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第六章 踊銃使いの錬金術師 ~お前たちなんて、罰してやるだけの価値もないのです!~

 空は槍を構える。

「仁義礼智と信の字胸に」

 アレットはステッキを地に立て背筋を正す。

「誇る力は活人が為にッス」

 ひまりは左手に鞘を持ち握りに右手を添える。

「武の道行く我ら、地鳴らす一歩は」

 ピエリーナは二挺の拳銃を抜いて構える。

「天の采配のもとにあるのです!」

 それぞれの武器は、悪意に向かう。

「尋常に勝負。そしてあなたたちを倒します。……わたしたちの誇りにかけて!」




 黒服の男が杖で合図をすると、カリオストロ協会の男たちは一斉に銃弾を放った。

 それらを空たちは華麗に回避、空は先ほどのフットワークで一気に距離を詰めて、まず一人、そして大きく槍を振って一度に多くの男たちを薙ぎ払う。時に男のシャツの襟を槍の穂先でからめとり、その男をハンマー代わりにしてほかの男たちを薙ぎ払うという荒業まで見せた。

「八極拳はすなわち嵐。抗えるなら抗ってみてください」

 アレットは自分の拳銃をジェフリーに投げ渡しつつ、バーティツによって敵の懐からフリントロック式拳銃を奪い、持ち主の足を撃ち抜いて動きを封じた後は鈍器または飛び道具として使ってゆく。華麗なるフットワークと見事な手さばきで奪っては撃って殴って投げ、自らに脅威を成す男たちを確実に薙ぎ払ってゆく。

「レディーだからってなめてかかると、まさしく痛い目見るッスよ?」

 町中にひらめく銀色の閃光が、男たちの手足に鋭い傷を刻んでゆく。足を切っては動きを封じ、腕を切っては銃撃を封じる。流れるような太刀筋で時に銃弾を弾き、時に銃弾を真っ二つに切り裂き、時に四肢を容赦なく断つ。しかも一度に多くの男たちに襲い掛かられても、そばにいる者を斬った次の瞬間には別の人物の背後にいる。彼女の残像すら、目で追うことは不可能だ。

「河上流剣術、『八岐大蛇(やまたのおろち)』。変幻自在の太刀筋、見切れるでござるか?」

 ピエリーナはバレエとタップダンスとカポエラで培ったフットワークとガン=カタで培った的確な状況判断と正確な射撃で、男たちから拳銃を奪い去ってゆく。しかもカートリッジに込めるアークルをさらに圧縮し、ステージ用ではなく戦闘用として威力を高め、容赦なくダメージを与える。中には、右手首があり得ない方向に曲がって悶絶する者までいた。遠距離攻撃を仕掛ける彼女が四人の中で最も脅威とされたか攻撃が集中するが、銃弾、投擲ナイフ、短剣による直接攻撃、そのどれもが全く当たらない。

「だーかーら! バレリーナにケンカを売るものでは、ないのですっ!」

 彼女たちの攻撃を成功させているのは彼女たち自身の実力が大きい。だが背後を取られた彼女たちをアシストするのがジェフリーである。ピエリーナにガン=カタを教えているだけあって、ライフルよりも命中率の低い拳銃で確実に敵を仕留めてゆく。

 まさかこんなことが起こるなど。カリオストロ協会の黒服の男は驚愕を禁じ得ず、たった四人の少女たちに協会員が地に伏せてゆく有り様にただただ震え上がった。

「何だ、何なんだ……? いったい何が起こっていると言うのだ? 吾輩は夢でも見ているのか!?」

 そして最後の協会員がピエリーナの二挺拳銃に倒れ、残るは黒服の男だけになってしまった。空たちは彼と対峙し、アルケモートの町民はその様子を遠巻きに見守っている。

「であれば、それは悪夢でしょう」

 その時、空の隣に立ったピエリーナは右手の拳銃の引き金を五回引き、一発のカートリッジに六発分のアークルを『超圧縮』した。これを放てば、いかに殺傷力の低いアークルバレットと言えど人を殺傷することは、狙いどころによっては可能である。

「覚悟するのです」

「なッ!?」

 するとピエリーナは、何のためらいもなく黒服の頭めがけて引き金を引いた。流星のように輝く尾を引きながら、高威力アークルバレットは男の右耳をかすめた。

「ぎゃああああああああああ!」

 かすめただけでも男の耳を焦がすには充分。男は杖を手放し右耳を両手で押さえながらその場のたうち回る。誰もがそんな男の無様な姿を憐れんで見下ろすのだが。

「シュピールマンさんが味わった痛みはこんなものではないのです。それでも報復は私のしたいことではないのですし、あなたなんてわざわざ私が罰してやる価値もないのです。保安庁がそのうち到着するはず。大人しくお縄について、悔い改めるのです!」

「うるさい! 貴様は分かっていない。カリオストロ協会がどれほど巨大な組織であるか。この吾輩ですら末端なのだぞ。吾輩の部下を伸したぐらいで英雄を気取っているとしたら大間ちが」

 すると今度は、通常のアークルバレットで男の股間を連続して撃った。これには師匠のジェフリーや町の男たちも「ひゅっ!」となる。

「あぽ……」

「そんなのは、それこそ保安庁に任せておくのです。私は私が大切に思うものと、せめて私の手の届く人を守りたいのです。そのために、あなたみたいな人にいちいち構ってやる暇なんてないのです!」

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