第六章 踊銃使いの錬金術師 ~ここをキャンプ地とします!~
各種引継ぎと旅荷物の調達、すっかり忘れていた暴徒集団の旅荷物の換金と判明した素性からの討伐報告、ヤカへの振り込み、蒸気駆動車の水と石炭の補充などを済ませる。残念ながらクラヴィアの営業の再開は叶わず、料理を味わうことはできない。
ひまりが言う。
「名残惜しいでござるが、いつまでも復興支援ばかりしていては旅が進まぬ。この先も同じことがあるでござろうし、ここは時間と心に区切りや線引きをせねばならんところでござるよ」
「そうッスね。じゃあぼちぼち、ジグラスとグルメをめぐる旅を再開するッスよ」
「異存ありません。今度はわたしが運転しますので、たまにはアレットもくつろいでください」
「そうするッス。安全運転で頼むッスよ」
アルケモートの町及びアーラ・ビアンコ上階アパートの滞在期間はちょうど一か月となり、部屋の掃除なども済ませてすべての旅荷物を撤去する。謝礼金として二千ガル角銀貨を残し、ピエリーナやジャコモたちに礼を述べてビルを出る。
最後に通りすがりの店で何か食べてゆこうと言うことになり、ここから少し離れている牧場と契約しているハンバーガーショップで昼食とする。地図を確認し次のジグラスへの道を決めたところで、「おーい!」という声が聞こえてきた。
「ん? 何だ、ピエリーナ殿ではござらんか!」
何と、大きなリュックを背負ってピエリーナが走ってきたのである。
「みなさーん! 私も旅に連れて行ってほしいのですー!」
「待つでござる! 何故でござるか!?」
「私も! 私も、広い世界を見てみたいのです。大丈夫なのです、お父さんとお母さんからはちゃんと許可をもらってきたのです!」
「許可でござるか? うーむ」
腕を組んでうなるひまり。だが、ピエリーナに空は尋ねる。
「今度は嘘ではないようですね」
「はいなのです!」
今度はとはどういうことかとひまりは尋ねるが、バレエのレッスン代は高いという事実、クラヴィアに乗り込もうとしたピエリーナの態度から、アレットと空は「バレエは本気ではなかった」というピエリーナの言葉は嘘であることを知っていた。だが今度は何もかもが本当で、本気のようだ。
空は言う。
「旅の仲間に加わる以上、食い扶持を稼ぐべく冒険者になってもらいます。ホテルが見つからなければキャンプもあります。それでも構いませんか?」
「冒険者登録なら、さっき済ませてきたのです。それに私、こう見えてライセンス持ちの錬金術師なのです。お店の消臭剤や水虫治療薬は私が作っているのですし、雑草から姑息性ポーションを作ることもできるのです!」
「それは……! ふっ、そうですか」
とうとう根負けし、空はハンドルから離した手で後部座席に乗るように促した。
「お店の売り上げが落ちてご実家がピンチになっても、わたしたちには責任持てません。それでよろしければ、ジグラス巡りとグルメ探し、そして世界の美しいもの探しについてきてください。わたしは、あなたを歓迎します」
空の言葉に、アレット、そしてひまりも力強くうなずく。
彼女たちの反応に、ピエリーナは笑顔で答えた。
「はいなのです! よろしくお願いするのです、皆さん!」
株式会社アーラ・ビアンコ。
「武者修行の旅に行ってくるのです。By ピエリーナ」という看板が錬金術アイテムの棚に飾られ、「あの小英雄ならやりかねん」と客たちは微笑む。ピエリーナの母カテリーナはそれを一瞥して大きなため息をつく。
「カータ(カテリーナ)。お客様の前だ、ため息は慎みなさい」
「ジャコモ! だってあの子、急に旅に出たいなんて言い出すんだもの。勉強はどうするのよ。ジェフリーさんのところでのステージのレッスンだってあるのに」
「まあ何とかなるだろう。この国における義務教育期間は満了したし、会社経営の勉強なら帰ってからでも旅の中でもできる。それに本当の勉強は社会に出てからしかできないものだし、急というわけでもない」
「そうなの?」
「ああ。この町を救ってから、ピエラ(ピエリーナ)の目は未来しか見ていない」
接客と会計と商品梱包をしながら、会話が気になる客にも説明するようにジャコモは言う。
「バレエ教室の子にセンターを奪われたばかりのあの子は、私たちや自分にさえ嘘をついて無気力に笑うばかりだった。だがタップダンスと武術を習うようになってあの子は変わり、生き生きとした表情でステージに向けて練習を始めた。そしてついにはこの町の英雄だ。私は残念だ。あの子のステージも戦いぶりも、この目で見られなかったことが」
「ジャコモ……」
「だからせめて応援はしてやりたい。そりゃあ確かに心底心配だが、この選択が間違いではないことを祈るばかりだ。この決断が私なりの親心というものだよ」
そんなジャコモに、客は「いいねぇ」とカウンターに肘をついて笑った。
「あんたらの娘さんなら大丈夫だ。だから信じて、無事に帰ってくるのを待ってやんな」
「……はい。ありがとうございます」
「おうよ。あんたら家族や会社の応援のためにも、また来るぜ!」
ジグラスへの道。
後部座席で地図を広げながら、アレットが尋ねた。
「ところでピエリーナ嬢」
「あっ、ピエリーナでいいのです。アレットさん」
「おっ。んじゃピエリーナ。拳銃が気になるんッスが、見せてもらってもいいッスか?」
「はいなのです。この拳銃は師匠特製で、アークル圧縮量が自在に調節できるカートリッジと、それ専用に『アークル回路』を調整されたシリンダーを組み込んでいるのです。あとは普通のリボルバーと変わらないので、実弾も撃てるのです」
そりゃすごいとピエリーナの拳銃を弄り回すアレットだが、そこに運転していた空が尋ねた。
「通常であれば引き金を引いたら弾丸が発射されるところ、一発のカートリッジにアークルを圧縮させて何とかという錬金術師の耳を撃った、あの時のような攻撃がその銃は可能とするのですね?」
「すごいのです! 拳銃を見てもいないのに、空さんはどうしてそれを分かってしまったのです!?」
「はい。わたしはアルミスセントラルに流れ着いた時に陸軍のお世話になっていまして、そこで座学を少々。その時に魔術と錬金術をかじっていまして、錬金術によって作られた武器、魔術を発動させる仕掛けについてもほんの少しだけ」
「そうなのですね。皆さんの武器にも、そのような魔術を施された武器はあるのです?」
その疑問には、ひまりが答えた。
「拙者の刀、『肥田平口彦斎』がそうでござる。刀匠の平口彦斎は、それと同時にヤマト式魔術ともいうべき『陰陽術』にも精通していたと聞く。拙者は陰陽術については無学でござるが、刀も鍛えた者やそれを扱う者次第で祝福にも凶禍にも転じると申す。ゆえに拙者は、人を殺しかねぬ武器だからこそ己の心に正しく振るわねばと思っているのでござるよ」
「そうなのですね。自分の心に正しく。はいなのです。私も、自分が正しいと思うとおりに師匠から学んだ力を使ってゆきたいのです!」
「良き心がけにござる。……さて、空。今日はこの先に村もござらん。どこかでキャンプ地を定めた方がよさそうでござる」
「そうですね。では」
ちょうど平らな草原に面する道を走っている。空はハンドルを切って車を停止させた。
「ここを、キャンプ地とします!」




