第九章 魔術式の砦 ~自分はバーティツ新技披露ッス! わたしは八極拳で敵を沈めます!~
そして空は槍を構え、そのまま一直線に眼前の集団に迫る。
「力量を見間違えたか自棄になったか!? こんな狭い場所でそのような長物など通用」
「しますよ、放ればね」
空は何と槍を一直線に投げ、一気にまとめて三人の男たちを貫いて道端に置かれた木製の樽に突き刺した。
「なっ!?」
「よそ見をしている暇があるとでも?」
空は前の集団の残るひとりに迫り、八極拳の一打『スライディング頂肘』を食らわせたのち丁字路の陰に逃げ込んだ。空の背後の一団が拳銃を向けるも弾は丁字路を通り過ぎ、彼らが追いかければ丁字路の先の黒衣の集団がちょうど全滅されていたところであった。しかも、建物の屋根に立っていたアレットが拳銃を黒衣に向けている。銃声が聞こえなかったこと、彼らが血を流していないことから、超圧縮アークルバレットによる攻撃である。
「何だあのマントの女は!? あんな奴いたか!?」
「へへっ。尾行・追跡のスキルは、探偵だって持ってるんッスよ! 空!」
アレットが路地裏に投げるロープを空は掴み、アレットが引き上げることで建物の上に躍り出た。民家の屋根のようで足場は斜めになっており不安定だが、そんな場所さえ追跡できるアレットにとってはお構いなし。身軽な動きで空たちを追ってくる黒衣の残りも、すべてアレットがアークルバレットで撃ち落としてゆく。
「助かりました、アレット!」
「んッス。でもまだ本当に助かったとは言い難いッスね。空、『あちら』は任せたッス」
ふたりが見やる先には、また別の黒衣の男。服装は全てが黒い騎士装束のようなものに黒いマント、やはり黒いが細かい彫刻が施されたペルソナに黒い頭巾。腰に巻いたベルトには戦闘用ショートソードの鞘を二本提げ、ショートソードを逆手で抜いて空中を飛んで空に迫った。
「覚悟!」
「どちらがですか!」
このままでは分が悪い。空は回避がてら屋上のある民家に飛び移り体勢を立て直す。一方のアレットはロープをそのままにしてさらに増える黒衣の一団と対峙。拳銃を左手に持ち替え、右手では傘を持つ。
「かかるッス!」
アレットは彼らが拳銃を抜く前に敵陣に迫る。中にはロングソードを抜剣がてらアレットに切りかかろうとするが、アレットは右手で回した傘の柄をロングソード男の右手首に絡めて自らが旋回し、一周して続く黒衣の一団に叩きつけた。
「マーシャルアーツ、『ウィンドミル・ギアシフト』!」
剣の男の衝突を免れた黒衣は、両手にショートソートを抜いて迫る。右腕に左手のショートソードを添えていることから、どうやらウィンドミル・ギアシフトを警戒してのようだが。
「死ね、小娘が!」
「へっ! 『ウィンドミル・ラウンド』!」
再び傘を回していなし、ガラ空きになった脇の下に傘の石突きを突き刺してえぐる。これは相当な痛みをもたらし、ステッキの男は大きく呻いて地に伏せた。
アレットは周囲を見渡し、追跡が無いことを確認。傘と拳銃をしまい、鼻をこすって笑う。
「いいッスねぇ、ウィンドミル。さらに発展させて自分の代表技にするッスかね?」
一方、民家の屋上では空とダブルソードの男が向かい合っていた。
「我が名は『シャドー』。『レッドフォート家直属斥侯部隊』隊長である」
「ご存じとは思いますが、冒険者で陸軍中尉相当非常駐兵、呉空と申します。倒す前に確認しますが、あなたはレッドフォート伯爵の命によりわたしを抹殺しに来た、そうですね?」
「半分間違っている。私がお前に倒されることはない」
「では全部正解にするため、参ります」
シャドーは二刀流、空は無手。しかも体格も相手が上回っている分、空が不利。またシャドーはかなりの手数で空に迫るため、空も反撃の機会がうかがえない。物干し竿はさすがに槍の代わりにはならず、テーブルをひっくり返しても一時しのぎにしかならない。
――洗練されたこの動き、だてに武術をやってきた動きではありませんね。一切の無駄がなく一切の隙が無い。しかし、こういう対応もできるのですよ。
空の目も慣れてきたか、シャドーの攻撃パターンが読めてきた。時折不規則に蹴りが飛んでくる場合もあるが、その蹴りからのつなぎも『シャドーなりの型』を見切れば、次の攻撃はある程度読めると踏んだ。
――そこです!
