帰国・中編
なかなかはじまらない。
「いいえ、あなたが最も得意な仕事よ。佐山亮さん…。」
目の前の妖怪は僕の名前を言った。佐山亮と。
「僕は佐山なんて名前じゃないですよ。人違いでしょう…?」
代金を払い帰ろうとする。
「惚けたって、無駄よ。」
そう言って、妖怪はカウンターに何処からともなく出した書類を置いた。
「佐山亮。元アメリカ海兵隊員、数年前除隊し以後様々なPMCを転々とする。」
「…………。」
「けど、これはダミーの経歴…。本物の経歴は、」
そう言って妖怪はまた別の書類を置いた。
「海兵隊に入隊してから二年後、アメリカ特殊作戦軍に異動。異動先はコマンドN。存在しない部隊。どんな事でもやる裏の世界じゃ悪名高き部隊ね。モサドも真っ青、今までに何人殺ったのかしらねぇ。あなたが担当していたのは、魔法使い。合衆国に仇なす魔法使いを殺すこと。そう言うあなたも魔法使い。でも順調に共食いをしてたあなたは一年前、軍をやめてPMCに行く。PMCにいっても特殊案件執行部門なんて所に配属。根っからの濡れ仕事屋ね。」
「それがあなた。なにか間違っている?」
「二つだ…。」
「え…?」
「あなたは二つ間違えてる。妖怪。一つは僕は魔法使いじゃない。魔術師だ。呼び方の問題だけど、僕は魔術師の方が気に入っているんだよ。
二つ目は合衆国に仇なすから殺していた訳じゃない。殺したいから殺してたんだよ。」
「あなた、私が妖怪だって気づいてたの…?」
「あぁ…。」
「いつから…?」
「最初から。空港に着いた時から視られている感覚がした。大方あなただろう。襲撃してくる気がないなら接触してくるかと思った。案の定、あなたは接触してきた。」
目の前の妖怪は驚いているようだったが、僕は構わずに、バーボンを流し込んだ。
「いくらだ?」
「え…?」
妖怪は惚けた声を出した。
「報酬は?どこで誰を殺る?」
妖怪は我に帰り話しはじめた。
「報酬はこれくらいでどう?」
出された小切手を見る。十分な金額だ。
「目標は?」
「明確な目標は無いわ。あなたの仕事は私の式の護衛。そして私達の障害になるものを退ける。後、私の式の身の回りのお世話。」
「期間は?」
「私が飽きるまで♪」
「…………。」
「わー!!帰らないで!!」
ダメだ、この妖怪。はやく何とかしないと…。
「はぁ…。で、場所は?」
そう言うと妖怪はまた不適に微笑み
「幻想郷よ…。」
その地の名を言った。




