自分の目指すもの その五
瑠衣先輩と一戦交えた後、ボロボロのまま家に帰った。
一応制服のほつれなんかは直したけど、人体の修復がいまだに上手くいかない。
確か、自分が正常だった時の姿をイメージして、そのイメージで体を書換をするらしいけど、結構正常だった自分をイメージできないでいた。
「お帰り、今日は遅かったんだな」
「父さん。そう言えば昨日は夜勤か」
朝いなかったし今日は早番だと思っていた。
夜市信久、俺の父で警察官。
大照交番に努める巡査部長でおそらくそこから出世はしないだろう。
それくらいに交番勤務が好きらしい。
できれば警視総監くらい目指してもらいけど、有名な大学とかは出てないし絶対に無理だろう。
「傷だらけだけどいじめか?」
「違うよ、ちょっと稽古してもらっただけ」
いじめに対して敏感な父さんは一瞬警官の目をしたが、俺が否定するとすぐに元に戻った。
「強かったみたいだな」
「我流っぽかった。柔道とか空手とか普通の格闘技じゃ勝てなかったよ」
そう言って自分の部屋に戻る。
制服を上だけ脱いで傷を確認するが、大きな怪我はない。
まあ、俺は直接殴られたりしたわけじゃないしな。
全部が寸止めで俺が怪我している原因もほぼ砂やコンクリートの擦過傷。
それとわずかな火傷、後はとてつもない疲労感だけだ。
部屋着に着替える気力もなく、俺はベッドに倒れ込む。
「悔しかったな……」
天井を見上げそう呟く。
瑠衣先輩は強かった。
魔法による身体能力の書換、体の炎化、体術はそこまでなかったが、それを補う魔法のセンスは流石主席と思えた。
あの人が最初の目標だ。
千歳の側にいるために必要な最初の目標。
よし、当面の夢は最強だ。
そうと決まれば、色々と考えないといけないな。
瑠衣先輩が使った炎化の魔法、あんな風に変化する魔法使いは多いだろう。
その対策から考えてみよう。
その日、日付が変わるくらいまで対策を考え続けた。
†
翌日、疲れが残ったまま学園に向かった。
テーブルで寝落ちしたせいか疲れは大して取れず、ぼんやりしたまま登校し、千歳に心配されてしまった。
教室に着くなり机に突っ伏した俺に猿弥が話しかけてきた。
「なぁ、昨日姉貴と喧嘩したって本当か?」
「あ? ああ、めっちゃ強いなお前の姉さん。全く歯が立たなかった」
顔を上げる元気もなく、机に突っ伏していると前の席に猿弥が座ったらしく、椅子を引く音が聞こえた。
「姉貴がお前の事褒めてたよ。俺なんかよりよっぽど強かったってさ」
「そうか」
段々と眠気が強くなってくる。
目を開けているのもしんどくなってきた。
「魔法の授業で俺と戦え」
「ああ……、いい、ぞ……」
これ以上は持たない。
まだ何か言っている猿弥の声が遠くなっていき、俺の意識はそこで途絶えた。
それから草部先生が入ってくるまで眠っていたが、やはり眠気が取れず、欠伸を繰り返し草部先生に叱られた。
お説教の後は魔法の授業だった。
慣れてきた魔法を使い鏡の国に入る。
自宅のマンションにやってきて、時間まで寝ようと思っていたが、着信音で目が覚めた。
猪川猿弥と表示される画面に拒否しようかと思ったが、しつこくかけられそうで仕方なく出ることにした。
「なんだよ。眠いんだよ」
「授業で戦えって言っただろ!」
スピーカーから猿弥の叫び声が聞こえた。
「そんなの聞いてないぞ?」
「朝言っただろ! いいから学校のグラウンドに来い!」
そのまま俺に何も言わせないように通話が切られた。
眠くて動きたくないけど、ここで無視するのもいじめみたいで嫌だしな。
確か駐輪場に自転車があったしそれ借りるか。
寝ぼけて自転車をこいできたのか、気がつくと学校の前に来ていた。
そのままフラフラとグラウンドに着くと、クラスメイト達がそこで待機していた。
何の集まりかと一瞬考え、中心に立つ猿弥の姿を見て自分が何をしに来たのか思い出した。
クラスメイトは俺達の戦いを見に来たのか。
千歳もいるし先生もいるんだな。
寝不足の目を擦りながら猿弥の前に立つ。
「決闘を忘れるか普通」
「悪い。眠くて頭が働かないんだ」
「それでも受けたんだから遠慮はしないぞ」
「ああ」
草部先生が審判として俺と猿弥の間に立つ。
俺達が全力でやれるように、先生がクラスメイトに障壁を作ってくれているらしい。
「夜市さん辛いならやめてもいいですよ?」
「寝ぼけていても約束は守ります。それに自分の状態が悪いからって敵は見逃してくれないですから。そんなんじゃ、千歳は守れない」
俺の言葉にクラスメイトから黄色い歓声が上がった。
突然のことに体が反応し、少し目が覚めてきた。
「夜市さん、面白い魔法を使ってますね」
「どういうことですか?」
「いえ、これなら別に問題ないでしょう。それでは勝負を始めましょうか」
先生から合図が上がると、猿弥が動き出した。
「【錬成:銃】」
二丁の拳銃が猿弥の手に創造され、猿弥は躊躇いなく引き金を引いた。
俺は体を鉄に書換し銃弾を弾く。
無駄と知りながら猿弥は何度も銃を撃ち続ける。
足止めが狙いか。
それなら、こっちは動くだけだ。
カンカンと体が銃弾を弾き俺は近接戦に持ち込むことにした。
そしてお互いが殴り合える距離に近づくと、猿弥の手に持った銃が姿を変える。
二丁の銃が一丁に変わり、バチバチと電気が通る。
その武器は知っている。
そして俺が殴るよりもその弾丸の方が早いのも知っている。
体の硬化に意識を向ける。
電気を待っとった二本の磁石の間に弾丸が創造され、磁石の反発で弾丸は瞬時に加速する。
俺の思考より早く射出される弾丸は、俺の腹部に直撃する。
そのまま勢いよく飛ばされすぐに体制を立て直す。
衝撃に気持ち悪くなるが、俺の硬化の方が強かったらしく傷は負っていない。
「まだまだ、行くぞ」
レールガンから普通の銃に変わり、またしても連射する。
弾丸が俺に当たり何発も地面に落ちる。
「そんなのを何発撃っても俺は倒れないぞ!」
「それくらいで落ちるとは俺も思ってないさ」
何かを狙っているのは確かみたいだが、何を狙っているんだ?
ようやく目が覚め始めてきたが、一向に狙いがわからない。
「そろそろ準備できたぞ」
「準備?」
「その弾丸は爆弾だ【誘爆】」
一発の銃弾が地面に触れる。
銃弾は一瞬だけ光り小さな爆発を起こす。
そこから一つまた一つと爆発を起こし、無数の銃弾が一斉に爆発する。
粉塵と爆音を振りまいた一撃には流石にダメージを受ける。
だけど、これくらいならまだ余裕だ。
もう一発はくらわない。
その直後、粉塵を超えて一本の筒状の何かが投げ込まれた。
その不自然さに、ついそれを凝視してしまった。
不可思議な物体は俺の目の前で破裂する。
目を焼く程の閃光、鼓膜を破るほどの轟音。
それが閃光弾だと気づいたのは視覚も聴覚も奪われた後だった。
咄嗟に体を丸め、次の瞬間に俺顎先が何かに打ち抜かれ、俺の意識は刈り取られた。




