第六章 踊銃使いの錬金術師 ~推理キラーン! ッス。~
すると、アレットは裏路地のさらに奥へと走り出した。空たちも続くが、奥の通りに出たところでアレットは周囲を警戒し、一同に言う。
「保安官やほかの冒険者が駆け付けてこない、すなわち通報されていないか足止めを食らっているか。そして数年前に設立されたばかりのマフィアが高級車を三台、しかも紋章持ち。こりゃとんでもないことになるッス」
そう推理するアレットに、ひまりはどういうことだと尋ねる。
「巨大組織がルペ何とかの向こうにいる、としたら?」
「巨大組織、でござるか?」
「そッス。ロッセリーニ嬢。このお金を渡すから、アルミスセントラル陸軍のアシュレイって女性を頼り、事の顛末とアレット・ドイル及び呉空からの連名の応援要請を伝えるッス。できるッスか?」
アレットは懐から名刺入れを取り出し、名刺をロッソに手渡した。
「そんな……。私ひとりで、冒険者ギルドで、そんな大仕事を……!」
「できるッス。今ロッセリーニ嬢がしなければ、嬢の御祖父上もこの町も救えないッス。ことは時間との勝負、覚悟を決めるなら今ッスよ」
「私が、ノノを、この町を……!?」
祖父がマフィアに拉致され、彼の身の安全と錬金術に関する利権が脅かされている。成人したとはいえまだまだ子どもの自分に何ができる? 戦慄するロッソは、手足が震えてわずかも動かない。
だがそんな彼女に、ピエリーナは言った。
「私の服を破こうとしたあの時の威勢はどこに行ったのです!?」
「まっ、マルゲリータ……?」
ロッソが顔を上げると、カウボーイハットの鍔の向こうからピエリーナの鋭い視線が向けられていた。
「でっ、でも、私は……」
「ステージのセンターは奪えて、この町の未来は守れないのです? それでも町長の孫娘なのです? 今あなたがやらなければ、誰がこの町を守ると言うのです!」
「無理よ、無理に決まってるじゃない! だったらあんたがやりなさいよ! 私には、そんなの、無理……」
「だったら、私にも無理なのです」
そしてピエリーナは、腰から二挺の拳銃を抜いた。
「私は、冒険者の皆さんとであいつらをぶん殴りに行くのですから」
「そんな見世物のための拳銃で、どうやって!? マルゲリータ、あなた正気なの!?」
「本気か本気じゃないかじゃないのです。私がしたいからするのです。だってそうでしょう、この姿で最初に立ったステージで、たくさんの人に褒めてもらって、空さんたちにも会えて、こうして友達になれて。あのお店の店長さんがどんな人でも、クラヴィアというお店は私にとって大切なお店で、思い出の場所なのです。そして私やロッソのように、何かを表現したい、夢を追いかけたい、お客さんを楽しませたい、プロとして何かを成し遂げたい、そういうアーティストにとってのサンクチュアリ。私は、私の思いは!」
そして右手に取った拳銃を、ロッソの胸に向けた。
「思いは……」
「そのような場所を悪いやつなんかに荒らされてたまるものなのですか! 守りたいものを、守るべきものを守りたいのです! この胸に燃える情熱をかけて!」
その時、空は思い出した。
――「ガンマンとしての生き方でピエリーナ嬢が納得しているのなら自分らが口をはさむことはないッス。バレリーナに復帰したいと言うことであれば、別の楽団に入りなおすってのが手っ取り早いッスが」
――「そんなことはないのです。もともと何か習い事がしたいって言ってお父さんにねだったくらいなので、本気でバレリーナになろうとは思っていなかったのです。楽団の講師さんから筋がいいって褒めてもらったのは嬉しかったですし、ステージの上で踊るのもとても好きだったのです」
――「そッスか。ところで、あのタップダンスと銃は誰から習ったんッスか?」
――「はいなのです。途方に暮れて裏路地の空き樽に悪態ばっかりついていたら、ファーストインパクトで顔のいかついおじさんが声をかけてきて、それでついていって教えてもらったのです。タップダンスのほかに、『カポエラ』と『ガン=カタ』を!」
そして思ったことは。
――無邪気な顔で大嘘をついてくれましたね。ただ習い事がしたいだけの人が、命をかけてまで思い出の場所を守りたいなど、普通は思わないものですよ。ましてや、それに代わるものをゼロから達人級になるまで極めようとも思いません。
凛然と言い放ったピエリーナに、ロッソの唇は震える。
そしてその口からやっとひねり出したのは。
「……やるわよ。やればいいんでしょ」
そして睨み返すようにして、ロッソは言った。
「連れてきてやるわよ、応援! 見てなさい! 地べたのヒナギクのくせに!」
それだけ吐き捨てて、ロッソは裏路地を走り出した。
そんなロッソを見送り、ピエリーナは空たちに言った。
「空さん。皆さん。私のわがまま、手伝ってもらってもいいですか?」




