三日間(恋愛)
<1日目>
ーピンポーンー
ある晴れた昼。部屋に呼び鈴が鳴り響く。夏真っ只中。サンサンと太陽が窓から照りつける。今年はお盆に実家に帰らないので、連休を満喫中だ。
あいは後輩と3泊4日の旅行中だ。誰だろう?
「久しぶり。元気だった?」
「なんだ佐藤か。久しぶり。この前のランチ以来か」
「そうだね。桜を見ながらだったから4カ月ぶりくらい?」
「しっかし、いきなりなんだよ~」
「つれないな~。せっかく高校時代から友人から遊びにきたのに」彼女は笑った。
「残念だったな。あいなら旅行中だよ。」
「うん、知ってる。実はあいから頼まれたんだ。旅行中、あんたの様子をみておいてくれって」
「なんだよ、それ(笑)」ぼくは苦笑いを浮かべる。
「浮気しないようにの監視かな~」佐藤はいたずらっ子のように微笑む。こういうところは高校時代から変わっていない。
「するわけないだろ、馬鹿。お茶でも淹れるから、あがれよ」
おじゃましまーすという声を後ろに聞きながら、俺は台所に向かった。
麦茶と買い置きしていたクッキーの箱を手に、ダイニングへ向かう。
「なにもなくて悪いな」
「いいよ、急に来たんだから」
「しっかし暑いな」
「本当。溶けちゃいそう」
麦茶を一気に飲み込んで、彼女は答える。
「あいはなんて言ってたんだ」
「旅行中、あんたのことを見ておいてくれって。きっと、ろくなもの食べないだろうからって」
「あいつめ」
「さて、クエスチョン。お昼は何食べた?」
「……」苦々しい
「Aカップラーメン B即席めん Cカップ焼きそば Dレトルトカレー」にやにやしながら言ってくる。
「」なにも言い返せず、麦茶を飲む。
「高校の時から変わらないな。さて、夕食の買い物をするから付き合ってね」
近くのスーパーでカートを押しながら、雑談をする。
「あんたたち、付き合って何年くらいだっけ」
「もうすぐ5年かな」
「ひや~長いね。アツアツでうらやましいかぎり。結婚とか考えてないの?」
「まだ、考えてないな。もう少しお金貯めなないとな」
「”まだ”か。そうなるとあんたと会ってもうすぐ10年なんだな。わたしも歳をとるわけだ」
「本当、腐れ縁だよな」
「それはこっちのセリフだよ」
「それは失礼」
「まったくあんたは本当に昔から失礼だったよね」
「昔のことはいいから。ところで何作るの?」
「そうだね、夏だからカレーでいいかな?」
夜7時。テレビではくだらないバラエティをやっている。ふたりでカレーを食べた後、買っておいたアイスをデザートに適当に思い出話にふけっていた。
「最初、会った時のことおぼえてる?あんたさ、高校初日なのに、筆記用具忘れてて」
「本当に焦ったわ」
「それでいきなり鉛筆貸せだもん。あきれたわ」
「いつもすみません」
「高3のときに、また同じクラスで」
「そうそう」
「ちょっと不吉だったな~」
「おい」
「山田さんと安田くんと4人で勉強会したり」
「安田だけ浪人したんだよな」
「あんたと偶然、同じ大学になって」
「そういえば、あいを紹介してくれたのおまえだったよな」
「そう。大学の初授業で仲良くなって」
「3人でゲーセン行ったり」
「2人で仲良くなって、私だけおいてけぼりにされた時、ショックだったな」
「さーせん」
「このリア充爆発しろ」
「おいおい」
「でも、3人で卒業してからも遊べるのは嬉しいな。あいと別れないでよ(笑)」
「余計なお世話だ」
「じゃあ、そろそろ帰るね。また、明日も来るから」彼女の目が少し潤んでいる。
「いいのか。彼氏に疑われても知らないからな」少しからかってみる。今日のおかえしだ
「残念ながら、今はフリーよ。っていうか知ってて言ってるでしょ」
「ありがとうな」
「うん、じゃあまた明日」
テレビはバラエティからドラマに変わっていた。
<2日目>
ーピンポーンー
昨日とほぼ同じ時刻。また、呼び鈴が鳴り響いた。
窓からは入道雲がみえる。雨が降ってくるかもしれない。
「来ちゃった(笑)」佐藤は立っていた。手にはスーパーの袋。今日は買ってきたらしい。
「ハイハイ」
「本当につれないな~」
「その程度なら、あいと日常茶飯事だ」
「妬けるね~にやにや」
「からかうなよ。まったく」
「昨日のカレーは食べ終わった?」
「うん。昼に」
「鍋は?」
「ちゃんと洗っておきました」
「よろしい」華やかな満面の笑みだ。
「アイスでも食べるか?」麦茶をだしながら、ぼくはたずねる。
「うん、チョコ味がいいな~」
「へーい」
「ほいよ」軽くアイスを投げる
「ありがとう。ひゅあ、冷たい」
「ところで、材料いくらだった。払うよ」
「ああ、いいよ。面倒見る代わりに、あいがお土産奮発してくれる話だし。私も食べているし」
「いいのか。悪いな」
