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孤独詩  作者: めけめけ
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四季の死期

 太陽は照り続ける。近くなったり、遠くなったりしながらも、太陽はずっと照り続ける。

 星は瞬くことをやめない。空が淀んでも、澄んでいても、星々は瞬き、星座を描く。

 月は満ち欠けを繰り返す。昼だろうと夜だろうと、影に隠れようと、白くなり赤くなり、星の海を渡り、雲の合間から覗いている。


 やぁ、また会ったね。今日はご機嫌だね。

 太陽が機嫌がいいときは物静かで、風はやさしく通り抜け、草花の香りを運び、調和された静けさが街を覆う。


 また君かい? ちょっとがんばりすぎなんじゃない?

 あまり調子に乗りすぎると、いささか暑苦しいのが彼の欠点だ。それでも肌を小麦色に焼き、母なる海に身を委ねる若者には人気がある。

 僕は少し遠慮がちにその光景を見ている。

 一緒になって騒ぎたい気持ちがある反面、はしゃぎすぎた後の疲労感を思うと、エアコンの効いた部屋で、涼しげな音楽を聴きながらおどろおどろしい物語を書き連ねる。

 なぜ夏には妖怪が騒ぎ立てるのか。

 その質問に、それは夏だからと答えた君のことが忘れられずに、僕はそんなことを繰り返している。


 太陽が去った後、星たちは、やっと回ってきた出番にいつもよりも多く瞬きをする。

 ダイナミックな三角形を描き、夏の夜にふさわしい物語を上映してみせる。

 出遅れた月は、黙々と自分の仕事をこなす。

 彼は知っているのだ。

 自分の出番はもうすぐやってくるのだということを。


 張り切りすぎた太陽は、少しだけ長めに休憩を取り始める。

 はしゃぎすぎて疲れた木々たちは、古い衣を脱ぎ捨てる準備を始める。

 星たちは落ち着きを取り戻し、演目をよりアカデミックなストーリーに変えたこと、月は、いよいよ晴れの舞台に立ち、人々の注目を浴びる。


 物を空に向かって投げると、それは必ず手元に返ってkる。空に向かう勢いと、それが衰え、いよいよ地球に戻るとき、一瞬だけゼロになる。宙で静止したその瞬間はすべての調和が取れた静の時間であり、月がもっとも輝くのは、その調和の中心点のような生と死が、背中合わせに寄り添っているような、或いは支えあっているような空間を演出する。


 そこにまがまがしいものを感じるときは、きっと心に何かささくれがあるのだろう。

 僕はどうにも、傷の治りが遅いらしい。

 前の年と同じように、月の明かりは、魔界の門が開き、呪詛の精度を上げる力の源となる光が、魔女たちの宴をより赤裸々で激しいものにしている妄想をとめることはできない。


 美しい。


 そう言いわずにいられず、そう言うしか他にないほどに、月は心の闇を錬金していく。


 やがて死が訪れる。

 太陽はすっかり落ち込み、月は秋よりもこじんまりとし、星の瞬きは死神の瞳のようにつめたく空虚に死を見つめている。

 草木は枯れ、北風は体温を奪っていく。

 しかし闇に閉ざされることはない。

 太陽は短い時間でできることを黙々とこなす。

 月は分厚い雲の隙間からときどき顔を出しては、孤独を癒してくれる。


 空気は澄み渡り、淀みは浄化され、あの人に対するうらみつらみも、氷のそこに閉じ込めてくれる。

 暖かさを求めて、火を囲めば、閉ざしていた心を開いて、少しは落ち着いて話ができる。


 それができるのは希望があるからだ。

 また春が訪れる。

 また繰り返しになる。

 だけど、それが愛おしい。

 また繰り返しになる。

 だけど、今度こそ繰り返さないようにしようと思える。

 長い夜、思いをめぐらせ語り合えば、迷い込んでしまった森を抜け出す印を、見つけることもできるだろう。


 太陽は照り続ける。近くなったり、遠くなったりしながらも、太陽はずっと照り続ける。

 星は瞬くことをやめない。空が淀んでも、澄んでいても、星々は瞬き、星座を描く。

 月は満ち欠けを繰り返す。昼だろうと夜だろうと、影に隠れようと、白くなり赤くなり、星の海を渡り、雲の合間から覗いている。

 僕はそこで、生き続ける。


 死を待つでもなく、死を遠ざけるでもなく、生き続ける。

 四季が死期を迎えるまで。

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