第二十二話 フラグは偉大
恐る恐る、悲鳴が聞こえた所を覗き込む。
フラグを立てたから大丈夫だと思うが……そもそも美人が死ぬはずがない、そして僕のハーレムパーティーに加わるはずなのだ。
〔絶対殺す……嫌がらせして自殺に追い込んでやる……〕
……聞こえなかった事にしよう。どうやらこの女もヤンデレの才があるようだ。どうして僕の周りに普通の女の子がいないのだ。
『魔者だな……』
「えぇ、そんな匂いがします」
魔者に襲われたのか……しかしここは六合窟だ、危険は当たり前。それにこの六合窟に来る人間なんて普通じゃないよね。よほど実力があるか、よほどアホなのか。
『六合窟に挑戦するとか言っていた奴らがいたな、なんと言ったか』
「あ~いたねぇ、あの毛がなくなった人でしょ? ……って事はあの美人じゃん!! あのパーティーの美人さん、助けなきゃ!」
金竜とか言ったパーティーにいた紅一点、あの叫び声が彼女だと分かっていたならもっと急いだのに。
――――急いで向かう僕達だったが、そこにあったのは見るも無残に変わり果てた死体。魔者に食われてしまったようだ。
「なんて事だ、まさか美人が食われるとは……」
『…………いや、よく見ろ。これは女ではない』
ヴァルの言葉で再び死体に目を向けるが……すでにグチャグチャだ、男なのか女なのかすら分からん。ごめんね気持ち悪い表現して、グチャグチャドロドロンなの。
「オルクス様、この者は本当に女ではありません。匂い、骨格……なにより気配が男です」
そう言えばウィッチにはそんな特殊能力があったね。でも悲鳴は女だって言っていたじゃない、この人の悲鳴じゃなかったって事かな?
「損傷具合や血の乾きから見て、食われたのはついさっき。先ほどの悲鳴の主かどうかは分かりませんが、確実に分かるのは死んで間もないという事です」
凄いなウィッチ、そんな事も分かるのか。僕はこんなグロ見たくもないのに……。
「つまり可能性は二つ、一つはあの悲鳴はこの男が頑張って出した金切り声だった。もう一つはここには二人以上いて、悲鳴の主は逃走した……かです」
ウィッチが教えてくれた可能性、恐らく後者であろう。
その証拠に魔者の姿がない、そして悲鳴は二回。一回目は確実に女の悲鳴だったらしいが、二回目の断末魔は女の悲鳴には聞こえなかった。
『魔者に驚き、悲鳴を上げ女は逃走、男は戦うも敗北……と言うところか』
死体の手には斧が握られていた。戦闘を行ったのは明白、逃げずにこの男は戦い、女を守ろうとしたのか。
尊敬に値する男だ、君の想いは僕が受け継ぐよ。守ろうとした人を君に変わって守ってみせると誓う、美人は僕に任せてくれ。
「……行こうか」
二人の返答を聞かず僕は走り出した、ウィッチは気の乗らない様子ではあるが、特に異論を唱える事なく従った。
こういう展開は嫌いじゃない、人助けと言えば聞こえはいいが、単純にこの圧倒的な力で助けてやると言った上から目線の優越感行動、褒められたものではない。
でも、あの男の人を尊敬に値すると思ったのは本当だよ。
≪――――キャァァァァァ!! ワ、ワンス! セカンディ! 助けてよぉぉ≫
聞こえた!! 女性の悲鳴だ、聞き覚えのある名前……やはり金竜のパーティーのようだ。
急ぎ声が聞こえた方向に走る。数秒もしない内に、僕は魔者と対峙している女性がいる区画へと辿り着いた。
「か、神喰らい……」
ウィッチの言う通り、あの神々しい気を纏った魔者は神喰らいのようだ。他の魔者とは一線を画すらしいし、急がないとあの女性もグチャグチャになってしまう!
『お、おいオル! 分かっているだろう――――』
「――――喰らえ神喰らい!! 破壊・悪業!!」
部屋全体を恐ろしいまでの破壊の力が支配する。部屋にいる全ての者を包み込んだ破壊の力、しかし影響を及ぼすのは神喰らいだけ。
ボロボロと崩れ行く神喰らい。大勢の人を喰らった業、自業自得だ、壊れてしまえ。
『…………おい、だからなんで壊すの? 神喰らいだぞ? 分かってます?』
「…………アイツは完全に壊さなければなかった、尊い命を奪ったんだ」
『絶対忘れてただろお前……』
まぁ確かに忘れていただけなんだけど、そんな事より彼女だ。
静かだから手遅れかと思ったけど、どうやら気を失っているだけみたい。顔を近づけて様子を見る、怪我とかはなさそうだし凄い美人だ。やっぱりあの金竜にいた女の人だね。
「……オルクス様、少し近くないですか?」
機嫌の悪そうな表情と声で僕を窘めるウィッチ、そんなに近くないと思うけど。
……起きるかな? ちょっと揺さ振ってみよう。
「オルクス様、私がやります。触らないで下さい」
有無を言わせぬ威圧をのせ、僕を押しのけ女性に近づくウィッチ。
バレたか……軽いパイタッチは許してもらおうと思ったのが漏れてしまったのか。しかし時々こういう強引な行動に出るよね、たまに凄く怖い。
「ほら人間、いつまで寝ているの? ……起きなさいよっ!!」
パシンッなら可愛いもんだが、確実にグーパンだった。
この女神も怒らせると怖いようだ、気を付けよう。あぁ、あの庇護欲をそそられる可愛いウィッチはどこに行ってしまったのか……。
「ゥブッッ! …………うぅぅ、う……うん? あれ、ここは……」
殴られた衝撃なのか、女神の愛なのかは知らないが、目を開けて状況を確認しだした女性。辺りを確認し安全を確保した後、目の前の美人に目を向けた。
特に慌てている様子もないが、流石は金色と言った所なのかな? まぁでも結局悲鳴を上げて逃げたのだ、金色と言うのもたかが知れているんだね。
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