「なら、今度、ランチ奢ってよ。おしゃれなカフェがいい」
「3人で遊んでるときは、いつもおごっていますよね」苦笑いだ
「あれ、そうだっけ(笑)」目が泳いでいる。完全にとぼけている。
「アイス食べたし、そろそろ作ってくるね。今日はパスタだから」
「おう楽しみにしてる」
台所から、ガーリックを炒める音とにおいがする。
食欲がそそられる。作ってもらったお礼に、なにかワインでも開けるかと、少し棚を物色する。
安く買った白ワインがあった。これにしよう。
「できたよ、あれワイン?」ワインを開けていると、彼女は皿をもってきた。
トマトソースのパスタとグリーンサラダ。絶賛、ひとり暮らしの男子には思いつかないメニューだ。
「前に買ったのがあったから。飲むだろ?」
「うん!」
パスタを食べ終わって、2人でワインをのみながらだべっている。
「まったく白ワインなら冷やしておきなさいよ」
「さーせん」
「普通のコップで氷入り。風情ないな~」
「おれにそんな期待するなよ。つまみのチーズはあるだろ」
「そういうところ、学生時代から本当にかわってない。まったく、あいはどうしてこんな男に惚れたんだろうね」
「おれには出来すぎる彼女です、ハイ」
「わかっているならよろしい」
ワインもおおかた飲み終わったところ、外から水音が聞こえてきていた。
「降ってきちゃったね」
「本当だ、すごい音がする。ゲリラ豪雨かもな」
「いやだなー」
「悪いな、雨宿りしていけよ」
「そういえば高校のときもこういうことあったね」
「そうだっけ」
「そうそう。たしかふたりで帰っていて、急にどしゃぶりになって」
「あったかもな。公園の屋根付きベンチに避難したときだろ」
「それそれ。なつかしいね」
「あの時は焦った」
「うん。でも、楽しかった」
「楽しかった?」
「そう。世界がふたりだけのようになったようなきがして。なにか特別な感じ。あそこで将来のこととかいっぱい話せたし」
「詩人だね」
「そうかな。今もそんな感じがする。今日は泊まっていっちゃおうかな」
「えっ」
「なんて顔してるの(笑)。冗談だよ。そんなことしたら、あいに顔向けできないし」
「だよな」
「そう、冗談」
その後、2時間ほどで雨はあがり、佐藤は帰っていった。
その時の彼女の表情は、雨が降っていた時よりも少し淀んでいたような気がする。
<3日目>
昨日は酔っていて、変なことを言ってしまった。本当に何をいってしまったのだろう。ドアを開けるがすこしこわい。彼と会うのが、こわい。
「ただいま」意をけっしてドアを開けた私は、冗談っぽくなかにはいった。
「おう」
「いよいよ、今日が最終日だね」
「明日にはあいが帰ってくるのか。早く会いたいな」
「ごちそうさま」チクっと胸が痛い。
「今日はなにを作ってくれるんだ」お茶を飲んでいたら、彼が聞いてきた。
「餃子にしようかと思って材料を買ってきたよ」
「おういいな」
「でしょ。ビールも昨日、冷やしておいたし」
「あれ、そういうことか」
「そういうこと。包むの手伝ってね」
「わかった」外は日が傾いている。もうすぐ夕方だ。
「相変わらず不器用だね、あんた」ゴワゴワになった餃子を見て、思わず吹き出してしまう。
「大きなお世話だ」
「高校時代の文化祭準備でも酷かったよね」
「思いだすなよ」
「おばけやしきの時さ、段ボールがまっすぐ切れなくて、安田くんに馬鹿にされて」
「おい、やめろ」
「教壇の前で、みんなにさらされて」
「ぐああああ」
「本当に変わらないな、この餃子」ありえたかもしれない世界を夢見ながら、私はつぶやいた。
「ずっとこうだったらいいのに」
「やっぱり、夏はビールと餃子だな」彼が満足そうにつぶやく
「だよね。この組み合わせ最高」
「もう大満足」
「よかった」
ご飯を一通り食べ終わったところで私はすこし意地悪をしたくなった。
「ところで、あいとはどうするの?先のことちゃんと考えてる?」パンドラの箱を開けた気分だ。
「あー」
「社会人4年目でしょ。そろそろ、おちつく人はおちついちゃうし」
「だよな……」
「そうそう」
「もうすこし結論までは、時間かかると思うけど」
「……」
「あいとはずっといっしょにいたいと思っているよ」
「そっかぁ(もう結論でてるじゃん……)」わかっていた結果をみせつけられてしまう
「なんかはずかしいな」
「いいじゃん、ラブラブで」
「まぁラブラブだよな」
「ほんとうに妬けるな~」これは本音だ
「それじゃあ、今日はもう帰るね」
「おう3日間ありがとうな」
「いいえ~。あいが帰ってきたら、今度3人でどこかいこうね」
「おう楽しみにしてる」
「じゃあ、お幸せに」
空をみあげたら、満点の星空だった。
ドアを閉じて、私はつぶやく。
「いじっぱりだな、私」




