スポーツテスト その三
住宅街にある一軒家に何とか逃げ込み、俺達は疲れた体を休めていた。
「あの強さは反則じゃないのか?」
大鉄達を倒し、俺達の元にたどり着くのに三分も経っていない。
そんな強敵でもまだ最強じゃないとか魔法使いは頭がおかしい。
「でも先生から逃げられたのは大きいよ。唯久くんのおかげだね」
「悔しいが、咄嗟の判断はお前の方が上らしいな。魔法はまだまだ俺の方が上だけどな!」
「そう思うなら草部先生を何とかしてみろよ」
口喧嘩をするくらいに回復し、家屋の物陰に隠れながら作戦会議をする。
残りの時間はまだ十五分はある。
これだけ疲労しても五分しか逃げられていない。
俺達が休んでいる一二分の間に一班も全員捕まってしまった。
「追っては来てないし一時逃げ切れたみたいだな」
「それで、今度はどう逃げるんだ?」
「逃げない。今度は絶対にタッチして見せる」
逃げる事に専念していた二人は驚きの表情を浮かべる。
「お前もさっき反則だって言ってたろ?」
「そうだよ、勝てないなら逃げるのが鉄則でしょ?」
「このテストの目的ってたぶんそう言うことじゃないだろ?」
まくしたてる二人にそう言うと、二人は同時に首を傾げる。
「違和感があったんだよ。普通に考えてハンデなしで先生と戦うってあり得ないだろ? それで捕まえられないなら高評価を与えないっておかしい」
A組の担任は世界でも上位に入る魔法使いなのに、魔法使いの卵ともいえる生徒とハンデなしなんてそんなのは同じくらいの化物がいない限りほぼ不可能。
そこまでして高評価を取らせたくない理由があるのかは俺にはわからないが、普通に考えれば、高評価を取れない理由は先生ではなく俺達生徒側にある気がしている。
「高評価を得るのには何か条件があるってこと?」
「俺はそう思ってる。そしてこれは推測だけど、テストが始まる辺りから異様に楽しませて見せろって言ってないか?」
「そう言えばそうだな。普段はクールな先生だし、熱くなるのは珍しいな」
「だから俺は先生を驚かせるのがこのテストの目的なんじゃないのかと思ってる」
「そこまで言うなら作戦はあるのか?」
俺は頷いてやりたいことを二人に伝える。
「それは無理じゃないか?」
「私も無理だと思うけど、だからこそってことだよね?」
「二人がそう言ってくれるなら、先生に一矢報いることはできるな」
俺達は早速活動を始める。
†
「これで五組目ですね」
七班を全員捕らえ終わる。
まあ、一年生ならこの程度でしょうね。
魔法の強さはイメージで決まると言っているのに、この子達は最初から勝てない姿をイメージしてしまっている。
その気持ちは私もわかりますがね。
残り四組で十分。
四班以外が逃げる事を最優先に置いているのは言ってただけません。
六班は完全に隠れられるチームにしていますし、探すのは少し時間がかかりそうですね。
九班は最後にするとして、武闘派の八班と逃げが得意な三班のどちらから行きましょうか。
やはり三班からですかね、逃げ切る準備をしているのならそれがどんなものか見てみたいですし。
三班の行方を捜す途中に、夜市さんを発見してしまいました。
しかも班から離れ単独行動とは、何かの作戦でしょうか?
夜市さんも私に気がつき、民家の影に隠れます。
何かの作戦か、作戦行動中に偶然私が見つけてしまったのかはわかりませんが、ここで見逃すのも不自然ですね。
私は誘いに乗るように夜市さんの後を追い、家屋に入ります。
聞こえてくる足音を追い二階について行きます。
ここで三人が一斉にという可能性もありますが、その程度で私にタッチ出来ると思わないで貰いた――
扉を開けるとありえない程の銃が設置されていました。
「いらっしゃい先生」
その挨拶と同時に、隙間なく敷き詰められた銃が一斉に火を噴いた。
寸分のズレもなく同時に発射された魔弾を、扉を書換の魔法で鉄板に変えます。
先ほどの戦いの二の舞を踏まないように全てを受けきり、夜市さんの次の行動を先読みします。
おそらく彼は逃げる算段のはず、それなら方向さえわかれば即座に捕まえることもできる。
その予想は当たり、窓ガラスが割れた音を聞き鉄板を手放します。
そしてその鉄板の影から、逃げたはずの夜市さんが踏み込みを完了した状態で待機しています。
「意表は付けましたよね?」
彼と同学年なら、おそらく目では追えない速度の突進で彼は手を伸ばしました。
勝ちを見据えた動きは他の生徒よりはマシです。
これならそれなりの点数を上げてもいいかもしれませんが、満点には程遠い驚きです。
「及第点ですね」
伸ばされた手を掴み、地面にたたきつけます。
彼の魔法であればこれくらいなら怪我はないでしょう。
「残念ながらあなたは捕まりました。まだ速度が足りませんね」
「そうですか。行けたと思ったんだけどな」
「ところで、猪川さんと胡ノ宮さんはどこにいるんですか?」
本気で悔しがる彼に私はそう問いかけます。
さっきの銃やその発射は他の二人がやったのだと思いましたが、二人の影は一向に見えません。
「別行動ですよ。戦う派と逃げる派意見が対立してしまったんで」
「そうですか。残念ですね」
九班も所詮その程度ということですか。
私は落胆したまま彼を連れ、一度学園に戻ります。
中には掴まった五つの班の生徒たちが集められています。
有望な生徒も平凡な生徒も全員が、退屈そうに決められた陣地の中でくつろいでいます。
今年も私を楽しませてくれる生徒はいないみたいです。
早々そんな生徒は出ないのですが、毎年一年生の担任になるたびに期待はして、そして裏切られます。
退屈ですが、あと少しで終わりですね。
私は先ほど追いかけようとした三班を探しに町に跳び出します。