幸せの喧騒
生徒会室前でノックすると、中からギース義兄様がどうぞと入室を許可してくれた。
「失礼いたします。」
「遅い。エルリアに何かしたんじゃないだろうね、ローゼ。」
クリスがいら立ったように声をかける。珍しいよね、クリスがこんなに早くご令嬢と打ち解けるの。
その様子にローゼは眉を顰めてこれ見よがしにため息を吐く。
「……やっぱりこんなお子様にエルリアを任せられないわ。エルリア、私と一緒に世界一周の旅に出る?」
「おい待て。どうしてそんな話になるんだ。」
「世界一周かぁ。すごい楽しそうだなぁ。」
「エルリア、だめだよ。勝手に飛び出しては。」
ギース義兄様が微笑みながら、エスコートして席に着かせてくれる。
どうぞレディなんて、ローゼもエスコートされるが、私は見逃さなかったぞ。ローゼ今すっごい嫌そうな顔していたでしょう?
悪い人じゃないよ、ギース義兄様。ちょっとたまに暴走するけど、大体において紳士だよ?
ギース義兄様がお茶を淹れてくださって、しばらく雑談タイムになった。
「え、クリスが生徒会長になるの?」
そういえばゲームではそうだったけど。
「まぁ、王族がいるのに他の者にさせるわけにはいかないだろう。」
そうカタールが説明する。そんなものなのか。
「ええー。でも、今でもクリスもカタールもあんなに忙しいのに大丈夫なの?」
忙殺されている普段の二人を見ているので心配すると、二人ともげんなりとした顔をしてため息を吐いた。
「「大丈夫じゃない。」」
やっぱりそうだよね。
「じゃあ少し王家の方の仕事を減らしてもらったりは……」
「できると思う?」
クリスが諦めたように遠い目をして笑う。
「……できないよね。」
あの国王陛下のことだ。学園の仕事で手を取られるからってクリスたちの仕事を抑えるような真似はしないだろう。
無表情な、しかしクリスたちや私に膨大な仕事を押し付けるときだけはちょっと目が笑う陛下を思い出して私もつい目の前の光景が遠のく。
もし仕事を減らすよう直談判しようものなら、そうか、と無表情に次の瞬間には仕事の量も質も増やして負荷を増やしてくるに違いない。
想像して思わず震える自分を抱きしめる。
「だからこそ、ローゼを生徒会に誘ったわけで。」
嫌だけど、嫌だけどな、とクリスもカタールも交互に言いあう。
頼み込む立場でお前らなんてことを。
「ローゼ嬢は優秀なんだよ。特に数学、地学、語学は群を抜いているよね。入学して間もないのに、子息方はもちろん、先生やご令嬢方の間でも評判がいい。」
ギース義兄様が教えてくれる。
そうなんだ!さすがローゼですわね!
私の評判が地平を掘り進める掘削型なのとはわけが違いますね。
「エルリア、あーん」
もぐもぐ。口に放り込まれたお菓子を咀嚼する。
「はい、もう一個あーん」
もぐもぐ。あ、こっちも美味しい!
「美味しい!これ手作りなの?」
「そうよー。昔露店で売ったりもしてたのよ?稼ぎ頭よ、私。」
「ええー!すごい!また作ってきてほしい!」
「いいよ。そうだ、今度一緒に作ろうか?」
「あ、作りたい!」
キャッキャウフフ。
そうそう、私は人生にこういう潤いが欲しかったんだよ。素敵!
「……ローゼ、エルリアを餌付けするのはやめてくれないかな?」
「まぁ、餌付けなんて。ご令嬢に利く口ではないでしょう、クリス様?ご自身がエルリアにあーんできないからって当たらないでいただきたいわ。」
クリスは凍傷になりそうなほど冷たい視線をローゼに送るが、受け取る彼女はまったく気にもした風でもなく、その視線をちらりと見ただけで投げ捨てお茶を手に取る。
かっこいい!
私もそんな風に世間の風当たりをかわしていきたいです!
「君、なんなの?最初と態度違くない?」
「ええ。だって私、貴方方なんてどうでもよかったから。けど、エルリアと友達になったからには、そのお友達を適当にあしらうのはやめて差し上げようかと。」
「エルリアの友達……!?そしてあれはあしらわれていたのか……!いやしかし、今の方がひどいだろう!?」
「おい、クリス。落ち着けって。」
「まぁ。今までちゃんと向き合って人間関係を築いてきていないから、そんなこともわからないんですわよ?」
「おい、ローゼ。お前も挑発するなよ。」
「一人落ち着いているように見せていますけど、カタール様も相当お子様ですわよね。」
「はっ?なんで急に俺に矛先が変わるんだよ!?そして誰がお子様だって!?」
「確かに、こいつ私とエルリアのことをお子様扱いするが意外と自分だって変わらないと分かってない。」
「おい!?なんでクリスまでローゼの味方するんだよ!?」
「まぁ、仲間割れですか?結局貴方方の信頼関係なんてそんなもんですわよね。しょっぼいわぁ。」
「「うるさい、ローゼ!」」
言い争いが勃発しているが……、うむ。放っておこう。
ギース義兄様が淹れてくださったお茶を楽しむ。
はぁ、ほっとしますわー。
「エルリア、君、ローゼ嬢と知り合いだったの?」
ギース義兄様からそう尋ねられる。
「いえ、今日知り合いになりました。」
前世で存在は知っていたが、会うのは初めてだ。
「それがなにか?」
「……。」
なんの沈黙ですの!?
