(七)私も歌いたい⋯⋯
フェニックスの外見はまあアルセーヌみたいな感じです。顔は別にあんなボーボーしてなくてぐにゃぐにゃもしてません。普通の女の子やぞ!だからペルソナ、メガテンみたいなやつではない。
『⋯⋯っ!しまった!』
後先を考えずに全速力で飛行していた事を忘れていた。慌てて翼を勢いよく閉じ、一定の間隔で翼を揺らしバランスをとる。
『レイラっ!無事か!?』
そのままの姿勢で何とか平衡感覚を保ちながら問いかける。
「⋯⋯っふふ、おそ⋯いよ⋯⋯」
そう言い笑いかけるレイラだが、明らかに無理をしている。やはりあの管をどうにかせねば!
そう思い、管の元へ行こうとした時⋯⋯
『何のつもりだ?フェニックス』
突然スピーカーの様に空間に声が響いた。
『どうしたもこうしたも、レイラが危機に陥っているのだ、レイラを助けなければ!』
その私の言葉の何が可笑しかったのか、その謎の声は私を嘲笑った。
『はぁ?お前ほんとに言ってんの?グレイス様が望んでるんだよ、何の意図かは分からないけど、確かにその女に『剣』を刺したんだ。刺されたからにはしっかり強くして主に返す義務があるんだよ。⋯⋯お前に何の権利があってレイラ、だっけ?の成長を邪魔するわけ?』
その言葉に、この声の主が何者であるかが分かった。それと同時に、激怒した。
『禁忌之至剣!貴様には失望した!何が義務だッ何が成長だッ!貴様がやっていることはただの惨虐だッ!今すぐ止めろッ!!』
その私の言葉も鼻で笑われた。
『誤解している様だから言っておく、禁忌之至剣、レーヴァテインは神器のランクとしてはほぼほぼ最上位に位置するがその特異性、惨虐性、怠惰性により正当な評価も無しに歴史の闇に葬り去られたかんわいそ~~~うな剣なんだよ。』
そして、と言葉を繋ぎ
『そのチカラとは試練を乗り越えた者を禁忌へ至らせる。その禁忌とは今まさに行われているこの惨状、そう!惨状だよ!特に乱れてもいないが確かにレイラ?の中はグチャグチャだ。言葉を発するのもやっと、いや、本来そんな事をする余裕すらない状態だ。愛の賜物かな?』
「巫山戯るなッ!!!」
今この場において、上にいるのはこのレイラを強化する世界そのもの、レーヴァテインだ。それゆえに、私はただレイラが苦しむ様子を見て、何も無い空間に虚しく叫ぶ事しか出来ない。
しかし、ここでレーヴァテインが間に割ってきた
『ふざけるな⋯⋯と、言いたいのはこっちだよ!』
その言葉に私は少し言葉が詰まった。
『いつもいつもいつもいつもいつもいつもッ!!!やりたくもないのに勝手に使われて、やりたくもないのに世界を創って、観て、送って!グレイス様に拾われて、やっともう使われないで済むと思ったのに結局使われて!もう⋯⋯苦しみを見るのも、味わうのも嫌なのに⋯⋯どうしてっ⋯⋯どうして使ったんだよ⋯⋯グレイス様⋯⋯』
私ははっとした。おそらく、彼女も自身の持つチカラ故に傷ついていたのだ、それも自分の知る神器の知識としては太古も太古、それこそ何百、何千万もの時を錆びもせずに新品の様に無傷であったという、神が自らの手で創造したという武具だ。そんな永劫の時を地獄で経た神器とは、心が壊れても可笑しくは無い。しかし、彼女も壊れてはいない。壊れなかったのか、壊れられなかったのか、その真相は分からないが、だとしても、たとえ錆びもせず、新品の様に無傷であっても、心に残る傷は深いというレベルではないだろう。
そんなことを考えていると⋯⋯
「⋯⋯とえ絶対届かない空も、二人なら輪廻の果てまでも、ね!過去も未来もすべて笑って味方にするーーー夢の中で旅をさせてーねぇほらあなーたーとー、つーむーぐー!もーのーがたりーだーーー!なーゆーたのうーたーーー!」
歌を歌いながらグレイス様が空間に入ってきた。
⋯⋯いや、なんというか⋯⋯
「⋯⋯ん?あれ?もしかして何か取り込み中?」
全くもってその通りです⋯⋯!
「あっるぇぇ?何かレイラがくるくるしくしてるよ?」
そんな謎の言葉に、答えたのは⋯⋯
「あれがボクがあるじ様を読んだ理由だよ~」
「うーん⋯⋯レーヴァテイン?」
と、グレイス様がレーヴァテインに呼び掛けると、
『⋯⋯何さ⋯。』
と、レーヴァテインは不貞腐れた子どものように答えた
「⋯⋯寂しい思いさせてごめんね。」
『『((⋯⋯っ!?))』』
と、グレイス様は虚空を抱きしめた。