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第十一章 互いの溝 ~アレット……、お姉様……、なのですぅ……。~

 途中の集落や村に立ち寄り、ご当地グルメを楽しみ、夜に集落も見つからなければキャンプとなり、保存食や狩猟で得た獣肉で食いつなぐ。そうして五日が過ぎ、空たちは王都まで戻ってきた。


 レアガルド王国レアガルド州、王都。

「まずは公衆浴場ッス。国王陛下に挨拶に行くんッス、まずは服と体をきれいにしておかなければ」

「アレット。ひまりのジグラス巡りが先ではないのですか?」

「自分たちは王家の庇護を受けられる立場にあるッス。であれば、私用はあとに回して目上の方に無事を知らせるためにも挨拶は必要なんッスよ」

「納得です」

 王都の大衆浴場は洗濯も受け付けている。普段なら寝間着にしている着替え一着(空のパジャマ、アレットのベビードール、ひまりの浴衣、ピエリーナの着ぐるみワンピース)を残して洗濯サービスに出し、洗って乾くまでの間は大浴場で汚れと疲れを落として軽く腹ごしらえ。アレットたちはシンプルなポトフだけを注文したのだが、空だけは容赦なく五人分の肉料理を注文して浴場内食堂を使う全員の度肝を抜いた。

「謁見の前だと言うのに、こいつは」

「ニンニクやスパイス料理など口臭の原因になるものを避けたことは評価するでござる」

「空さんの胃袋はどうなっているのです……?」

「こんなの朝飯前ですが」

 その場の全員に「もう昼過ぎてるんだが」と突っ込まれた。

「それよりも、どうなっているのかはわたしが聞きたいです。前にもお話ししましたが、ベビードール姿のアレットは探偵スタイルと打って変わって美少女過ぎます。いっそのこと、ずっと華やかなドレス姿でいてくれたらいいと思うのですが。あとそのボーイッシュな口調も、今のかわいらしい姿には似合っていないと思います」

「うっせぇッス!」

 浴場利用客も「最初は探偵小僧のハーレムかと思ったが全員美少女とか反則だろ」とつぶやく者もいた。

「くっ……。まあ今からの謁見もあるッスし、この先何らかの形でパーティーに参加することもあるかもしれないッスからね。空の要望に応えるためにも、たまにはひらひらしたのも着てみるとするッスか」


 時、数時間さかのぼり。

 王城、国王執務室。

「陛下、ご報告致します。先程、探偵アレット・ドイルのご一行が本日夕方の謁見を申請しに参りました。ご予定はいかがなさいますか?」

「そうか。ちょうど夕方にはすべての書類仕事も一区切りつく。謁見と言わず夕餉(ゆうげ)の席を設けようではないか。料理長に通達、支度させよ」


 時刻にして十七時四十三分。

 王城、玉座の間。

 賓客室で待たされていた空たちを騎士が呼びに行き、呼ばれた空たちがずらりと並ぶのだが。

「……ドイル? その恰好は何だ?」

「はっ。本日は少し嗜好を変えてみました」

 アレットの姿は、自らの髪の色にも負けない赤いシルクの布に黒レースやリボンによるバラをイメージしたドレスを基準とした、アームドレス、チョーカー、漆黒のブーツ、化粧を施し唇には深紅の口紅を差し、クリップ留め式のミニハットを胸に添えていた。いつもはまとめている髪も結わずロールを施して、まさに『深紅の令嬢』スタイルで決めていた。

「それはまたどうして」

「空にオシャレをするように言われたからでございます」

「そ、そうか。似合っておるぞ。うむ、前のドレスやいつもの探偵装備もよいが、その衣装に髪型も見事なまでに美しい。令嬢として晩餐会に出ても見劣りすることはあるまいな」

「もったいないお言葉にございます」

「ん。では挨拶もこの辺にして、お前たちが来ると知らせを受けて夕食を用意した。卓を囲みながら旅の土産話でも聞かせてくれないか」

「御意のままに」

 前の謁見でもそうだったが、普段から軽いノリに「~ッス!」と言う体育会系の口調のアレットも、バラのドレスにかしこまった態度の効果で令嬢として完成されていた。ライノックの前では平静でいる空、ひまり、ピエリーナも、仕立て屋でドレス一式をそろえたアレットの美しさに絶句したほどだ。

「……ひまり、ピエリーナ。わたしたちは詐欺に引っかかっていませんか?」

「言いたいことは分かるでござる。拙者もアレットを探偵に戻したくないでござる」

「アレット……、お姉様……、なのですぅ……」

「横三人。聞こえてるッスよ」


 王城、小食堂。

 普段なら国王ライノックが上座に座し、王妃ナフティス、第一王子フォレスト(十歳)、第一王女アリシア(七歳)とともに家族で食事を楽しむところだ。この日はレアガルド家がライノックの左側に、アレット、ピエリーナ、ひまり、空の順(アレット以外はじゃんけんで決めた)でライノックの右側の席に座る。

「うわぁ~! アレットお姉ちゃん、お姫様みたーい!」

「恐れ多いッスよ、アリシア殿下」

「姫殿下とは仲良さげにござるな、アレット」

「保安庁諮問探偵になりたての頃、『お馬さんごっこ』をしてあげてから懐かれてるんッス」

 メイドたちに囲まれながらの晩餐会の中、盗賊団などとの戦いについては伏せてジグラス巡りと各地の美食と美景についての土産話を語った。特にここがよかったとアレットたちが絶賛した地域については、「視察ではなく観光として息子らを連れていきたい」とライノックは語った。

 夕食の後は、フォレストとアリシアは勉強の時間。小学校にも通っているが、それとは別に教育係がいるらしい。アレットたちは国王執務室まで呼ばれ、今度は土産話ではなく事件簿としてまとめられたファイルと共に各地での事件を振り返る。

「そうか。カリオストロ協会は、アッシュランドの陸軍のみならず、砂漠向こうのレッドフォートにまで手を伸ばしておったか」

「はい。詐欺集団への勧誘も悪質ですし、五区砦に関してはよくそこまでやるものだとも思いましたが、レッドフォート州五区砦は砦にいるすべての人間から魔導ソレノイドを動かすためのアークルを収集できる巨大魔術式を有しております。それを知ったカリオストロ協会が、魔術式を悪用できないかと考えたのでしょう。昔の開拓者はこうなるとは思わなかったとしても、やろうと思えば賢者の石すら簡単に作れますから」

 そこに、空が挙手して質問した。

「アレット。話の腰を折ってしまい申し訳ないのですが、ピエリーナも言及していた賢者の石とは何なのですか?」

 ひまりも「それは拙者も存じ上げぬ」と続いた。

「ピエリーナ、説明頼むッス」

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