第六章 踊銃使いの錬金術師 ~剣客、刀を封じたからとて戦えなくなるわけでではござらんよ。~
ライブ居酒屋クラヴィア、前。
乾いた風がなびき、町の人々は関わり合いになりたくないと黒服の男や高級車から距離を置く。冒険者たちもただ事ではないと思いつつも、ただその様子を眺めるのみ。「何せ相手は」と、ルペシッサ錬金術組合の紋章を見やる。
だがそんな中、そんな砂を噛む足音が響いた。
「あ? 誰だ、てめえ?」
黒服の男が銃を構える。
銃口の先にいたのは、ハンターで製革屋で武術家でタップダンサー、ジェフリー・プレストン。
その後ろには、槍を担ぐ空、拳銃と杖を構えるアレット、刀を提げるひまり、そして二挺拳銃を抜くピエリーナ。しかもピエリーナは、人差し指でギュルリと高速回転させ拳銃を瞬時に収めてホルスター前に両手を添えると言う『早撃ち』スタイルである。
「誰って、正義の味方よぉ!」
「正義だぁ? 今、うちのボスと町長の話し合いだ。邪魔すっとぶっ殺すぞ!」
と言いながら黒服たちはバントラインの引き金を引くのだが。
「は?」
銃弾が当たったのは、ジェフリーの左肩と右わき。服を貫いても、彼の体には傷ひとつつかない。
「当たったよなあ?」
「はっ! バカめ、こんなの蚊に刺されるほどでもねえ!」
「バカ言うなよな! おい、全弾撃て!」
ふたりの黒服は残り全ての銃弾を撃ち尽くすが、それでもジェフリーはなお立ち続ける。
「さすが師匠なのです! 師匠が銃弾なんかに倒れるわけがないのです!」
「ビール瓶の栓を素手で開ける体の頑丈さはやっぱり異常ッス」
「はい。どう考えても」
「世の中には、非常識極まりなき者もいるのでござるな……」
黒服たちは大慌てでバントラインに銃弾を装填しようとするが、ジェフリーに髪をつかまれて互いの側頭部をぶつけ合わされて、高級車のむき出しの蒸気機関の上に放り投げられて果てた。
ライブ居酒屋クラヴィア、店内。
やはり黒いスーツに純白のマフラーといういでたち、オールバックの金髪に左頬の刀傷と言う体格の良い男が、立派なスーツに革靴をまとう紳士に、ナイフを片手に詰め寄っていた。
「なぁ。ホントいい加減にしてくれよ? お前がいつまでも俺様の要求飲まねえからこういうことになるんだ。何度も送り付けたよなあ、錬金術商工会の運営権譲渡の書類?」
黒服の部下が、テーブルの上に新しい『アルケモート錬金術商工会運営権譲渡承諾書』をペンとともに突きつけるのだが。
「ふん! 誰が何と言おうとそんなものにサインはせん!」
「強情だねえ、あんたも。その気になりゃ、この場に孫娘をしょっ引いて目の前で辱めを受けさせてやることだってできるんだがねえ?」
「そのリッコにも教え込んでいる。貴様らのような悪党には、たとえ腕一本持っていかれようと屈するなとな」
「ほお、よく教育されているようだ。だがあんまり俺たちを舐めない方がいい。俺たちのバックに誰がいるか、あんたも知らないわけじゃないだろう?」
「だからどうした。正義は負けん。貴様らのような卑劣な奴には」
「そうか。だったら今すぐお前の孫娘探し出して、そこにいるバカな男と同じ目に合わせてやる。もちろんお前の目の前で、ゆっくり、じわじわ、苦痛を与えてやりながらな」
店の奥のステージには、クラヴィアの店長の男性が別の黒服の男に両腕を縛り上げられ腹部を殴られている。だが店長は、「町長、自分のことは構いませんから……」と町長がサインすることを拒み続ける。
「……済まない。こんな奴らに錬金術を悪用されるわけにはいかんのだ。元サンティーエの技術者としてな」
その時だった。
店のドアが勢いよく開き、四人の少女たちがなだれ込んできた。それぞれが異なる服装に身を包み、やはり異なる武器を手にしている。
