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オタク姫 ~100年の恋~  作者: 菱沼あゆ


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俺にも呪いがかかっている

 


 霧に覆われた王国に十文字は立っていた。


 目の前に、トレンチコートを着た佐野村が立つ。


 反射的に殴り倒していた。


「すまん、佐野村。

 朝霞につきあって、久しぶりにやったあのクソゲーのせいだ」


 そんな感じに前に立たれると殴り倒したくなるんだ、と十文字は言い訳をした。


 ……が、そうだろうか、と自分で言っておいて、疑問に思う。


 佐野村は朝霞に気があるように見える。


 だからじゃないのか?


 そうおのれに問うている間に、目が覚めた。





 ……俺もゲームをやると、ゲームの夢を見るからなー、と朝の電車で十文字は、ぼんやり考えていた。


 朝霞は今日は、別の女の子の友だちも乗ってきていたので、そちらと話していた。


 少し離れた場所に立つ朝霞の方を窺っていると、やはり、佐野村も窺っている。


 振り返ると、目が合った。


 一緒につり革を握っているのに、

「前に立つな、殴り倒したくなる」

と思わず言って、ええっ? と言われてしまった。


 ……佐野村、すまん。



 


 テストがようやく終わった日、久しぶりにバンドの練習をすることになり、十文字は廣也に家に呼ばれた。


 先に帰っていたらしい朝霞が自分の部屋から、何処ぞの家政婦のように、ひょこっと半分を顔を出す。


「……いらっしゃいませ」

と恥ずかしそうに言って、ひょっと消える。


 挙動不審だぞ、と思いながらも、何故だか、それを可愛らしく思う自分もいた。


「朝霞」

と呼びかけると、はっ、はいっ、と言って、朝霞は、また半分顔を出してくる。


「そういえば、あのゲームやったか?」


「会う人会う人、殴り倒し、見る家見る家、窓ガラス壊して侵入するゲームの二週目の話ですか?」

と訊いてくる朝霞に、


「……二週目やってんのか」

と言ったあとで、


「いや、例の乙女ゲームだ」

と十文字は言った。


「いえ、おそろしくてできません」

となにがおそろしいのか言う朝霞に、


「ちょっと見せてみろ」

と言うと、部屋の扉を開けてくれる。


 



 朝霞はベッドの枕許からあの乙女ゲームを持ってきた。


 何故か自分が買ってやったアドベンチャーゲームも側に並べてあったようだ。


「これです」

とそのゲームを渡され、眺める。


「……この王子、俺にひとつも似てないようだが」

と言うと、朝霞が自分の手にあるパッケージをひょいと覗き込んでくる。


 鼻先で朝霞のサラサラの髪からすごくいい香りがして、思わず、逃げそうになったが、朝霞が覗いているゲームをつかむ手だけは、男の意地で動かさなかった。


 動揺していることを知られたくなかったからだ。


「似てると思いますが」

と言う朝霞に、


「……何処がだ」

と問うと、真顔で、


「黒髪で目が黒いです」

と言ってくる。


 正気か?

と思いながら、


「大抵の日本人はそうだろう」

と答える。


 まあ、大抵の日本人は、というか、大抵の高校生は。


 大人は茶髪にしてたり、カラコンを入れてたりもするが、大抵の高校生は、校則により、なにもしていないからだ。


 ……佐野村だって、黒髪黒目だぞ、と思いながら、十文字は、


「まだやってないのか、このゲーム」

と朝霞に訊いた。


「はい。

 やるのが怖いので」

と言う朝霞に、


「なにが怖い」

と訊く。


「……王子の夢を見なくなったら、なんとなく嫌なので」

と朝霞が曖昧に答えたとき、ドカドカと廣也がやってきた。


「なにやってんだ、朝霞の部屋で。

 ああ、あのゲームか」

と言う廣也の後ろから、座敷わらしかなにかのように、佐野村が覗いている。


「まだやってなかったのか。

 オープニングだけでも見てみろよ」

と言いながら、廣也は勝手にゲームを取ると、ゲーム機に突っ込もうとする。


 わああああああっ、と朝霞と二人で止めた。


 ……いや、別にこいつの夢に出演しなくてもいいはずなのだが。


 いや、ほんとに、と思う自分を佐野村がじっと見つめていた。


 



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