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異世界を彷徨う小学生 ~とある学童の拳と足跡~  作者: 黒雁 田鉚
第1章 少年が見た夢の先
9/23

1章 7 ある男の終わりとある少年の始まり

あらすじ


最早まともに動けぬ小太り男から凩は意を決して『聞き取り調査』をし

この世界の現状と容易に戻れぬ事実を知る

ショックを隠し切れぬところに小太り男の所業をさらに知ってしまい激怒

そして感情に任せたトドメを刺すに至った

小太り男が部屋の隅に捨てられている

両腕だけでなく両脚もあらぬ方向に曲がっている

男が気絶した後も凩の怒りは治まらず両脚を折るに至った


それ程の怒りであるにも関わらず、直接的に命に係わる箇所には極めていない

命を奪う行為は骨身に染みて嫌悪感があるようだ―――

―――あるからこそ気付いてしまった



凩が後頭部をぶつけて破損させ液体が漏れでた機械

先程から妙に気になる


かつて水銀が乾電池に使われていたように、機械に含まれる液体は猛毒である場合がある

現在は安全性の観点から極力使われない努力がされているが、それでも完全とはいえない

さらに言えばここは異世界

現在でも他国なら大きく価値観が変わるというのに、異世界ならどうなか解ったものではない



断片的ながらその辺りを聞いたことがある為、凩は念を入れ警戒する

この荒野で水を大量に使うのは正直いただけないが、背に腹は代えられない

幸い凩の髪型は坊主とまではいかないが非常に短いので洗い流すに苦労はなかった


因みに、側頭部に比べ前頭から頭頂後部にかけ少しだけ毛足が長い為

学校ではモヒカン呼ばわりされている

名付けるなら『スポーツモヒカン』とでも呼ぶべきだろうか



だが、洗い流しただけではまだ不安がある

『気は進まないが例のノートを読み手掛かりを探すしかない』そう判断し凩はノートを読み始める

本来であればあの男に訊くのが一番かもしれないが生憎男は『熟睡中』

起きたところで暫く『寝ぼけている』可能性も高いだろう


だが幸運にもその液体に関する記述はすぐに見つかった



凩は自他ともに認める『凄まじい悪運強さ』を持っている

遠足に行けば『ゲリラ豪雨に遭遇するも偶々屋根付きの休憩所にいた』とか

宿題を忘れれば『宿題内容にに不備があり、提出期限延期』とか

鼓桃とケンカすれば『呉越同舟と言わんばかりに他のクラスメイトの仲が好転する』とか

(大人から見れば大した事には見えないが)様々なエピソードを持っている


そんな彼が最初から幸運を手にすると・・・?

