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吉岡綾乃は魔女をやめたい  作者: 椿 雅香
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魔法使いのクラス

Ⅱ 魔法使いのクラス


四月から私がお世話になる学校は、オカンの母校でおばあちゃん家から徒歩十五分だ。

電車にも乗らず、歩いて通学するって、ちょっと驚きだった。

もっとも、田舎の電車通学は大阪の電車通学とは全然違うらしい。

聞くところによれば、電車を一本逃したために家に着くのが一時間以上遅れるというのはザラのようだし、下手すると、通学でヒッチハイクする生徒までいるという。

制服姿の高校生が親指立てて、「へい!○○高校(もしくは、◯◯駅)まで乗せてって!」と、ウインクするんだろうか。

大阪でも、幼なじみの愛美ちゃんは歩いて五分のごく近い高校(信じられないことに、高校が家の真裏にあるのだ)に進学したから、たまたま私と達也くんが電車通学――ラッシュ時には二~五分間隔で電車があって、一本や二本遅れても悠々セーフだ――だったというだけなのかもしれないけど。

とにかく、私は着慣れた紺のブレザーを脱いで、いかにも田舎じみたセーラー服を着ることになった。

紺のセーラー服に何故か紺のスカーフで、デザインが気に入らない私には気が重かった。しかも、そのうち夏になって分かったことだが、夏は襟が暑苦しくて、何の因果でこんな不合理な服を着くちゃならないのか、と情けなくなった。つまり、この学校の夏服は、身頃が白で襟が紺のセーラー服なのだ。紺の襟は太陽の放射熱をまともに集め、熱効率という意味じゃ最悪だ。

北陸は大阪ほど暑くないので、学校にクーラーなんか付いていない。でも、最近の夏の暑さを考えれば、クーラーは必需品だ。温暖化で昔の夏とレベルが違うのだ。

大阪ではクーラーのある生活が当たり前と思っていたから、クーラーのお世話にならずに夏を越すのは狂気の沙汰だと思った。ましてや、このセーラーカラーの暑苦しさを考えれば、不合理の極みだ。

 当然、おばあちゃん家にもクーラーなんかついてない。窓を開けっ放して寝るのだ。私とおばあちゃんだけの女所帯だから物騒だと言ったら、こんな田舎に物騒なことは起きない、と、涼しい顔で言われて付いてけなかった。

そういえば、子供の頃遊びに来た時も、窓を開けっ放しにして寝てたっけ。

しかし、クーラーをめぐっておばあちゃんと言い合いになったのは夏になってからで、三ヶ月ほど後の話だ。



 編入試験の日、三月なのに雪が残っていた。ここは北陸なのだ、と教える雪と特有のどんよりした空は、私に、覚悟しろ、と言ってるようだった。

って、一体何を覚悟しろって?期間限定(二年)でおばあちゃん家に住むだけだ。しかも、電車もありゃ、スマホやパソコンだってある。いつでも達也くんや美加と連絡とったり、会うことができるんだ。

通り一遍の転校手続きを済ませて、始業式の日に初登校した。

転校生ではあったが、そもそも学年が上がってクラス替えがあったばかりだ。どの子も初めてっていうか、知り合いもいるという程度で、簡単な紹介で新しい毎日が始まった。

初登校の二日ほど前の夜、私は奇妙な夢を見た。

私はセーラー服を着ていた。こっちの制服だ。でも、スカーフの色が違うのだ。本当なら紺色のはずなのに、鏡に映ったスカーフは虹色だった。朝の光を浴びて七色に輝くそれは、紺色の制服に映える不思議な色だった。

何となくその色に心を惹かれて、よくよく見ようと目を凝らすと、場面が転換して、教室の前に立っていた。

傍らに教師とおぼしき大柄の女性がいて、優しげな眼差しで言うのだ。

「大丈夫。心配いらないから。分からないことは周りに訊いて、なるべく早くこちらのやり方に馴染んだら良いのよ」

「馴染むって?」

「この学校は、いろんな意味であなたの知ってる学校と違うから」

ふわりと笑って、教室の戸を開けた。

驚いたことに、ここの教室は木造で、木製でガラスをはめ込んだ年代物の戸を開けると、床は磨き込まれた木、天井も木だった。

宮沢賢治に出て来そうな昔の学校で、不思議な既視感を感じた。

二十人ほどの生徒が座っていて、一斉に私を見る。待てよ。クラスの人数が二十人って、どういうことや?ここって山の分校なん?

