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第十章 それぞれの一週間 ~久しぶりに探偵らしい仕事が舞い込んできたッスよ!~

 翌日、アレットの場合。

 昨日から車の荷台にカウンターを置いて『探偵アレット・ドイルのお悩み相談所』を開くが客は集まらない。今朝になって『依頼ポスト』になって一通の依頼が入っており、昨晩投函したであろうその依頼主が朝早くからやってきた。

「あなたが依頼主様ッスね。依頼書は読んだッス」

 カウンターにやってきたのは、十歳ほどの少女であった。

「はい。あのー、お姉ちゃんに相談したいことがあって。でも、そんなの相談していいかどうか、分からなくて。だからお手紙にしてみたの。どう、かな……?」

「いやぁ、探偵は件数で稼ぐもんで、こんな依頼に三万ガルなんて見合わないッスよ。お嬢ちゃんだってそんな大金、持ってないッスよね?」

「う……」

 子どもがプロに頼むと言う、額に見合わない依頼の受領。そんなことをすれば、いくら仕事人だからと言って子どもから金を巻き上げる金の亡者になってしまう。だが仕事人だからこそ安請け合いはできないものである。本来なら(余程の金持ちや貴族でもない限り)断るものなのだが。

「お名前はフィリアちゃん、だったッスね? 恋愛相談くらいなら、人生の先輩としていくらでもしちゃうッスよ!」

 こうしてフィリアと名乗った少女はアレットに恋愛相談に乗ってもらい、いくつかのアドバイスを得て応援されると、礼を述べて純粋な笑顔で去って行った。


 昼頃。

 アレットが焼肉ジャッカルの屋台から串焼きを買って帰ってくれば、カウンターで依頼書を書く女性がいた。

「お姉さん! 店長が戻ってきたッスよ。お悩み相談なら今からお伺いするッス!」

「あら、そう? 助かるわ~。一件ないし一日で三万ガルなんでしょ? それならお願いしたいことがあるんだけれど、最近我が家の台所の蛇口から水が漏れて止まらなくて、水道修理屋さんに頼んだら数日待ち、しかも工費だけでも五万ガルかかるって言うのよ。待つくらいは水道代が少しかさむくらいで済むけれど、やっぱり物価高で水道屋さんも困ってるのよねえ」

「分かったッス。とりあえず手付金五千ガル、それさえ工面できれば調べるくらいはするッスよ」

「いいの? ダメもとで聞いてもらったけど、探偵って便利屋じゃないんでしょ?」

「『見方によっちゃあ探偵は便利屋』ッスよ。お困りごとがあればとりあえず聞く。知恵と知識と技術を以って、何とかなるならお受けしましょ、ってね!」

 アレットはまず手付金を受け取って持ち運び式の金庫にしまい、依頼主ジェリーを車に乗せて彼女の家へ。キッチンにお邪魔して水漏れが止まらない水道水栓を調べてみれば、コックをいくら閉じる方向にひねっても水は出続け、それどころか時たま黒や茶色に濁った粉や破片が出てくることもある。すると、アレットはキッチンのメンテナンスパネルを開いて水の元栓を閉じてしまった。すると、ようやく漏れ続けていた水は止まったのだが。

「これはきっと、この水道水栓そのものがもう劣化しているんッス。パッキンが壊れ、パッキンを取り付けるためのスクリューが錆びて朽ち果て、結果水漏れが起こり、サビた金属の破片が流れて来るんッス。簡単な方法としては、もう水道水栓そのものの交換ッスね」

「それは、スクリュー部分の交換だけではダメなのかしら?」

「いえ、ダメってことはないッス。それで水が止まる場合も充分考えられるッス。ただ、水道水栓そのものを家が建った時からメンテナンスも交換もしていないのであれば本体も同じだけ劣化していることも考えられるんで、いっそ交換してしまった方がこれからも長く使えるかと。有名なメーカーの物を、それでいてこれと同じタイプの安いものを工面すれば、出費は抑えられるッス。あんまり安くと考えていると、『安かろう悪かろう』になるッスからね」

