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ガチ恋っ!!ってことで  作者:


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5. ヴィルノアという人①

 もう記憶する限り幼い頃からベットの上で過ごすことの方が多かったように思う。何かと熱を出し風邪を引きと、二人の兄上が元気に動き回っているのに、僕だけは部屋のベットの中で過ごしていた。

 二人の兄上達は僕に優しい。それが嬉しかったし、そんな兄上達が大好きだった。兄上達は勉学においても剣術においても優秀で、それは僕の自慢でもあった。

 部屋に籠らざるおえない僕のところにもよく訪ねて来てくれた。嬉しかったし、楽しかった。


 その反面で体の不調とは無縁の兄上達が羨ましくもあった。


 何かにつけて熱の出るこの体が恨めしく思えた。だから5歳くらいには何事も諦めるようになっていた。そして諦めは喜怒哀楽があまり表に出ないといった影響を僕に与えた。


 あの本来ならフェリシアと出会えるはずだったお茶会も体調を崩しベットの上にいた。どんなに悔やんでも決して戻ることのないあの日だ。


 初めてフェリシアと会ったのはあのお茶会から一週間くらい経っていた頃だ。


 マーガレットの花のようだと思った。焦げ茶色の滑らかに光る髪、好奇心に満ちたルビーのような瞳はキラキラ輝き、柔らかそうな口元は微笑みを称え、発する声は明るい色をまとっている。彼女の周りにきらきらと光の粒が舞っているようだった。目を逸らすこともできず、時間が止まってしまったようだった。トクン、トクンと響く鼓動に僕は彼女が好きなんだと自覚した。それと同時に彼女が欲しいと思った。


 思わず口にしたのは告白以外の何物でもない。好きですと、それはストレートな言葉であったはずなのに彼女には伝わらなかった。それどころか『将来の弟』と言われた。弟、おとうと、オトウト?頭の中でぐるぐるとその言葉が回る中、母上が言った。フェリシアは兄上の婚約者だと。母上の言葉は僕の想いに先がないことを教えてくれた。


 あんなに心が動いた日はなかった。


 一目でフェリシアを好きになり、すぐ告白、そして5分と経たずに失恋。まず恋に落ちたことを自覚した自分に驚いた。次に何のためらいもなく気持ちを口にしたことに驚いた。そして決して手に入らないことに絶望した。心の底から欲しいと願った気持ちは数日経っても消えることはなく、一層強くなる一方だった。


 そんな時、エリック兄上と楽しげに話すフェリシアを見かけた。屈託なく笑う彼女はかわいく、幸せそうだった。その時、僕の想いはこの笑顔を曇らせるのではないかと気付いた。この笑顔を守るためなら、かわいい弟でいいと、そう思った。エリック兄上は優しく自慢の兄だ。きっと彼女を幸せにしてくれるだろう。そうだ、彼女が僕を弟と思っていてもいいじゃないか。近くには居られるのだから。


 僕の想いは一生彼女に捧げよう。


 決して届かなくていい。

 優しい彼女が心を痛めるなら僕の想いは気付かないでほしい。


 彼女の笑顔を守っていこう。

 彼女のかわいい弟として。


 その日から僕は変わったと思う。


 体調を崩してお茶会を欠席した僕を彼女は心配していたと聞いた。心配させていたら彼女の笑顔は守れない。だから少しずつ運動をし始めた。最初はちょっと運動をしただけでも熱を出していたが、徐々に体力がついてくると熱を出すこともなくなった。そして剣術の鍛錬もできるようになり、兄上達と剣を交えられるようになった。


 勉学も兄上達に追いつこうと頑張った。ベットの上で過ごすことが多かった為、遅れていた勉強も体力の向上とともに取り組めるようになっていった。


 王子妃教育で週に何度か王宮を訪れるフェリシアが王宮図書館でよく勉強していると知り、時間の許す限り図書館に通い詰めた。彼女と会える機会を1分でも作りたかったから。待っている間は片っ端から本を読んだ。そのおかげで知識も増えた。


 ある日、いつものようにいつ来るとも知れぬ彼女を待ちつつ、異国の文化を紹介する本を読んでいた。その日はラッキーなことにフェリシアがやってきた。

「こんにちは、ヴィルノア。今日は何読んでるの?」

「やあ、フェリシア。異国の文化を紹介しているのだよ。ハルトワール王国とは全く違う文化で興味深いんだ。例えば、愛称。僕らの国では名前の最初の部分を切り取って呼ぶだろう。僕ならヴィルとかヴィー、フェリシアならフェリとかフィーとかね。でもこの本で紹介している国では名前の後ろを取るんだ。

僕ならヴィルノアだからノア、フェリシアはシアだね。」

「全然違うのね。ノア、かわいい響きね。ねっ、ノア。」

フェリシアは悪戯っぽく僕に微笑んだ。

「そうだね、シア。」

僕は小さく笑った。

「ねぇ、フェリシアが気に入ったなら、これからシアって呼んでいい?」

「いいわよ。私もノアって呼ぶわ。」

「うん。僕だけがシアって呼ぶでいいかな?僕もシア以外ノアってよばせないから、ね。」

僕はお願いと首を傾け、上目遣いでフェリシアを見た。そう小さい子のおねだりの様に。

「ふふっ、甘えん坊さんね。分かったわ、ノア。」

フェリシアはにっこりと笑った。

「ありがとう、嬉しい。シア大好き。」

「ふふっ、知ってる。」

 こうして二人の間で特別な呼び方が決まった。呼び方だけでも彼女だけが呼んでくれる特別があるというだけで僕はとても嬉しかった。


 そう、いつ会っても弟として彼女に言い続けた。『好き』って笑顔で。すると彼女は必ず『知ってる』って言うんだ。とびっきりの笑顔で。彼女は笑顔でいるのがいいよね。決して『私も好き』って言ってはくれない。それでもこれからも好きって言い続けるんだ。初めて会った時に好きって言っているんだからいくら言ってもいいよね。いつか弟としての好きじゃないって彼女は気付くのかな?僕が彼女を姉と慕っているって疑わない彼女が気付くわけないか。それでいいんだよね。


 図書館での待ち伏せで、週に一度は彼女に会えた。

 また彼女とエリック兄上は月に何度かお茶会をして交流を持つようにしていた。二人はよく僕も呼んでくれたので、三人でおしゃべりをしたりゲームをして遊んだ。


 二人が学園に入学してからはフェリシアに会う頻度は減った。それでも僕の想いは変わらなかった。相変わらず時間があれば図書館で本を読みながら、来るかもしれない彼女を待った。


 やっと僕も14歳になり学園に入学した。


 毎日のように学園では彼女に会えた。ランチを食堂で取っていたシアたちに加わり、自然と見えるようにシアの隣に毎回座っている。学園に在籍している間だけのことだから、これくらいいいよね、きっと。


 あと3年もしたらシアは学園を卒業して、その半年後にはエリック兄上の花嫁になる。そう決して手の届かない人。だから学園にいる間だけは少しだけそばにいさせて。シアが卒業したら、弟としての役割に徹するから。学園にいる間は彼女のそばにいる僕を許して、兄上。婚約者に近寄る男なんて面白くないよね。甘えてるし間違った考えだよね、こんなの。でもどうにもならないんだ。言い訳だよね。我が儘だよね。これを僕の最後の我が儘にするからさ、見逃してよ、兄上。



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