「誰だ、てめえら!?」
「外の見張りはどうした!」
だが、探偵の少女が答えた。
「色々非常識な伏兵が何とかしてくれたッス。さてお前ら、ここで大人しくレアガルド王国議会保安庁諮問探偵アレット・ドイルの前に武装解除し投稿するなら命までは取らないッス。あくまで抵抗するって言うなら」
「何が探偵だ! やっちまえぇ!」
刀傷の男の号令で店内の男たちは拳銃を抜こうとするが、それよりも先に飛んできた槍とアークルバレットが男たちから拳銃を奪い去ってゆく。槍は壁に突き刺さり、アークルバレットは夜空の星のように店内を彩る。
「抵抗の意志あると見たッス。だったら、命の補償はないと思えッス!」
そして戦いは始まった。
「八極門、呉空。尋常に勝負!」
空は左わきで両腕を回し、右足から強く踏み込んで右拳を繰り出す。一瞬にして敵との距離を詰め、距離感を食らわせつつ拳に移動エネルギーを乗せて強烈な一撃を繰り出すものだ。空の拳を顔に受けた黒服の男は、ステージの上で店長を害する男に激突してそろってステージの上に崩れ落ちた。
「河上流、河上ひまり。推して参る!」
――空がこの戦場で槍を手放したのは、狭い空間や障害物が多い場所では長物での戦いは不向きであるが故。拙者も今は刀を封じ、この戦法にて迎え撃つでござる!
「河上流無手術、『虎牙・逆手刀』!」
それは、右上(敵にとって左上)からの峰打ちまたは逆手刀(親指側の手刀での打撃)。斬り上げで来るかと思わせての真逆の方向からの攻撃で、敵を錯乱させつつ首に鋭く重い一撃を食らわせることができる。
「銃だけだと思うなよ小娘!」
別の黒服が今度はナイフを持った右手を繰り出すが。
「合気柔術、『小手』!」
ひまりは男の手をつかむと同時に軽くひねり上げただけで地に沈めてしまった。
「てめ、そこのヤマト人! 何しやがったんだ!? 妖術か!?」
「なに、掴んでひねっただけでござるよ。お主らのように力任せに倒そうとするのではなく、緩やかな力の働きかけにこそ人は弱いのでござる。それが分からぬようでは、拙者は倒せぬでござるよ」
八極拳に剛と柔があるように、ひまりの戦術にも剛と柔があるようだ。
「ガン=カタ、ピエリーナ・マルゲリータ! 優雅に華麗に舞うのです!」
舞台演出武術ガン=カタ。敵の攻撃軌道を一瞬で見切って回避し、武術のような洗練された振る舞いのもとに手刀や蹴りや拳銃での打撃、遠距離攻撃として銃撃で敵を駆逐する。確実に敵の攻撃を回避しつつこちらの攻撃を当ててゆく『攻守一体一撃必殺』でありながら、アークルバレットを用いることでそれは攻撃をも美しく演出する。
ピエリーナは男たちが飛ばしてくるナイフをすべて見切って回避、半歩移動すると同時に連続して引き金を引き、自分を狙うすべての男たちにアークルバレットを当ててひるませる。そのすきに急接近して銃口やグリップを押し当てる打撃で確実に地に沈め、カポエラの技で急所を蹴り上げるなどのとどめを刺しつつ目に見えない背後の敵すら左脇に挟んだ右手の銃で撃ち落としてゆく。更にバレリーナとして鍛えた足さばきで華麗なるステップとカポエラのローリングキックを見舞い、敵を華麗に翻弄しつつ情け容赦ない蹴りと銃撃で敵を駆逐してゆく。
「武術を習う者の間では、『バレリーナとはケンカをするな』ということわざが通っているそうなのです。皆さんはマフィアでありながら、そんなこともご存じないのです?」
その間、わずか十秒と余秒。
刀傷の男以外は、全員沈んだ。
残る男は戦慄する。
「おぉぉぉ、ぅお前ら一体、ぬなな何者なんだ!?」
「名乗ったと思うッスが」
最後はアレットが、伸縮ステッキを振り回して男の意識を刈り取る。




