第十章 それぞれの一週間 ~私は錬金術を学びながら空さんと一緒に食堂で働くのです!~
ピエリーナの場合。
空と共にデントンの創作料理の調理補佐及び雑用のクエストを見つけたのだが、朝から八時間がひとりと昼から八時間(後者は残業あり)がひとりという人員募集であった。
「ギャラはあまり高いとは言えませんが、おいしいまかないがついてくると言うことであれば興味がわきます。清潔感重視とのことですので、このあとエプロンドレスでも買いに行きませんか?」
「はいなのです。私は錬金術工房が気になるので、そこをちょっと覗いてみようと思うのです」
「ではわたしが朝から、ピエリーナは昼からで、このクエストを受注しましょう」
と言うわけでふたりは被服屋にてそれぞれの体格に合うエプロンドレスを購入し、空は二着のエプロンドレスを持ってデントンの創作料理へ。
ピエリーナが向かった先は、『雑貨屋シンハ』。エイゼル大陸中央より南に位置する『レムリア共和国』出身の少女が経営しているが、実は弟子入り先の先代から引き継いだばかりらしい。
「いらっしゃいませ! あっ、こりゃまた可愛いお嬢ちゃん! って、失礼しました。何かお探しかな?」
「いえなのです。私はピエリーナ・マルゲリータ。アルケモートという町から、錬金術の勉強の旅をしに来たのです」
「それでわざわざうちに? もの好きにも程があるよ。まあいいや。自由に見て回ってね。わたしはここでアークルバレット作ってるから」
ピエリーナの拳銃にも装填しているアークルバレット。使用者の魔力をエネルギー弾として発射するため弾丸が尽きる心配はない。ピエリーナはそれをシューティングショーに使っている。
「でもシンハさんもシンハさんなのです。あなたこそ砂漠の果ての町にやってきて錬金術の修業なのです?」
「あー、南から来たから砂漠は通ってないかな。まあわたしはレムリアから来た元旅行者なんだけど、両親を盗賊に殺され、ストリートチルドレンや泥棒やっているうちにこの町に流れ着いて、親方に拾ってもらったんだ」
「あっ! そ、それは、ごめんなさいなのです……」
「たまにある話のひとつだよ。確かに両親と死に別れたのも故郷に帰れないのもつらい。でも今はそれ以上に、親方に工房を任せてもらって、わたしの作った雑貨が売れて、町の人々に笑顔を届けられて、そんな毎日が幸せなんだ。だからできれば、きみにもね」
「……そうなのですね。では拳銃のメンテナンスオイルが欲しいのと、私の拳銃を少し見てほしいのです。プロの仕事をぜひ勉強させてほしいのです!」
「はいまいど、三千二百五十ガル、頂戴いたします」
ピエリーナは会計を済ませて菜種由来のメンテナンスオイルをカバンにしまい、二挺の拳銃をクリシュナに預けた。ピエリーナは自身もガン・カタの師匠ジョンから拳銃の手入れを教わっているが、たまにはプロの仕事も見てみたいようである。
「うん、よく手入れされてる。わたしがわざわざ指摘することもないよ。ピエリーナさんのお師匠さんはすごく銃の扱いに長けてる。でも」
「でも?」
「アークルバレットが少し変形し始めてる。薬莢をシリンダーから抜く必要ないからその変化に気付きにくいけど、撃鉄に叩かれれば叩かれるほどそのダメージが蓄積していくんだ。それだけ射撃時の精度やアークル制御に乱れが生じる。予算があるならでいいけど、この魔術式に合うアークルバレットを買っといたほうがいいね」
「分かったのです。十二本買うのです」
「それじゃあ、十万ガル」
「はい!? それって十本分なのです!? 計算間違っているのです!」
「二本分はおまけ。初めてのお客様限定サービスってことで」
「そっ、そういうことなら、ありがたく頂戴するのです!」
