エピローグ
ソルディア家に生き残っている魔術師は、一人だけとされている。
当主だったセシリア・ソルディア、唯一人。
書類上も、そうされている。
しかし、事実は異なる。
それは、セシリアの子どもの一人。
まだ、幼い少女。五つにもならない子どもがいたのだ。
セシリアは永久凍土に追放された。
そこに、その少女も連れていっていた。
自分の使い魔と共に
セリスが物心ついた時、すでに永久凍土に居た。
ずっと、一年を通して変わらない氷に閉ざされた世界。
いるのは母親とショーマだけ。
そして、時折食料やなにやらを持って来るアデルシアのみ。
どうしてなのか、十になるまで教えてはもらえなかった。
それまで、ずっと魔術について習わされた。
本だけはいっぱいあったから、ずっと本を読んで知識を増やした。
そして、ソルディア家の悲劇を語られた。
無念だと、言葉に出して言われた訳じゃない。
セリスは追放された訳じゃないから、もう少し大きくなったらアデルシアにお世話になって違う国に行きなさい、とか、貴方はここから囚われなくていいのだからどこか遠い国に行きなさいなんて、言われた。
「でも、でも、私は悔しかったの。だから、わざわざイルローガに戻ってきた。それで、調べようと思ったの……本当のことを」
そう、本当の事を。
オルハとアルク。彼等に。
フレイアはいない。
あれから、数日がたった。
その間、何度も城に呼ばれたりいろいろ尋問を受けたりしたけれど、最終的にはアデルシア先生の計らいでこの学園に戻ってくることが出来た。
そして、ようやく落ち着いてきた今日、図書室でオルハ達に本当のことを話していたのだ。でも、フレイアとはまだ何も話していない。
避けられている、ようだ。
一応、私がソルディアの魔術師であることはあの時現場にいた王様と騎士の人や魔術師の人、そしてオルハとアルク、フレイアしか知らなかった。
「捕まるかもしれないのに?」
「うん……でも、知りたかった」
貴方は違う国に行って幸せになって。
そう、最期に母は言っていた、けれど、それでも。
母が死んだのは三ヶ月ほど前だ。
病気で、あっけなく。
それを知ったアデルシア先生が落ちつくまで家に、とイルローガに連れて来てくれた。
本当はすぐに違う国につてを辿って行くはずだったが、国王に直談判なんてまねをして、この学園に来ることになったのだ。
「でも、ショーマは……魔族だよね?」
オルハは面白そうに言う。
ショーマが魔族。それはアデルシア先生とルシル国王様とオルハ達しか知らない。
さすがに魔族が使い魔だなんて他の人にばれたら大変なことになる。
「うーん。それが、良く覚えてないけど私が拾って来たらしいの。猫だと思って」
「ちょっ……」
猫と間違えて魔族を拾ってきました。それは……あまりにも……。
と、オルハ口を開けて驚いている。
アルクの方はいつも通りだ。
視線はおのずとセリスの足元に丸まっている赤猫の元に行く。
一応、人々に畏れられる魔族のはずなのだが、今の姿は可愛らしい愛玩動物にしか見えない。
「それで、お母さんといろいろと話して、最終的にお母さんの使い魔になったらしいんだけど、良く知らないんだよね……」
ショーマは魔族なのに、なんで人間の使い間になったのか、今でも解らない。
どうしてこんなに優しいのか、ふと気になることがある。
けど、小さい頃から兄のように、家族として暮らしてきたから最近はまったく考えていなかった。
「にゃぁ」
「ショーマ、わざと鳴かなくていいよ」
「えー、セリスちゃん、猫好きだろー?」
「……実はショーマ以外の猫って見たことないんだけどね」
凍土に猫なんていなかった。
凍土からイルローガ王国に来たけれど、この学園とアデルシア先生の家にしか行ったことが無いから本物の猫を見たことが無いのだ。
「つまり、俺様が好きってことだから、解ったか、クソガキども」
なぜかオルハとアルクに向かって威嚇をしている。
ぽんっと頭を軽く叩いておいた。
「それにしても、驚いたよ。魔術は苦手なのかと思ってたのに、まさかあそこまで強いなんて」
「イルローガ式魔術は未だに発動しようとすると爆発しますが」
「うっ、そ、それは……」
実は、未だにイルローガ式の魔術は使えるようになっていない。
毎回失敗している。
あの日の魔術を操っていた姿は嘘だったのかと思うほどに。
でも、それは仕方ないのだ。
イルローガ式魔術とソルディア式魔術、この二つの魔術は根本は同じなのだが、発動するための手順が違う。
ソルディア式の魔術で馴れている私は、イルローガ式魔術の理論は解っていても魔術式の展開途中でずれてしまって失敗してしまうのだ。
それに気づいたのは、実はつい先日だったりする。
「お前ら、セリスちゃんはすごいんだぞ。ったく、散々馬鹿にしやがって」
ぶつぶつとショーマが文句を言っている。
が、本当にイルローガ式魔術はてんでダメなのだが。
「確かにすごかった。普通に、先生たちでも勝てなそうなほど」
「そ、そんなこと、ないよ。さすがにアデルシア先生には勝てる気がしない」
「それは、まあ」
「あの御方は……」
オルハは視線をそらし、ショーマはガタガタと震えている。
一体、なにがあったのだろう。
まあ、なににしろ、イルローガ最高の魔術師なんて言われているような人だし、今の私じゃ相手にならないだろう。
「それでも、無演唱でどんな魔術も使えるなんて……相対した人からしたら恐怖だよな」
「一応、発動するための過程はあるんだけどね」
「あの戦いを見た限り、わかんなかったよ」
「それだけセリスちゃんがすごいんだよ。解ったかクソガキども」
「ショーマぁ、ちょっと後でお話ししよっか」
「え? セリスちゃんと二人っきりでお話しっ!? ちょっ、俺様ハイテンションになるんですけどっ!!」
「……」
ダメだ。
怒ろうと思ったのに、逆に喜ばせてしまった。
この子、どうすればいいのだろう。
「さて、そんな冗談は終わりにしといてだな、セリスちゃん……」
「ど、どうしたの?」
いつもは見られない、ショーマの真剣な視線にどうしたのかと身構えてしまう。
オルハとアルクもどこか応戦体勢だ。
「さっさと話して来い。あそこに居るから」
「え――?」
図書室の出入り口の近くで、金髪の髪がちらちらと見えていた。
「……」
無言で立ちあがる。
そして――。
ウィドール大陸。
魔法が栄え、魔術が盛んだっただったはずの、大陸。
その大陸にあるイルローガ王国には一つの魔術学園がある。
その学園では今日も、若い魔術師の卵たちが勉強に励んでいた。
これにて本編は一応終了となります。ありがとうございました!
が、久しぶりに読み返していてどうしても過去話を書きたくなったので、少しだけ外伝が続きます。
ショーマとセリスの昔話になる予定です。




