第八章 王家の加護と迷惑な武人 ~その身勝手さはすごく迷惑なのでやめていただきたいと思います。~
その後は、王城の門番に国王ライノックへの出発報告と感謝の手紙を差し出し、蒸気駆動車に乗ってジグラスへと向かう。
最後から六つ目のジグラスは王都の北方にあり、四人での参拝の後はアレットの人生相談(探偵業)とピエリーナの射撃ショー(空がアシスタント)の披露で路銀を稼ぎ、ひまりはやはり書庫で古文書を読む。これまでは趣味(素人考古学)で読んでいたが今は仲間と共にある身であり、ざっと目を通しただけでジグラスを出た。
その日の昼に王都を出立、最後から五つ目のジグラスのあるイルミア州、最後から四つ目のジグラスのあるワルマース州、最後から三つ目のジグラスのあるリュクシス州を巡り、途中で遭遇した盗賊団を殲滅させて近くの冒険者ギルドで討伐報告して更に路銀を稼ぐ。キャンプ生活や狩猟などで夜をしのぐこともあり、サバイバル能力に関しては軍仕込みの空と旅をする上でそれを身につけたひまりが長けていた。
一か月かけ、再び王都へ。これまでたんまりと稼いだお金で、空は食に関して贅沢の限りを尽くした。ちなみにレストランてんこもりは、空を『一生出禁』にしてしまった(またチャレンジグルメで賞金をかっさらわれてはたまらない)。王城の門番にライノックへの挨拶の手紙を門番に預け、王都を出ようとしたところでライノックに呼び止められて再び茶会に招かれた。
そして一同は、アッシュランド州アリュールまで戻ってきた。
「ここが旅の転換点でしたね。まさかお尋ね者としてとらえられたあとに国王陛下から重要客人として庇護を頂けるなんて」
「そッスね。でもこれは悪意から人々を守るための重責を担わされたようなもの。せめて手の届く範囲の人たちは、自分たちで守らねばッス」
「然様でござるな。前回は陸軍のスパイを炙り出してすぐに王都行きを命じられたでござる。さて、前回できなかったジグラス巡りと観光と、残っているのであればカリオストロ関係者の残党をとらえねばならぬ」
「賛成なのです。それではまずはジグラスに行くのです、ひまりさん!」
最後から二つ目の参拝先『ジグラス・アリュール』。ちょうど清掃員募集のクエストがあったため、参拝後に冒険者ギルドに赴きクエストを受注。その日は参拝と古文書閲覧だけ済ませ、翌日に清掃業務に従事した。ピエリーナは初めてのジグラス清掃の従事であり、経験者である空たちが丁寧に教える。
「そう言えば、拙者らが出会ったのもアイアンマウンテンのジグラスの清掃でござったな。懐かしいでござるよ」
「そうでしたね。煙臭いステーキに悶々としているところに、ひまりが魚料理を紹介してくれたのでした」
「そう言えばあの町、それからゴーレムを暴走させたエンジニアはどうしているでござろう。旅先で出会えればよいのでござるが」
「そうですね。再会できたら、お酒を飲みかわすとしましょう」
だが、順調に清掃が進み、昼食の休憩に差し掛かろうとした時だった。
「うおおおおおおおおおい! ここにぃぃ! 呉、空なる女はぁぁぁぁぁぁぁぁ! いるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!?」
ジグラスの大門の前に現れたひとりの女性が叫んだ。
「は? 誰だあいつ?」
「俺たちの中から誰か探しに来たか?」
「恨みでも買ったやつでもいるのかな」
「何にしても仕事の邪魔なんだが」
その人物は、海軍の白い詰襟と白いロングパンツにブーツに身を包み、旅をするためのコートを羽織っていた。旅の移動手段として魔導ソレノイド搭載自動二輪車に乗ってきたようだ。
ジグラスのてっぺんから安全帯で釣られた状態で、デッキブラシを肩に担いだ空が答えた。
「わたしですが、あなたは?」
「我こそは! レアガルド王国海軍アンカーボルト分隊所属! 『クリス・アキモフ』少佐で、あああああああああある! 我は! 貴様に! 決闘を、申し込おおおおおおおおおおむ!」
「それは今ですか?」
「今でああああああああある!」
「ご覧の通り、わたしは今、軍人としてではなく冒険者としてジグラス清掃のクエストを遂行中です。申し訳ありませんが、それは受けかねます」
「何を言う! 上官命令であああある!」
「わたしは陸軍、あなたは海軍。あなたの命令を聞く理由はありません」
「何度でも命じる! 呉、空! 今すぐ我と決闘するでああああああある!」
「だぁー……」
頭を抱える空、迷惑がるほかの清掃員冒険者。
このままでは仕事が進まない。そう見た祈り手の青年バルバル・ジグラスは、空に降りるように言う。
「決闘でこの迷惑行為が終わってくれるなら、今日はきみは上がっていい。報酬を減らしたりはしないから、あの『迷惑大尉』をどうにかしてくれないか。いや今は少佐だったな」
「迷惑大尉、ですか?」
「実際にお目にかかるのは初めてだが、話には聞いたことがある。海軍には勝負事が大好きな女性海軍兵がいて、強き者がいると聞けば勝負を挑まずにはいられない性分の持ち主。名を、クリス・アキモフ。出はヴィリーキイ帝国、実家は漁師。使う武術は『キックボクシング』らしい。僕の記憶が正しければ」
「キックボクシングですか。それなら陸軍で少しかじらせていただいたことがありますが、その程度の浅学で対策できるかは微妙ですね。念のために医者の手配をお願いします」
祈り手バルバルはそれを了承し、空は安全帯を外してクリスと名乗った女性に対峙した。クリスは空よりも拳ひとつ分背が高く、戦う必要性から黒色の髪をアップにまとめ、雨天の海のような鈍色の目を持っている。その目つきは鋭く険しく、武人の目をしている。
「改めまして。わたしの名前は呉空。陸軍中尉相当非常駐兵、Cランク冒険者、八極門」
「はっきょくもん? 聞けば、大岑王国にも存在しない『型のある武術』を習得しているそうだな。貴様しか知らぬ武術、そしてそれを駆使してカリオストロ協会の悪党どもを屠ってきたというその実力、見せていただこう」
「屠ったとは人聞きの悪い。しかし決闘をこうして受ける以上、そう簡単には負けません」




