俺が問うと鞠猫小さく言葉を発した。



 「……もう一度聞きます」

 「うん?」

 「ほ、本当に奢りで良いんですよね?」



 ああそう言うことかと俺はつい笑いそうになる。信用されていないからといってこんな所まで疑われてしまうとは、なんだか少し過敏過ぎると思った。それに付け加え、どこからかグゥ〜と腹の虫が鳴いた音がした。俺ではないのが分かっていたから向かいに座る鞠猫を見ればまたも顔が赤いではないか。 ……なんだよお前も腹ペコじゃねーかと心の中で俺は突っ込みながらも次の言葉を口にした。



 「男に二言はない」



 俺がそう約束した瞬間だった。鞠猫はナイフとフォークを構えるがそれを一旦置き、取り出したスマホでバシバシと写真を撮る。そうしたあと、気を取り直した様にナイフとフォークを持ち、パンケーキに挑み、一口大に切ったそれを口に含んだ。



 「ッン〜〜〜〜!!」



 至福である。そんな声にならない声を喉の奥から鳴らし、パンケーキを頬張る彼女は幸せそうな顔だった。



 俺も鞠猫も目の前の料理に夢中になるが、半分も食べればお互い落ち着きを取り戻す。



 「奏君、貴方お金持ちなんですね」



 だからか知らないが、鞠猫がそんな事を聞いてきた。



 「お金持ちって……元は親の金だけどな」

 「一番良いじゃないですか。黙っててもお金が入ってくるんですから」



 なんつー言い分だ。俺の親父が聞いたら泣きそうだな。でもそんな事を口にするとは鞠猫はお金に困っているのだろうか。



 「……お前金ないの?」

 「生活するにはなんとかなりますけど、無駄に使えるほど余裕はないですね」

 「ふーん、意外だな」



 こんな命懸けの依頼をこなしているのに余裕がないとはどうにも腑に落ちなかった。こういう類の仕事は報酬は高額なのが相場いうイメージがあったから。



 「てっきり結構貰っているかと思っていた」

 「私もまだ駆け出しのブロンズハンターですからね。寄せられる依頼もその分安値でも珍しくはないですよ」

 「まじか」

 「高額な報酬が出始まるのもシルバーからですね。それでもシルバーでも時折当たりの案件が巡ってくるか待ちらしいですけど、まあゴールドにさえなってしまえば豪遊出来る程度には稼げるようにはなるらしいですよ

 「ひでーな、階級が上でも下でも命がかかってんのに」

 「たしかにそうですね。でも技術がある人間ならブロンズでも十分稼げるらしいですから……ま、私も技術がないわけじゃないですけど、今回は運が悪かったんですよ。この依頼も30万程度の報酬とあらかじめ決まっているんですけど……東京に拠点を置いている身としてはそのお金も一〜二ヶ月程度の生活費で消えてしまいますから、早くターゲットを見つけて討伐しなくてはならないんですよね」



 パンケーキが美味いからか、幸せそうな顔をして饒舌に話す鞠猫。俺を犯人として疑っていたから監視も兼ねて同行しているはずだったのに、俺に対しての警戒心などというものが削がれているような気さえもする。



 彼女自身聞かれても何も問題はないからと判断して話しているのだろうか? そんな疑問が浮かんだ。



 「30万か……お前どこに住んでんの?」

 「シェアハウスですよ、女の子だけの。場所までは言いませんけどね。貴方にはまだ犯人としての可能性がゼロではないんですから」



 馬鹿にするなよと薄目で俺を見る鞠猫に、俺は少し笑んで見せた。なるほど、しっかり言っても良いことと悪い事の判別はしているようだ。



 「こんなパンケーキ一つ奢って貰っただけで私の疑惑を払拭できると思ったら大間違いです」

 「……そーですか」



 パンケーキを切る彼女の顔は真面目なものだが、その手は止まらない事と比べると体は正直だなと思わずにはいられなかった。



 「……絆されたわけじゃないですから」

 「はいはい。なあ、少しちょーだい」

 「それは絶対駄目!」



 俺の要望をパンケーキの上に手をかざしてまるで守るようにして切り捨てる鞠猫。もしも無理矢理摘み食いでもしようもんなら頭を撃ち抜かれそうな勢いだった。



 グルルと俺を睨む彼女はチラチラと警戒しながらも一口大にまた切っている。その様子を見る俺。



 俺はふと気が付いた。今までの人生で女の子の友達など出来た事はなかったがもしも女友達がいたら多分こんな感じだったのかなと。



 それがこんな超常殺し(ルナティックハンター)などと云う異端人種なのは予想した事はなかったけれど、俺も完全なる人間ではない為、人のことは言えないか……



 そんな事を考えながら時間は過ぎていった。


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