夜の会談
「このたび、ソルディア家の当主の交代を伝えに参りました。そしてもう一つ……あなたと、取引をしたい。イルローガの若き国王、ルシル・J・イルローガ殿」
そう言ったセリスは、ルシルの反応を見た。
イルローガ王国の若い国王は、驚いていた。
ただただ、私を見て驚いていた。
「君は、セルシアスさん?」
「私を……知っているんっ、いるのですか?」
国王が名前を知っているなんて。
……まさか、今回の計画がばれていた?!
慌てて周りを見ても、誰も居ないし、大丈夫そうだ。
「あ、あの。私は貴方を殺しに来たのじゃないのです。その、本当に、取り引きがしたいだけで……」
「取引……その内容によっては、ですけど?」
何故か苦笑されながら言われる。
「……な、内容は、簡単です。私に、真実を探させて下さい」
「……」
「なぜ、ソルディア家が反逆者として処刑され、抹殺されなくてはならなかったのか。誰が、ソルディア家を嵌めたのか。それを調べさせてほしいのです!そして、汚名返上を……」
ソルディアは反逆などしていない。
身内同士で殺し合いなどしない。
ソルディアは嵌められたのだ。
誰に?
それを知りたい。
何故?
母が、最期までずっと後悔していたことだから。
43代目当主として、あの悲劇を止められなかった。
追放された身では調べることもできない。
子どもの頃から、悩み続ける母をセリスは見ていた。
そして、知っていた。
「ソルディア家を、復興させるためにっ」
母が、ソルディア家を復興させたいと願っていたことも。
「……行くあてはあるのか?」
「へ?」
予想外の言葉に、変な音を出してしまった。
「調べると言っても、拠点でもなんでもないとだめでしょ?」
「えっと……一応、アデルシアさんのもとで、今は過ごさせてもらってるん、のですけど」
「そう。えっと、十六歳だっけ? エルディス学園にでも入ったらどうかな?丁度アデルシアは教師として仕事してるし。そこなら、何かしら情報も得られるかもしれないし、ここから近い」
うん、良い案だ。
自分で納得して自分でほめていた。
「あ、あの、それって、いいって事ですか?」
「そうだよ、セリス。こう見えても、『知ってる』側だしね」
ソルディア家が反逆を企てた時、まだルシルは王に即位をしていなかった。
しかし、その詳細を一応は知っている。
ソルディア家の反乱について、疑わしい事があることや、当時の生き残った魔術師や当主が反逆を否定したことを。
「ただし、今学園で不穏な動きがあるという連絡があった。もしかしたら、近いうちに事件が起こるかもしれない。それに、対処してほしい」
「え、でも」
「君はソルディアの魔術師。しかも、当主になるほどの実力を持っている。そうだね?」
「……はい」
既にほとんどの使い手がいなくなっているとはいえ、当主となったセリスは実力者だ。そうでなくては、当主だなんて名乗らないはず。
そう検討をつけたルシルは言った。
「君に、エルディス学園を守って欲しいんだ」
「……は、はい」
「ほら、もう誰かが来るかもしれない。早く戻りな。アデルシアにはこちらからも連絡する。あと、学園の事はこっちから手をまわしておくから」
「はいっ! ショーマ、行こうっ」
そう言って、セリスはショーマと一緒に城から逃亡した。
一人残された部屋で、ルシルは呟く。
「最後の、ソルディアの魔術師か……」
その声を聞く人はいなかった。
その真意を知る者は、そこに居なかった。
窓から見上げた夜空に、月が寒々とその存在を誇張していた。
「……オルハを呼ばないと」
その後、すぐさま呼ばれたオルハは、学生にもかかわらず朝までルシルにこき使われたのだった。
その日、睡魔と戦い簡単に負けてしまったオルハはホームルームの後に会うこととなる。
ソルディア式魔術の最期の使い手、セルシアス・ソルディア――セリスと。