男子は学生服だ。ボタンが虹色に光っている。女子はセーラー服に虹色のスカーフを結んでいる。

一口に虹色といっても、赤の強い子、黄の強い子、緑の強い子とそれぞれ違いがあるようだ。

私のは何色が強かっただろう?確認しようとした時、誰かが言うのが聞こえた。

「すごい!この子、パーフェクトだ」

生徒達が互いにつつきあって、ささやき合う。先生が手をたたいて制した。

「皆さん、静かにしてください。転校生の吉岡綾乃さんを紹介しましょう」

私を振り返って頷いた。

「吉岡さん、ご挨拶して」

転校って最初が肝心なのだ。せいぜいなめられないようにしよう。

緊張で声が震える。

「吉岡です。父が海外へ転勤になったので、おばあちゃんの家にお世話になることになって、大阪から来ました。よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げると、先生が席を示してくれた。教室の真ん中に空席が二つあって、その窓側の席に着くように、と言われる。

普通、転校生の席って教室の端っこって相場が決まってるものなのに、ここでは真ん中に用意してくれたようだ。サービスの良いことだ。

席に着いて、驚いた。いつの間に、しかも誰が書いたんだろう?黒板には大きく私の名前が書かれている。先生は黒板に寄り付きもしなかったのに。



「でね、ものすごーく変な夢見たん。緊張してるからやろか?」

電話口で甘えた声を出すと、達也くんが訊いてくれた。

「変な夢って、どんなん?」

「あのね。私が転校するん」

「まんまじゃねぇか」

「でもね、行った先が奇妙なん」

「どう奇妙なんや?」

「何か、校舎が木造みたいで、壁に腰板って言うん?あれが張ってあって、しかも、それに茶色のペンキが塗ってあるん」

「どっかの古い学校みたいやな」

「そうなん。宮沢賢治みたいなん。でも、何か、デジャヴいうん?既視感があって、前にも来たことあるみたいな感じがするんや。

で、女の先生が私をみんなに紹介して席に着くんやけど、みんなしてジロジロ見るんや」

「転校生はジロジロ見られるもんや」

「でも、何となく、対抗意識持ってるみたいな目つきやった」

「あほ。今時の高校生は受験があるから、誰でも対抗意識持つんや」

「そやけど……」

「お前、よっぽど転校するのが怖いんやな。そやから、そんな夢見るんや」

「そうやろか……」



 その後、オカンの母校へ初登校し、この学校が真新しい鉄筋コンクリート四階建で、冷房はともかく暖房も完備していることを知った。

夢は逆夢、現実と夢は違うのだ。でも、何となく、あの木造校舎が懐かしいような気もした。



 一週間ほど日を送り、友達もできた。大阪から来たおもろい子というイメージが先行したせいだろう。私の周りには、女子がちらほらと集まるようになった。

大柄でふくよかな今井恭子、可愛い系でクリクリした目の小林真美、真面目なクラス委員長の長野貞子などなど、みんなそれぞれ親切で、変な夢を見るほど緊張していた私には救いだった。

電話でオカンに話すと、

「そりゃあ、大阪の子はおもろいし」

と簡単に納得された。おいおい、簡単に納得するんじゃない!あんたの娘やろ。

「そやけど、誰も相手にしてくれへんより、いいやない?」

一体誰のせいで、こんな苦労をすることになったと思ってるん?そもそも、旦那の転勤に娘を見捨てて同行する母親っておる?



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