一応仕事は仕事。クリシュナは一度分解した拳銃を埃ひとつ見逃さず拭き取って元通りに組み立て、試射用アークルバレットでの試射ののちピエリーナに返した。
「これからお仕事? がんばってね!」
昼前。
デントンの創作料理。
店主婦人マリーに挨拶をし、空が持ってきたエプロンドレスに着替えてカウンターに出る。大工をはじめ多くの客が思い思いの昼食を注文してゆくが、そのほとんどは仕込み済みの鍋から取り分けるばかりであり、提供するスピードも速い。空とピエリーナは伝票とテーブルに刻まれた番号を確認し、客にメニューの間違いはないかと再確認してトレーを置く。
「徹底されたテーブルと伝票のナンバー合わせ。これが初めてのスタッフでも間違えないで配膳できるシステムなのです!」
「そうですね。しかし最後は人の手である以上、再確認は必要です。すべてはお客様とお店に迷惑をかけないためです」
「心得ているのです!」
ピエリーナの実家も錬金術を用いた靴や各種素材を販売している。カウンター仕事の心得は、むしろ空よりも先輩であろう。
昼食のラッシュが終わると、時たま訪れる客を相手にしつつ空いた時間は使用済みの食器を洗ったりテーブルや窓やカウンターを拭いたりカウンター横の商品を補充したりして手を動かし、調理補佐として夕食時のラッシュに向けて大量に作り込みをしたり、マリーに手招きされて加熱しすぎてさすがに商品にならない肉の塊をご馳走(まかないとは別)になったりした。
空は夕方でクエスト終了となる。空だけエプロンドレスを脱いでマリーからまかないをもらい、クエスト受注書の下にある依頼達成欄にサインをもらって冒険者ギルドへ。
「ピエリーナ、大変かもしれませんががんばってください。お疲れさまでした」
「はいなのです! 空さんもお疲れ様なのです! よーっし、がんばるのです~!」
実はここからは『少年少女バイト隊』がやってくるため、昼以上の大人数が押しかけても対処が可能である。どんなに忙しくても伝票とテーブル番号の確認だけは怠ってはいけない。バイト隊は給料とは別に小遣いをもらうこともあるが、ピエリーナは冒険者としてそれは断固拒否した。閉店後は食器洗いで終了となる。
こうして無事に一日が終わり、ピエリーナも依頼達成欄にマリーからのサインをもらった依頼受注書をカバンにしまう。さすがに夕食時が終わればギルドカウンターも終わっているため、達成報告は翌朝となる。
「それじゃあピエリーナちゃん、明日も同じ時間によろしくね!」
「はいなのです! おやすみなさいなのです、マリーさん、皆さん!」
このクエストは三日連続であるため、エプロンドレスを新調してもきちんと利益は出せると言うものだ(問題は病気を患ってはいけないという重責がのしかかるのだが、そもそも病気など誰もが望んで患うものでもない。ピエリーナの錬金術の知恵と旅で鍛えてきた疾病対策に死角はなかった)。
それから。
観光を目的とした自由行動と言いながら、何だかんだ皆が遊びの合間に働く、あるいは働く合間に遊ぶと言うスタイルである。特に空とピエリーナだが、空はグルメの梯子のためにまかないつきの食堂で働くようなものであり、ピエリーナは午前中にクリシュナの店をはじめとする錬金術工房にお邪魔して午後から空と一緒の食堂で働くと言う、観光ではないにしても自分の欲望に忠実な過ごし方をしている。とは言え空は陸軍庁舎での生活があったこともあり、規則正しい生活と清潔な身なりを崩すことはない。
自由行動四日目の夜。
アレットが空とひまりを集め、ピエリーナの帰りを待って宿の自室で会議を開いた。
「えー。諸君を集めたのはほかでもないッス。現在、自分が西区の奥様方からもらっている探偵仕事について、みんなにも協力してほしいッス」