空は右剣横薙ぎを左エルボーサイドで防御、一瞬シャドーは攻撃を読まれたことに動揺するが、もう繰り出した左腕は止まらない。それを空は右腕全体で防御し、攻撃をついに止めた。
「刃を素手で止めただと!?」
「素手ではありません、カーボンプロテクターです」
シャドーの左手のショートソードの刃は空の左袖に仕込まれたプロテクターに食い込んでしまい、空は左腕を振るだけでシャドーから剣を一振り奪ってしまった。その奪ったショートソードの刃を強く踏みつけ、舞い上がったそれを空中にて右手でキャッチする。
「条件は五分五分。あとは互いの功夫が決着をつけるのみです。八極拳、『冲捶』!」
八極拳における基本ストレートパンチ、それを空は剣にて繰り出す。シャドーはそれを剣で受けるが、空は剣の回転が生み出す渦の力でシャドーの剣をまたしても叩き落す。
「何だ、何だ貴様は……!?」
「八極拳、『連環腿』!」
右手右足を高く掲げ右踵による蹴りを胴に見舞い、続けて跳躍して旋回左蹴り上げ。『右踵脚』と、クリスにも披露した『左踵脚』の二連続コンボでひとつの技として数えられえることもある。左足はシャドーのあごに命中し、ついにシャドーは宙を舞った。
「ぐはぁ……」
そのまま民家の屋上から裏通りの木の樽の上に落ち、樽を割りながら地に伏せた。
空の勝利で、決着した。
裏通り。
頭を抱えて立ち上がったシャドーの前に、空とアレットは立った。
「シャドー。あなたの戦いぶりは見事なものでした。あなた、もともと陸軍などきちんとした戦闘部隊にいましたね。それがどうして、このような暗殺まがいのことをするのですか」
「……主君に仕える、それが我が生き様である」
ゆっくりと立ち上がったシャドー。そんな彼からペルソナが外れ、素顔があらわになるのだが。
「なっ!?」
シャドーの右目周辺は焼けただれ、それ以外にも様々な傷跡が刻み込まれていた。何とおぞましい人相だろう。ふたりはそれでも、シャドーから目を背けることはしなかった。
「ふっ。だいたい悲鳴を上げて目をそらすのが普通だが、お前たちは俺を見てくれるのだな。あのクソみたいな雇い主も、俺をさんざん醜いとののしったと言うのに」
「ならばなおさらですよ。憎まずにいられますか、人をそのような形相に至らしめるなど」
「……呉空中尉、答えよう。確かにかつて俺は陸軍にいた。そこで俺は、クソ上官のうっぷん晴らしのために顔をダーツの的代わりにされ、タバコの灰皿代わりにされ、それでも理不尽に耐えるのが軍人であると教え込まれてきた。俺は耐えることに慣れてしまったのだ、それがどんなにクソみたいな命令であってもな。その上官から『そんな醜い顔で恥も抱かずいられる貴様など人間としての価値もない』と言われ、その上官を殺して軍を飛び出したのは、十と何年前だったかな」
「……ひどい上官」
「俺ではなく上官をひどいと言ってくれるのか、このお人よしめが。……まあ、人間としての矜持などとうに捨てた。俺はもう人を憎む生き方しかできない。だがな、この水の地下水は美味いんだ。お前も飲んだだろう」
「ええ、早朝のよく冷えた水は美味でした。こんなにおいしい水があるのかと感動を覚えたほどに」
「俺はな、それだけは守りたい。だが町が滅んだら、この水を維持することもできなくなり、飲みに来る人もいなくなる。それは我慢ならない。だから建設中のやぐらについて教えてやる。守ることができない俺に代わってこの町を守ってもらいたい。敗者にできるのは、それだけだ」
シャドーは自身が知る限りのレッドフォート伯爵のたくらみのすべてを空とアレットに話し、そして懐から脇差を取り出して腹を切った。
「……彼はきっと『忍者』っス」
「と言うことは、シャドーと言うのはコードネームであり、彼はもともとヤマト人だと言うことでしょうか」
「おそらく。陸軍にいた程度で『ヤマッテン切腹』なんてけじめのつけ方はしないッス。……ヤマトの誇り高き戦士に、敬礼」