「助かるわ。今夜主人と話し合って、明日またお願いしに行くわね」

「了解ッス。手付金マイナスの二万五千ガル、プラス水道水栓本体代と残部材処分費を考えといてほしいッス」

 水道の問題はどこの家庭も早急に解決したいもの。おそらくは主人との話し合いはすぐに終わるだろう。明日の収入が見込めたところで青空お悩み相談室が再開する。


 夕方に差し掛かると、今度こそ探偵業らしい依頼が舞い込んできた。

「えーっと? まとめると、最近用水路の水が濁って土っぽくなる、ッスか?」

 依頼主は個人ではなく、西区の住民たちであった。

「探偵さんもご存じでしょう。中央で汲んでいる地下水を、私たちは生活用水にしてるのよ。それが最近、西区四丁目当たりの水が濁ることがあって。でも急に濁ったと思ったらそのあとは濁りが落ち着いたりして。ちょっとその原因を突き止めてくれないかしら? みんなでお金を出し合って、七万ガルまで貯めたわ。まずは手付金、三万ガルからでどうかしら?」

「分かったッス。明日の朝はたぶん別件で埋まるんで、今日と明日で三万で構わないッスよ。それじゃあ、詳しくお話を伺いましょうかね!」

 まずは用水路の構造から復習せねばなるまい。

 この町、五区砦は、円形の地形の町の中央にある『聖なる泉』の地下にある巨大ソレノイドによるポンプで常時地下水を汲み上げ、それを用水路によって各区に供給し、そこから枝分かれするように民家や水車小屋へと細かい水路を伸ばしている。なお太い主要水路は五方向に直線となって伸びており、水路そのものがアークル収集魔術式の一部となっている。

 さて、北西に延びる西区の主要水路の途中から突然濁るようになったのは空たちがやってくる少し前から。蛇口をひねると茶色い水が流れてくる、家庭用汲み上げ魔導ポンプがじゃりじゃりと音を立てて壊れる、用水路から土っぽいにおいがする、などの問題が起こるようになり、奥様たちの井戸端会議で今回の事件が発覚した。

 奥様達が調べてみれば、西区四丁目の用水路に大量の土砂が盛られていたことが発覚。もはや何者かに恣意(しい)的に捨てられたと見るべきである。だが水路の幅は橋を架けなければ渡れないほど広く、しかも土砂を捨てた場所が橋のすぐ下流と言うわけでもないため、誰が、そしてどうやって、その場所に土砂を捨てたのか分からない。地域の自治体で昼夜問わない見張りを立てたが、その矢先に今度は上流に捨てられ、そちらを見張れば今度は遥か下流に捨てられていた。

 このままでは飲み水すらまともに飲めない。この事件は早急に解決させなければ、西区の人々の死活にかかわる。

 そこでアレットは、更に質問する。

「自分たちがこの町に来る前、怪しいやつが出入りする、滞在するようになる、引っ越してきた、なんてことは無かったッスか?」

「怪しいかどうかは分からないけど、冒険者や旅人が長期滞在することなんてざらだからねえ。あなたたちみたいに何かしらの目的がある人から、アテもない帰る場所もない浮浪者まで、いろんな人がいるからね。ああでも、旅人のわりには身なりが立派過ぎる紳士の一団がいたわね。商人をしているらしいけれど、売っているものは情報と技術だとか。確かにそれなら多くの旅荷はいらないわよね」

「ほー? その紳士の一団、ちょーっと気になるッスね」

「でもいい人たちばかりよ。立派なスーツには砂粒ひとつないし」

「まあ、その人たちにも怪しい人がいなかったか尋ねるだけッスよ。ほかにも気がかりなことがあれば教えてほしいッス。意外と世間話からヒントを得るってこともあるんッスよ、探偵業には」


 その日の夜。

 アレットは西区の水路の周辺を車で回って状況を観察。一足先に宿まで戻って仮眠を取り、空たちと一緒に夕食を取った後は中央区の用水路に水着になって浮かんで下流へと下る。その際、そばにはタオルと着替えを積んだトレーを浮かべている。

 ――夜中に徘徊しているところを誰かに見られたら、連中は土砂を捨てる場所を移さざるを得なくなる。こうして水路の中で待っておくのが得策ッス。これぞ『ヤマト式忍法・水遁(すいとん)の術』、なんちゃってー。

 だがその遁術(姿をくらますヤマトの忍術)は存在する。なんちゃってではない。

 アレットは土砂が捨てられたことのある最上流のあたり、その最寄りの橋の裏側までやってきた。それまで浮かんでいたアレットは頭だけ残して首から下は水に浸かり、土砂投棄犯がやってくるのを静かに待つ。

 そしてこの晩さっそく、彼らの使ったトリックを解き明かすに至った。

「そーゆーことッスか……」

 土砂投棄犯が去った後、アレットは着替えとともに下流に移動し、彼らの目論見通りならば五区砦の外まで流れてしまうはずの物を証拠として回収することに成功。深夜の大浴場を貸し切り状態で楽しみ、寝酒を楽しんで眠りについた。

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