夏休みの勉強会 その四
「風呂から上がったか、それでは私の部屋に案内しよう」
私が旅館の内風呂かと思うほどに立派なお風呂から上がり、リビングに向かうと瑠衣先輩が待っていてくれた。
一晩泊まることになった私と唯久くんはそれぞれ猪川姉弟の部屋に泊まることになりました。
客間もあるらしいのですが、やはり未成年の男女が同室で寝るのは良くないということで私は瑠衣先輩と、唯久くんは猿弥くんと同じ部で寝ることになりました。
唯久くんと布団を並べて寝るのは正直憧れますが、やっぱり寝顔を見られるのは恥ずかしいです。
それに今日は激しい運動もしていますし、もしいびきをかいて嫌われてしまったら明日から生きていけません。
もちろん、唯久くんがそんなことで嫌いになるとは思っていませんが、それでも気になるものは気になります。
そんな理由で男子二人の後に入った私を瑠衣先輩は待ってくれていました。
「本当は唯久と同じ部屋がよかったか?」
「半々ですね。一緒に寝れたら嬉しいですけど、やっぱり寝顔とか見られるのは恥ずかしいので」
そんな話をしながら通された瑠衣先輩のお部屋は、とても広く整理整頓されていた。
先輩の性格なのかあまり小物は無く、本棚に勉強机、ベッドと布団、そしてトレーニング用の名前の知らない器具がいくつか置かれていた。
「ベッドと布団どっちが好きだ?」
「布団が良いです。実家では布団だったので」
初めて一人暮らしをして憧れのベッドでしばらく寝てみたけど、結局合わなくて布団を床に敷いてしまい、ベッドも今や布団干しにしかつかっていない。
「それじゃあ、私はもう少しトレーニングしてから風呂に入る。猿弥達は勉強部屋か自室にいると思うから時間を潰していてくれ」
「わかりました」
「風呂から上がったら色々と話を聞かせてもらうからな」
「お手柔らかにお願いします」
聞かれるのは唯久くんの事かな?
それとも猿弥くんの学園での生活かな?
どんな話になるのか想像しながら猿弥くんの部屋をノックする。
瑠衣先輩の部屋が猿弥くんの部屋だって聞いてたけど、もしかして勉強部屋かな?
もう一度ノックすると、今度は返事が返ってきた。
「開いてるよ」
招かれてはいると、こちらもまた綺麗に整頓されていた。
瑠衣先輩とは違って物に溢れている。
武器商人になりたいと公言しているだけに、モデルガンが部屋に沢山飾られていた。
大砲みたいなものから、本当に銃なのかわからない大きさのものまで沢山の銃が飾られていた。
「凄いね」
「本当は本物の銃を見たいんだけど、手に入らないんだよね。そのせいで構造の部分が曖昧なんだよ」
「ネット見れば構造くらいなら乗ってるよな?」
そんなのもインターネットにあるんだ。
私も機械の扱い覚えないといけないな、メールと電話以外で使ってないし。
「さっきも言ったけど、設計図だと実際の質感や反動がわからないんだよ」
「質感はともかく、反動はいらないだろ。無い方が使いやすいだろ?」
「俺が求めてるのは完全な造形だ。反動を知らないから反動がないんじゃなくて、反動を知ったうえで反動がないっていうのが必要なんだよ」
こういう言い合いを見ていると男子はいいなって思う。
銃とかの話は私にはわからないから、話しについて行けない。
私は二人の言い合いを微笑ましく眺めた。
†
それからしばらくの間三人で話し合いをしていると、瑠衣先輩が猿弥くんの部屋に入ってきた。
「そろそろ寝るぞ。明日も勉強はするんだろ?」
「そうですね。それじゃあ、二人ともお休みなさい」
時計を見ると日付も代わってしまった。
二人もお休みと挨拶してくれたが、もうしばらく寝そうにない。
「なんか楽しそうだな」
「楽しいですよ。お泊りってワクワクしますよね」
修学旅行みたいなのに、規則もない。
やっぱり二人とも同じ部屋で眠るまでお喋りしていたかったな。
「それは唯久がいるからかな?」
部屋の電気を消して布団で横になると、瑠衣先輩はそう聞いてきた。
その話だと思ってはいたけど、あまりに直球な言い方に思わず考えてしまう。
友達とも一緒だからかもしれないけど、この場に居るのが唯久くん以外だったらって考えるとやっぱりなんか違う気がする。
「そうかもしれません」
「恋というのは、その、どういうものなんだ?」
「漠然としてますね。でも、そうですね。自然と笑えます」
「いまいちわからないな」
「そうですよね。上手く言えないんですけど、隣にいるだけで幸せで、唯久くんを思い出すだけで嬉しくて、自然と笑顔になるんです。意識してないと顔がだらしなくなっちゃうんです」
暗いし見えていないけど今もきっとだらしなく顔がにやけている。
ドアの向こうから漏れ聞こえる唯久くんの声に、体が自然と反応する。
できるなら今すぐに隣に行って触れ合いたい。
「やはり人を好きになるというのはそう言うことなんだな」
「やっぱり瑠衣先輩も唯久くんが好きなんですね」
「恋人の千歳に言うことではないのはわかっているがな。唯久は真直ぐで素直、それでいてとても強い。私のような女が恋心を持ってしまう程に魅力がある」
「知ってます。私も唯久くんが好きですから」
やっぱり瑠衣先輩も唯久くんが好き。
それは知っていた。
本人は気づいていないだろうけど、瑠衣先輩は何度も唯久くんを目で追っている。
その目があまりに優しくて、好意を持っているのがわかったから私は嫉妬した。
「認めるしかないか。それにしてもいいのか? 私が唯久を好きとわかったら猛烈にアタックする。それで唯久の心が私に向いてしまうかもしれないぞ?」
「もしそうなってしまったら構いません。私は絶対に負けませんから」
「それなら気兼ねがなくていいな。それにしても千歳は意外と好戦的だな」
「私も譲りたくないことくらいありますから」
私の言葉に、瑠衣先輩が笑った気がした。
「こんなに恋が良い物なんだとしたら、麗奈には酷いことしたな」
「宮内先輩? 告白した人を追い返してたって奴ですか?」
「そのことを今更反省している」
そういえばファミレスで話を聞いた気がする。
私に勝たないと麗奈と付き合わせないって追い返してたやつだ。
確かに可哀想だとは思う。
瑠衣先輩に勝てるのは三年生とか大人の人くらいだろうしな。
「でも、唯久くんなら諦めないと思います。その男子たちみたいに諦めたりはしていない気がしますね」
「だよな。そのくらいの気概も見せないで逃げる軟弱な男が多い。一度立ち直れないくらい叩きのめしただけでだ」
「それは唯久くんでも心が折れると思います」
一目惚れが理由とかならそこまでされても一緒に居たいと思えるかわからないし。
「今度、麗奈に会えたら素直に謝ろうと思う」
「それが良いと思います。宮内先輩も彼氏ができないって嘆いていましたから」
恋バナが好きなのも自分ができないからなのかもしれない。
その後も唯久くんのことや、私の戦い方の事、寝落ちするまで色々な話をした。




