やめておけ、なんとなく……
夢の中、朝霞は王宮の植物園で謎の植物を栽培していた。
それを理科室にあるような乳鉢でゴリゴリやって、フラスコで炭酸と混ぜ、飲みやすくして、試験管に移した。
勢いよく注いだので、怪しく泡が立つそれを、なにやってんだと覗きに来た王子に向かい、突き出す。
「王子、飲んでください。
惚れ薬です」
「……本人に言ってどうする」
と言う王子に、
「これを飲んだら、100年の恋に落ちるかもしれません」
と言ってみたのだが、
「待て」
と手を突き出し言う王子に止められる。
「あれは、俺に、俺を起こした人間と100年の恋に落ちる呪いがかかっているという話で。
起こした人間と無理やり、恋に落ちなければならないという話ではないからな」
「でも、王子……。
私は落ちてしまったようなんですよ」
たぶん、そうです、間違いない、と夢の中なので、朝霞は正直に白状する。
「なのに、ネットで検索をかけても、十文字王子の攻略は出て来ないんです」
「……それは笑うところか?」
「いいえ。
笑わせようと思って言ってるんじゃありません。
素でやってしまったんです」
と朝霞は言った。
「スマホを手にしていたら、無意識のうちに、『十文字 攻略』と入れてしまっていたんです」
朝霞はそこで自分のドレスを見下ろし、
「ゲームだったら、この服を着たら、相手の好感度が上がるとかわかるのに、現実にはわかりません。
王子はどのような服がお好みですか?」
と訊いてみた。
せっかく騎士団長がドレスアップさせてくれても、王子は褒めてくれなかったからだ。
暇なことを訊いてくるな、と突き放されるかな、と思ったのだが。
王子は少し考え、言ってきた。
「……最初にお前が着てた服かな」
「えっ?」
「すごく清潔な感じがして、可愛らしかった」
「制服ですか?
ほんとですかっ?
じゃあ、私、ずっと一生制服着ていますねっ」
そう祈るように王子を見つめてみたが、
「いや……それはやめておけ、なんとなく」
と言われてしまった。




