プロローグ 湖水地方にて ~お久しぶりです。~
アルケモートより北方の湖水地方。
湖の北側、湖を見渡せる丘の頂上に小さな領主邸が立った。
一階は南側の大扉を通ってすぐの吹き抜けのホール、東側に調理場及び貯蔵庫、西側は倉庫、ホール左右の階段を上って調理場と倉庫の上に二部屋ずつプライベートルームがある。部屋の配分は、空が東側、アレットが中央東側、ひまりが中央西側、ピエリーナが西側となる。
また大扉の東側には領主邸であることを示す看板が掛けられており、呉家、ドイル家、河上家、マルゲリータ家の順に紋章が掛けられている。デザインは、『王家由来の後ろ盾』にそれぞれ『八芒星と無限の意匠』、『秩序の天秤と剣』『桜の花と交差する剣と鞘』『上下を向く二挺拳銃』の意匠を合わせたものである。
すべての建築工事が終了し、空たちは工務店や大工に礼を述べ、改めて自分たちだけの領主邸を見上げる。
「これでわたしたちは、この地の代表となったのですね」
「そッスね。故郷を飛び出したときは、まさか貴族になるなんて思わなかったッスが」
「うむ。一国一城の主か、悪くないでござる」
「今度はひまりさんが、武士を雇う側なのです!」
するとそこへ、空にとって見知った顔が現れた。
「アルミス辺境伯! アシュリーさん!」
それは、放浪時代の空が流れ着いたアルミスセントラルで自らを保護した、イフリクス・イオ・アルミスと分隊長アシュレイであった。
「ヤッホー、クーちゃん! 男爵位叙爵と新築のお祝いに来たよ!」
そう言ってアシュレイは、有名ブランドのチョコレートの包みを空に手渡した。
「そんな、お手紙を出しただけなのにわざわざありがとうございます。辺境伯も、ご無沙汰しております」
「本当にご無沙汰だな。いろいろ忙しいだろうが活躍も聞いている」
「落ち着いたらお世話になった人たちにあいさつに赴こうと思っていました。って、今言っても言い訳にしかなりませんね。せっかく陛下より賜った領地です、少し旅は休んでここでのんびりしたいと思います」
「それなんだが、ここをどうしたいかは決めているのか?」
「いえ。今、少しずつみんなで話し合っているところです。でもどうしたらいいか分からないんです。今までは美食と美景とわたしの記憶だけを探して旅をしていましたから」
「そうか。ならばゆっくりじっくり考えるといい。……ところで空とアレット以外は初めましてかな? アルミス州領主、イフリクス・イオ・アルミスだ」
ひまりとピエリーナはその場でひざまずいてあいさつした。
「河上さつきと申します」
「ピエリーナ・マルゲリータなのです。お会いできて光栄なのです、辺境伯」
「こちらこそだ。さて、今日はキャンプ道具と食材を用意させた。湖のそばで、改めて貴君らを祝おうじゃないか」
領主邸は建ったが、ここで暮らしてゆく手段も賓客をもてなすための設備も何もない。ここで穏やかな日々を送るべく、これからたくさんの人にこの土地に来てもらうべく、開拓していかなければならない。空たちはイフリクスの従者たちを手伝ってキャンプ道具を準備し、一同で湖畔の美味を堪能した。




