第六章 踊銃使いの錬金術師 ~尋常に勝負。わたしたちの誇りにかけて!~
アレットたちが手錠や男たちのジャケットで手足を縛っている間、ピエリーナは店長の男を介抱する。
「大丈夫なのです、店長さん!?」
「んぅ……? ああ。きみは先週の……」
「今はいいのです。大丈夫なのです? 今すぐ手当を」
そこに、アレットが割って入った。
「クラヴィア店長、『シュピールマン』氏。申し訳ないッスがあなたにはマフィアとのつながりの容疑をかけざるを得ないッス。手当が終わったらで構わないッス、任意の事情聴取を」
「ああ、あるさ」
何と、クラヴィア店長シュピールマンはあっさりとマフィアとのつながりを認めてしまった。
「店長さん!?」
「すまないね、お嬢ちゃん。だが俺も脅されていてね。俺は『ワイロ』を握らされ、拒めば殺すと脅され、ここを闇の錬金術製品の取引場所に使わされていたんだ。だがもう我慢できない。あのくそったれマフィアにこのアルケモートの覇権を握らせるわけにはいかない。たとえ、命に代えても」
「この店を好いてくれる女の子の前で、簡単に命に代えてもとか言うもんじゃねえッス。でもその覚悟、この保安庁諮問探偵アレット・ドイルがしかと聞き届けたッス」
「ありがとなぁ、探偵さん。だがこれで終わりじゃねえ。町長に迫っていたそこの男、ルペシッサ錬金術組合の組合長『ヨハネス・デ・ルペシッサ』は、『カリオストロ』の名を持つ何者かとつながっている。カリオストロは組織なのか個人なのか、とにかくとんでもねえ金と力を持ってるってことは推測できる」
「分かったッス。この続きは冒険者ギルドか保安庁で頼むッスよ」
「心得た。この店の物は好きに持って行ってくれ。俺の知らないところに取引に関する隠しアイテムがあるかもしれねえからな」
「何から何まで感謝ッス。さて、ここを出るッ」
その時だ。
「囲まれています」
空が窓から外の様子を一瞥して言う。ひまりも外から位置を知られないように窓に近づくが、クラヴィアの周囲には群衆に紛れながら銃を持つ者が集まっており、硬質ガラス製サングラスをかけたジェフリーが扉の前に仁王立ちしている。
「囲まれてるって誰になのです!? それが店長さんの言うカリオストロなのです!?」
「分からないッス。さてどうしたもんッスかね。たぶん裏口も見張られてるッスよ」
表の入り口は囲まれ裏口も見張られているとなれば、残る逃げ道は。だがそれを講じたところで、けが人でありカリオストロに関する証言ができるシュピールマンをこのまま放って逃げることはできない。
そんな中、空は冷静にこの状況を分析、打開策を思案する。
「……そう言えば、この建物の上階に続く外階段に、二階へ通じるドアはありませんでしたね。もしかしたら」
ライブ居酒屋クラヴィアの二階は、防音対策のため床と天井に『防音防振』対策が施された倉庫になっている。楽器などを収納する魔導エレベーターのほか、人が上り下りするための屋内階段もある。
空たちはカリオストロ関係者に悟られないように、町長とシュピールマンを連れて倉庫に上るための階段を静かに上り楽器やがらくたなどでふたりを隠す。
「すまない、きみたち。ふがいない町長で」
「この店を、この町を、どうかよろしく頼む」
「お気になさらないでください。わたしも守りたいのです、この町を」
店の外では、相変わらず私服姿の武装集団とジェフリーのにらみ合いが続く。
そんな中、ひとりの黒服の男が現れてジェフリーに言う。
「この町のハンターだな? 私の客が四人の冒険者に襲われたと聞きはせ参じた。貴様もその仲間なら容赦なく駆逐するが」
「はっ! そんな玉っころでどうにかできるもんならしてみろい! それにな、この店のオーナーはお前の仲間じゃねえ、元ピアニストのシュピールマンってやつだ。あんまり下手なこと抜かしてっと、駆逐されるのはお前らになるぜ」
「我々『カリオストロ協会』には盾突くものではない。たとえその肉体が弾丸に耐えうるものだとしても、我々の力は弾丸だけではないことをこの町の民は思い知ることになるだろう」
「ほー? だったらやってみやがれ。村長がひとりで耐えてんだ。町の全員でかかればカリ何とかなんざ全く怖くねえってことを、ツラもさらさねえ臆病なボスに思い知らせてやるぜ、こっちがな!」
するとその時、クラヴィアのドアが開いた。
ジェフリーやカリオストロ協会の男たちがそちらを見やれば、まったく無傷の空たち四人がずらりと並んでいた。
「ピエリーナ! お嬢ちゃんたち!」
「錬金術組合の皆さんは倒し、町長さんと店長さんも無事に保護しました。聞きましたよ、カリオストロ協会とやら。あなたたちが何者であるかはさておき、この町の優れたる錬金術事業と感動もたらすステージを蹂躙するあなたたちを、決して許すことはないとご承知おきください!」
空は槍を構える。
「仁義礼智と信の字胸に」
アレットはステッキを地に立て背筋を正す。
「誇る力は活人が為にッス」
ひまりは左手に鞘を持ち握りに右手を添える。
「武の道行く我ら、地鳴らす一歩は」
ピエリーナは二挺の拳銃を抜いて構える。
「天の采配のもとにあるのです!」
それぞれの武器は、悪意に向かう。
「尋常に勝負。そしてあなたたちを倒します。……わたしたちの誇りにかけて!」