『天女と見紛うばかりの優れた容姿を持つ美少女の一番身近な存在になる』『だが現在は事実上の宿敵』

『優れた体格と指導者数に恵まれ、自身にも武芸の才と興味がある』『だから周囲から遠慮されない』

『凄まじい悪運強さを持っている』『トラブルに巻き込まれる回数も凄まじい』

と、ろくでもない事にしかならない


正に『禍福は糾える縄の如し』



そんな凩が『幸運にも』すぐに目的の記述を見つけた・・・という事は




「~~~~~~っ!!」

驚愕・拒絶・吐気

凩は人生経験が足りない、いい意味でも悪い意味でも


「い・・・いや、まだそうと決まった訳じゃない」

口先から出る必死の言葉

「確認すればいいだけだよな?」

口にした言葉を肯定する為、ノートに書かれた内容と自分の理解を否定する為に自身が壊した機械の内部を確認する


震える手で壊れた機械上部の上蓋を取る

見えたものは多節の骨とクルミに似た形をする10cm程度の大きさの物体

そしてそれらや機械内部の壁に繋がる様々な太さの柔らかな線と脈動する―――

いや、今まさに止まったか?―――脈動していた赤黒い物体


これ以上の否定は困難だ

だがモノがモノだけに必ずしも『今直ぐ』『真正面から』受け止める必要もない

時間をかけて消化し認めていくのが健全だろう


機械の正体だけだったら凩もそうしただろう

だが、凩はそれ以上のモノを見て・・・いや、やってしまった

機械を完全に沈黙させたのだ



大きさからして恐らく自分と同じくらいか、やや上か

形が変わったとはいえ、つい先程まで間違いなく動いていたのだ

それを故意でないとはいえ自分が壊し、止めた


足元からゾワゾワとした不快感が広がる

まるで血が砂粒となりザリザリと音を立て駆け巡っているようだ

口が渇きすぎて痛い、視野が狭まっていく、雑音がトンネル内の様に何かが響く様な音に掻き消される


思考すらできぬ、ただ棒立ちするのみ

声を掛けてくれる存在など誰もいない



これを凩が異世界に踏み込んでからまだ一刻程しか経たぬ間に経験してしまった


今日は色々起き過ぎた

少年に耐えられる道理などなかった






この世界に来た時すでに傾き始めていた陽がさらに傾き空が銅色に染まり始める

真横から光が差し込み、外の気温は大分下がってきているのか隙間風が妙に冷たい

目に飛び込む光と頬を撫でる風に凩の意識はようやく覚醒する


『危めた』その事実は変わらないし相変わらず圧し掛かるが

一時前の様に度を失う事はもうない



最悪ここで暫く過ごす事になるだろうと思い既にあの時、家や部屋のある程度の事は既に聞いてある

鍵を外し外に出る

その腕には鋤と壊れた機械が抱え込まれている


とても静かな表情で穴を掘り、その中に既に冷たくなっている機械の中身を丁寧に納め再び土を被せる

「この国の風習も知らないし、この程度しか出来ないですけど」


形のいい少し大きな石を置く

「願わくばせめて安らかに」


正対し姿勢を正す

「そして次があるというのであれば」


手を合わせ目を瞑る

「どうか幸運を」


それに応えるかの如く一陣の風が通り抜け完全に日が落ちた



長い瞑目を解き顔を上げた時、既に辺りは夜の帳が降り始めていた

荒野の夜は寒い

遮る物なく水辺もない為、保温性が極めて低いのだ


凩は部屋に戻ると何かを整理し始めた

しばらくして再び外に姿を現した凩は大荷物を携えていた


この気温、半雪男である凩にとっては好条件。それでもこの大荷物は重そうだ

だが、この荷物を諦める気はないようだ



まだ上がりきらない月が荒野に銀色の道を作る

こんなにも明るいとは知らなかった。元居た街では体験できなかった光景だ


〔この世界に歓迎でもされているのか?〕

奇しくもこの銀の道は聞いておいた町への方向と同じだ

凩は銀の道を辿り歩き始める


まるで御伽噺の一場面のようだ

ならば凩は差し詰め物語の演者、その身で御伽噺に触れ満喫する事になるだろう

オブラートに包まれる事のない直の御伽噺を




―――――――――




見渡す限り石ばかりの風景、まさに荒野

砂漠といえば粒子の細かい砂で覆われている印象が強いが

学術的には石、つまりつぶてばかりのこの地も砂漠に分類される

むしろ『砂砂漠』より、このような『礫砂漠れきさばく』の方が多いと言われている



そんな礫砂漠のど真ん中に町がある

ここは交易・物流等の中継地点、様々な人が行き交い羽を休める旅の町

このような土地柄故、酒場は常に繁盛している



そこへまた新たな客が足を踏み入れた。その客は酒とはまだ無縁であろう小柄な少年だ


だがそんな事気にならない程異様な姿だ

何しろそんな小柄な少年でありながら自身の倍はありそうな上、四肢を折られた男を担ぎ上げているのだから

そんな光景を目の当たりにし不意に静かになった店内に少年の声が響く



「マスター、賞金首の引き渡し・・・ここで合ってますよね?」



少年は静かな表情だ

そして深く強い覚悟を決めた目をしている



<千ヶ瀬 凩>青春を知る前に異世界にて賞金稼ぎになる


短いですがここで第一章本編は終了

本日中にエピローグを投下します


それで大体目標の4000字程度って事でよろしくお願いします

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