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綻び

 





 そろそろ始めましょうか。

 皆さん、うまく踊ってくれるといいなぁ。






 **********





 王室の謁見の間に、クリスとカタール、ギースが呼び出されていた。

 国王の傍らに、エルリアの父であり宰相のグラードが厳しい表情で立っている。


「さて。噂は聞いているかな?」


「皇国が戦争の準備をしているという噂ですか?」


 ギースがそう答えると、クリスとカタールが眉を顰めた。


「どうやらクリスたちは知らなかったのか?お前らはなにを遊んでいる。学園で腑抜けたか?」


 国王が無表情に言い放つ。その声はひどく冷たい。


「申し訳ございません。」


「ギース、お前もその情報はすぐに殿下のお耳にいれるべきだったのではないか?」


 今度はそうグラードに言われて、ギースが頭を下げる。


「情報一つ遅れを取れば、後々甚大な被害にもつながる。気を抜くな。」


 はい、三人で声を揃えて応える。


「戦争の準備など、あくまで噂だ。今ことを構えても()の国にそれほどの得があるとも思えんし、その噂の出所もわからず広く出回っているものでもない。が、恐らく意図的に撒かれたものだ。その意図が分からん限りは、放っておくわけにもいくまい。そこで、ギース、お前にはその噂の真偽を詳しく調べてほしい。」


「ギース、私は宰相として表立ってのことをする。お前は影をつかって裏から探れ。」


 国王と、そしてグラードが続けてギースにそう指示する。は、とギースは腰を折って返事をする。


「そして、クリス。」


 声をかけられて、はっ、と応える。


「お前が幼い頃、エルリア嬢との婚約に際し『相応しくないのであれば切り捨て別のものを据える』と私に告げたのは覚えているか?」


 覚えている。がすぐに返事ができずに口ごもってしまった。


「覚えているようだな。」


 薄氷のようなアイスブルーの瞳が、クリスを見据える。


「今ここにあいつを呼ばなかったのはそれだ。」


 グラードが言う。


「クリス、場合によってはお前にはエルリア嬢との婚約を破棄し、皇国の姫と縁を結んでもらうことになる。」


 クリスの脳裏に、婚約披露の際にカタールから言われた言葉がよみがえる。




『大局のためなら、女一人に執着しない。不要になったら、都合が悪いなら、切り捨てる。それを求められる地位にいる。』




「決まったわけではない。エルリア嬢へはお前が話すと決めるなら、したらいい。その辺りは任せる。お前は、その可能性があるということだけ知っておけ。」


「……はい。」


「カタール、お前も名に恥じぬよう、今後もクリスを頼むぞ。」


 はっ、とカタールが礼をする。


「各々、己の頭でなにをすべきか、考えて行動しろ。下がれ。」




 **********



 謁見の間を後にして、カタールがクリスに声をかける。


「クリス、」


「お前の言う通りになるかもな、カタール。」


 その声は皮肉めいて刺々しい。


「クリス、落ち着けよ。」


 クリスがなにか声を発しようとして、思いとどまって息を吐く。


「落ち着いているさ。……ギース、なにかあれば今後は教えてくれ。」


 そういうと、ギースははい、と答えるが、それを聞くか聞かぬかで、クリスが踵を返して回廊を歩き去っていく。





 エルリアを中心に集まっていた関係に、(ほころ)びが生じるのをそれぞれ三人ともが感じ取っていた。

 だが、誰もそれを口にすることはない。



 きな臭い、戦争の噂。

 不穏な空気が、立ち込めようとしていた。



作者、更新頻度を少し控えて書き溜めてまいりました。

ここからは、毎日更新したいと思います。物語の最後まで。


どうか読者の皆様。

エルリアと彼女の愉快な仲間たちが最後には皆で高笑えるよう。

彼女たちに温かなご声援をお送りいただければ、幸いです。


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