プロローグ 必要な理解 ~お金についてです。~
『ガル』と言う単位と硬貨に関する話をしよう。
そもそもガルは、シュトラルラント王国、サンティーエ共和国(旧サンティーエ帝国時代含む)、レアガルド王国を含むエイゼル大陸西方諸国、及びアルビオン諸島連合王国の間で取り決められている通貨の単位である。
だがアルビオン語が通じるアルビオンとレアガルドはガルで統一しているのに対し、サンティーエ、シュトラルラント、パダーノには独自の通貨も存在し、その通貨しか通用しない地域や店舗も少なくない。大陸東方にある大岑帝国、リューラ共和国、ヴィリーキイ帝国には独自の通貨しかなくガルは通じない。『銭』が通貨であるヤマト出身のひまりは、通貨ではなく世界共通の価値を持つ金属『黄金』の粒を手に海を渡り、それを大岑帝国の通貨へ、そしてレアガルドの通貨へと換金して今に至る。
ガルに関し、『柔金小貨』は1ガル、5ガル、10ガル、50ガルが存在し、『銅貨』は100ガルと500ガル、『銀貨』は1000ガルと5000ガル、『金貨』として10000ガルが存在する。ただし銀貨と金貨は、現在は本物の銀と金を使っているわけではなく、同等の輝きを放つ合金からなる。
また、『方銀貨』という正方形型の通貨が存在し、単位は2000ガル。これは『旧・大ノルド帝国建国二千年記念』を理由としてサンティーエ帝国との戦争より少し前に発行されたものである。また何かしらの記念のたびに『記念金貨』が発行され、一枚に対して10万ガルの値がつけられたこともあるが、そんなものを使うのは上位貴族だけである。下位貴族もしくは平民の手に渡っても美術品や記念メダルとして取引されたあとは額に収められて飾られ、それがその家にとっても資産運用にもなるのである。
さて、ガルはその国(アルビオン、レアガルド)の歴史上の偉人の肖像画が大きく刻印されていることがほとんどであり、値段に関しては縁のあたりに小さく刻印されている。それだけその人物は歴史において国に貢献していた者として未来永劫称えられることとなる。しかしそれはさておき、だいたいは貨幣の大きさや色でそれが何ガルであるか分かるもの。買い物の際、ガルの使用者にとって歴史上の偉人などどうでもいい。
だが。
「おっちゃん! この串焼き12本欲しいッス!」
「はいよ。1800ガルね」
「えーっと、このコインとこのコインと……。分かんね! これでいいッスよね!?」
ある町に立ち寄ってアレットが串焼きを買おうとしたのだが、どのコインで1800ガルを支払えばいいか分からない様子。唯一方銀貨が2000ガルであることは分かる様子なので、いつもそれで支払う。
「……お嬢ちゃん。財布、結構重そうだね」
「うッス。方銀貨用とおつり用ッス」
この通り、通貨をすべてひとつの財布(革袋)にしまっていると方銀貨を取り出しづらくなるため、支払用とおつり用を分けて持ち歩いている。結果、アレットの腰ではいつもジャラジャラと小銭の音が鳴り響いているのである。
「アレット、頭はいいのですがどうしてこうも金勘定ができないのでしょうか……」
「勘定間違え防止の工夫していることだけは認めんでもないでござるが」
「これで本当にレアガルド王国議会保安庁諮問探偵なのです?」
「そこ! うっせえッス! だいたい通貨にはどうして価値ではなく歴史上の偉人が刻印され」
そんなものは言い訳である。
「言い訳していいわけがない」と、ひまりはため息をついた。




