人里
サーバルちゃんかわいいよサーバルちゃん
小鳥のさえずりで目が覚めた。幸い夢見は悪く無かった。そもそも夢をみなかった
スーツに着替える。ジャケットは着なくていいだろう。
部屋を出て廊下に出るといい匂いがした。匂いはどうやら台所からするようだ。
台所に向かうと八雲藍が朝食を作っていた。
「おはようございます…」
「おはよう、今朝食を作っているから少し待っててくれ」
「顔洗ってきます。顔洗った後、何か手伝うことありますか?」
「そうだな…じゃあ出来た料理を運んでくれるか?」
「わかりました」
顔を洗い、朝食を居間の卓袱台に運ぶ。味噌汁の匂いが食欲を掻き立てる。
「おはよう…ございますぅ…」
橙が起きてきた。まだ眠そうで足取りが覚束ない様子だ。
「おはよう橙。今、藍さんが朝食を作ってくれてる。顔を洗ってきたらどうかな?」
「ふぁい…」
欠伸をしながら顔洗いに行く橙。大丈夫だろうか…。柱にぶつかったりしないだろうか…
「あうっ!?」
「……………」
「橙!?ちぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
あぁ、騒がしい…
「「「いただきます」」」
なんやかんやあったが、朝食を食べはじめることが出来た。
「紫さんは?」
「紫様はいつも朝起きるのが遅いんだ。だからいつも作り置きしておいて起きた時に食べてもらうんだよ」
各々、朝食を食べ食器を下げる。久しぶりに手作りの朝食を食べた気がする。何故か懐かしい気分になった。
「いってきまーす」
「気を付けるんだよ橙」
「橙は何処に?」
「あぁ、寺子屋だよ。人里にある学校みたいな物だよ」
「へぇ…」
「今日は私も人里に行く。ついてきてくれ」
「人里で何を?」
「人里の上役と会う。それと君に人里を案内するよ」
八雲藍は微笑んだ。
人里の門の前にスキマを開き僕らは移動した。八雲藍が自分の主人を叩き起こし開かせたのだ。
人里の門には守衛が立っていた。驚いたのは守衛が銃を持っていたことだ。AK47。見馴れた銃だった。
「幻想郷でも銃を製造してるんですか?」
「妖怪の山の河童が製造してる。でも、あれは人里の警備隊が紫様に注文したものだよ。
「警備隊?」
「最近人里につくられたんだ。今日会う上役の中に警備隊長もいるから詳しいことは彼に聞くといい」
人里は時代劇のセットのようだった。和装の人が多く、スーツは若干浮いてるように見える。
よく見ると妖怪もいて人里は妖怪も出入り出来るらしい。
八雲藍が人里のある建物の前で立ち止まった。
「ここは?」
「ここは商工会の事務所だ。ここで商工会の会頭と警備隊の隊長と会う」
建物の中には二人の男がいた。五十代程の中肉中背の男と四十代程の筋肉質な男。
「お久しぶりですな。藍さん」
「久しぶりだな会頭殿、警備隊長殿もお元気そうで何よりだ」
「お久しぶりです、藍殿。彼は?」
筋肉質な男が僕を見て言った。
「彼は私の護衛だ。」
「佐山亮です。」
「そうか、藍殿の護衛か。私は人里の警備隊の長をしている岩井という者だ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「私はこの人里の商工会の会頭をさせていただいてます新田です。どうぞお見知りおきを…」
「よろしくどうぞ」
「さて、そろそろ本題にいこうか会頭殿、警備隊長殿…」
八雲藍と会頭、警備隊長は定期的にこうして会議をしているようだ。議題は人里の治安や外の世界から仕入れて欲しい物だったり様々だという。
「では今回の会議はこの辺りでお開きという事で…」
「うむ。会頭殿、警備隊長殿いつもすまないな。」
「いや、それは此方の言葉だ。藍殿にはいつも助けてもらっている…。」
「その通りでございます。藍さんのお陰で私の店も繁盛してますので…」
「そうか…。ではまた今度の会議で」
「藍さん、おつかれさまでした」
「ん…、亮か…。そんな事は無いぞ、これも八雲一家の仕事だからな…。そうだ!!これから人里を回ろう!!」
「(よくあんな長い時間会議したというのにそんなにテンション高く保てるなぁ…)」
「どこがいい?どこから回りたい?」
「あなたに任せますよ、藍さん」
「そうだな…。よし甘味処に行こう!!甘味だ!!」
「あぁ…、藍さん引っ張らないでくださいよ…(何故、護衛が護衛対象に引っ張られてるんだ…)」
「うまいー☆」
「…………そうですか…」
八雲藍は僕の隣でみたらし団子を食べてる。満面の笑みで。もしかして、僕に人里を案内すると託つけて甘味処に行きたかっただけなんじゃ…。
「うましー☆」
「………………」
絶対に甘味処行きたかっただけだな…。
「おっと、もうそろそろ時間だ」
「何の時間ですか?」
「寺子屋の授業が終わるんだ。橙のことを迎えに行く」
「わかりました。」
甘味処から五分程歩くと寺子屋があった。丁度授業が終わったのか子供達が一斉に飛び出してきた。
「藍しゃまー!!」
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
何故、八雲藍は橙の事になるとこうも…。
「あ、亮さんもお迎えに来てくれたんですか?」
「そうだね、藍さんの護衛だから藍さんが迎えに行くなら僕も迎えに行くからね」
「じゃあ三人で帰れるんですね!!」
そういって橙は僕の手を右手で握り、藍さんの手を左手で握った。
「帰りましょ!!藍しゃま、亮さん!」
「そうだな、橙」
「帰るか…」
家に帰る…。いつぶりだろうか、誰かと家に帰るなんて…。
「橙、今日は何が食べたい?」
「んー、藍しゃまが作る料理なら何でもいいですー」
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「藍しゃま、くすぐったいですよー」
「亮は何が食べたい?」
「え…?」
「だから亮は今日の夕飯、何が食べたい?」
思わず、惚けた声を出してしまった。誰かに自分の食べたい物を作ってもらう事なんて無かった。だから解答に困ってしまう。
「どうした…?亮?」
そう問い掛ける八雲藍は夕日に照らされながら、優しい笑顔で僕を見つめていた。
「…………レツ」
「え…?」
「オムレツが食べたい…」
「…………いいよ」
僕は八雲藍に誰かの面影を重ねたような気がした。誰かは、分からないけど…。




