義烈是貞最後之場
さて本日お目にかけまするは、義烈是貞最後之場。
時は戊辰、雲は戦にちぎれ、血は義に染むる乱世の一コマ。
一命をなげうちて味方を救い、敵陣もろとも天を衝いて散ったる豪の者、是貞が一代の見せ場にござります。
―――味方は潰えんとし、敵は潮のごとく押し寄せ、天地もここに尽きるかと見えたその土壇場。
群れのうちより、すっと歩み出たる一人の男あり。名をば真壁是貞。
面色さらに変ぜず、怨み言ひとつ申さず、ただ静かに爆薬をかき抱えた。
見よ、その足取りの乱れぬこと、まるで死地へ赴くにあらず、定めの道を帰るがごとし。
敵はこれを狂気と嗤い、味方は思わず息を呑む。されど次の刹那でございます。
轟然一発、山河も裂くるかと思わるる大音響。土煙天を衝き、敵兵どもは木の葉のごとく吹き散った。
是貞が身はその場に砕けようとも、その死ひとつにて味方は生き、退路は開け、敗は勝へと姿を変えたのでございます。
ああ壮烈、ああ無惨。されどこれは犬死にではない。義に殉じ、友の命を明日へ渡したる、まこと見事な最期。
その名は消えぬ。葛野に風あるかぎり、是貞是貞と、末の世までも語り草となりましょうぞ―――
さて諸君、ただいまご覧に入れましたるは、
戊辰の風雲急を告ぐる折、義に殉じて身を砕いたる一丈夫、是貞最後の一段。
その身は爆煙のうちに消え失せようとも、
その志は消えず、その名は朽ちず、
味方を救いたるその一念は、葛野の山河とともに末長う残るのでございます。
ああ、花は散ってこそ香を留め、人は死してこそ節を顕す。
是貞が最期、まことに壮烈、まことに見事。
さらば諸君、今宵はこの義の人に、しばし黙して心のうちに拍手を送ろうではございませんか。
これにて一席、義烈是貞最後之場、相勤め申しました。
「ふん、かなり話を盛られたもんだな是貞、あそこまで結構な英傑に仕立てられては、くすぐったかろう。だが、死に場所を違えず、味方のために命を使い切ったのは事実。おまえは馬鹿だ、たいした大馬鹿者だったよ、のう是貞」
寒風吹き荒む中、演芸場を後にする初老の男、そう呟くと腰のサーベルをカタカタ揺らし雑踏へ消えていった。
第一部 完




