第八章 王家の加護と迷惑な武人 ~みんなお上りさんッスねぇ。~
翌日。
アレットによる観光案内で、空たちは城下町を楽しむ。
「ごはんおいしい! 町は賑やか! 武器も防具も一級品! 何ですかあの彫刻のようなスイーツは!?」
普段から大人しい空が暴走するほど、王城から南に延びるメインストリートはグルメに満ち溢れている。王都は内陸にあるため畜産物と野菜に果物、ケーキやチョコレートなどのスイーツが多く売られている。しかも有名店ともなれば肉もただ焼くのではなく、筋を切るなどの食べやすくする加工から焼き加減の調節まで客好みに受注、目の前の鉄板で焼いてくれる。
「空? お金大丈夫ッスか?」
「半分残せば大丈夫です。陸軍でも財産は使い切るなと教わりました!」
「そりゃそうッスが……。まあ確かにここは大都会ッスし、破目を外したくなるのも分かるッス。かつての自分がそうだったッスからね」
一方で、ひまりは武器屋をめぐり、ピエリーナは錬金術を用いた人工宝石のアクセサリーや香水や化粧品などに目を輝かせていた。
「ま、お金が尽きたらその時は自分が貸すッス。仲間とは言え利子もつけるッスよ」
かつて散々楽しみつくしたアレットは、目移りすることもなく冒険者ギルドまで仕事を探しに行く。四人でできる仕事は何かないかと探してみれば。
「おっ! これいいッスね! 特に空にはちょうどいい仕事じゃないッスか?」
その後いくつかのクエストをピックアップし、アレット自身はひまりも訪れた武器防具屋の受付カウンターのクエストを受注した。昼頃になってようやく空たち三人も冒険者ギルドにやってきたのだが。
「やあやあ空。そろそろ所持金が尽きて仕事を探しに来たッスか? ちょうどいいところに、焼き肉屋の材料加工の手伝いの仕事が」
「それなのですが、アレット。どういうわけかとある大盛りメニューを頼んで食べ終わったあと、お金を払うどころか頂いてしまったのです。これはただ事ではありません、何か奇妙な事件に巻き込まれているのではないでしょうか。おそらくわたしが探偵の仲間であることを知っての何かしらの調査依頼です。アレット、今すぐ『レストランてんこもり』まで伺いましょう」
「……あー、その店ッスか。空。朝からホテルのバイキングで散々食ったあとストリートでステーキとポテト、ラーメンギョーザセット、親子丼、ホールのケーキ食っといて、よくもまあ化け物級チャレンジグルメで賞金かっさらえるッスね。……おい。空の腹はどうなってるんッスか!?」
空の腹は産婦人科にかかってもおかしくないほど膨らんでおり、それでいて空は平然としている。「あの冒険者、妊婦か? おなかの子ども大丈夫か?」と冒険者たちはざわついている。
とにもかくにも、空は半日分の稼ぎをチャレンジグルメで得てしまったのである。
「では夕方ごろにまた伺えば、一日の稼ぎに」
「もうやめてあげてほしいッス!」
チャレンジグルメは、規定をクリアすれば賞金がもらえるが、本来なら店は規定破りの支払いで稼ぐものである。
唖然となる冒険者たちだが、「ブレないなぁ」とひまりもピエリーナも軽く流す。
その夜。
城下町のはずれにある民泊。
とはいえ城下町に住む老夫婦が営む民泊であり、部屋数も多く屋敷も立派なものである。
「さて、昨日は国王陛下の紹介で泊まったあまりにも豪華なホテルで落ち着く暇もなかったッスが、今日は落ち着けるッスね」
「はい。サービスも使いたい放題の豪華な待遇のおかげで、ヤマト文化に満ちたマグのように居着きたくなってしまいました。まるで一国のお姫様になった気分でしたし、あの料理は毎日食べたいほどです」
「見事なまでに双方正反対の意見にござるな……。しかし我々には旅の目的がござる。旅費は今日でだいぶ稼げたゆえ、明日の朝にでも出発いたそう」
「はいなのです。でもその前に」
ピエリーナの言葉に、アレットはうなずいた。
「昨日話し合うべきだった今後の予定ッスが、明日の朝に最後から六つ目のジグラスを参拝、その後は城下町を抜けて最後から五つ目のジグラスのあるレアガルド州北方の町に行くッス。そこから先は未定ッスが、王国北方のジグラスを全部回ってから再度王都に戻り、王都以南は自分らが監禁されたアッシュランド州アリュールから再出発する、というプランでどうッスかね?」
空たち三人は「異議なし」と答え、旅の大まかなプランは決まった。
「それと、一度カリオストロ協会に目をつけられた自分らは、王国の庇護があるとは言え暗殺などの危険にさらされる可能性があるッス。念のため、本当に念のために聞くんッスが、ひまりはジグラス巡りの一人旅に、ピエリーナは実家に帰ってもいいんッスよ? 自分は空の過去を探す旅についていくッスが」
「ふっ。何を今更、水臭いことを言うのでござる」
暗殺の危機が迫る旅になる。そう言われても、ひまりは鼻で笑って一蹴した。そしてピエリーナも。
「もうすでにアルケモートで巻き込まれているのです。このまま旅を続けても実家に帰っても、悪いやつらに目をつけられ続けるのは変わらないのです。だったら空さんとアレットさんについて行って、お二人を守りながら旅先の人たちも協会の悪意から助けてあげたいのです」
「……んッス。ふたりともそう言うと思ってたッスよ。これからも旅の仲間として、よろしくお願いするッス!」
「わたしからもお願いします。この四人での旅は、とても楽しいですから」
そして空は、ふっと微笑んだ。
「それに、世界中をわたしたちの足跡で埋め尽くすのも悪くない気がします」