「いや。なんでもない。」
そんなんで誤魔化されるお思いですの、ギース義兄様?
「それなりに長い付き合いで知ってますのよ?ギース義兄様が口ごもるときはたいてい私が聞いておけばよかったなと思うような情報だってこと。」
そうなのだ、この義兄は、妹可愛さに情報を隠すことがある。
「さぁ、はいてください、ギース義兄様?なんだったらカツ丼もご用意しましてよ?」
「カツドン?」
おっと、自首の時にはカツ丼なんてこの世界の常識にはありませんでしたね。というか丼ものないですわね。
「いえ、なんでもありません。ほら、それよりなんですの!?」
君はよく見ているなぁとギース義兄様が感心半分、呆れ半分に息を吐く。
「彼女というより、ロゼニア伯爵のことだ。」
え?ローゼの父様のミジンコ変態伯爵?
「父様が昔、ロゼニア伯爵と懇意にしていた伯爵家を潰した。ただそれを思い出しただけだよ。」
「潰した?」
なぜ?と聞く前にギース義兄様が被せるように言葉を紡ぐ。
「ふと思い出しただけだ。それ以上はないよ、エルリア。」
そう言って、義兄様は私の頭を撫でる。
「あ、こら。二人で世界をつくるなよ。」
クリスとローゼの仲裁をしようとして巻き込まれていたカタールがこちらを振り返る。
「エルリア、本当にこんな男たちでいいの!?貴方にはもっと相応しい相手がいると思うわよ?」
「だれがこんな男だ!要らないことを言うな、ローゼ!」
先ほどまでの春の嵐は収まり、窓の外には美しい空が広がっていた。
薄い青色から空が茜色へと変わっていく。
ヒロインがいて、攻略対象者もいて、悪役令嬢もいて、皆でわいわいと騒いでいる。
夢のようで思わず、ふふ、と笑うと、じろりとクリスに睨まれた。
「笑っているけど、エルリア?君が昼間に男の胸に飛び込んだという一件は忘れたわけじゃないからね?」
おっと、私にまで飛び火してきた!しまった!
しかも、それを聞いたギース義兄様が、え?と呟いた後で、
「……どこの馬の骨の胸に飛び込んだんだい、エルリア?」
と私の肩を掴む。
目が怖い目が怖い!
ギース義兄様まで参戦!なんてこったい!
「いた!こら!エドだね?小石を投げるのはやめなさい。一応これでも君の上司なんだよ?」
小石をぶつけられた義兄様は、天井を睨んで文句を言う。
「いいぞ、やれやれ。」
とカタールが煽ると、彼にはさきほどよりずっと強い勢いで拳大の石が投げられる。
一応、ギース義兄様は上司だから遠慮して小石サイズだったらしい。
「おい!エド!?教室でのナイフといいこのサイズの石といい、いい加減にしろよお前!」
カタールが怒鳴る。が、更にナイフが投げられてくるのを彼がよける。
「お前、ちょっと表でろ。」
そう言ってカタールが廊下へのドアを開けて待つ。が、エドは降りてこずにカタールが待ちぼうけになる形になる。
「ふ、ふふふ!はは!」
面白くて、つい口を開けて笑った。
ローゼが私に可愛い!と抱きついてきて、そしてそれを見てまたクリスが彼女に冷たい笑顔を張り付けていい加減にしなよ、と地を這う声で言い放つが、ローゼはあっかべーしてみせる。
そんな幸せの喧騒で、ギース義兄様と話していた些細なことは掻き消されていた。
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出会いの季節が過ぎ、月日を重ねて、幸せの日々が続いていく。
ローゼと、ここでこんなイベントあったよねぇなんて笑って、ゲームであったイベントも過ごしていく。
幸せすぎて、ふいに不安になる。
けど。
ずっとこんな幸せが続きますように。
ただただ、そう強く願うことしか、できない。
いやぁ、一日が長かったですねー(笑)
そしてその割にさっさと日々が過ぎていく(笑)
ところで、作者弱音をはきたい。エルリアちゃんにセクハラもできずコメディも控えめ、こんなお話のどこを読めばいいというか(くっ!)
力不足をひしひしと感じております。
さらには、他の生徒会役員どこいった!?自分でつっこんでしまいました。
ま、まぁ。心優しい読者の皆様。
つっこみどころだらけの稚拙なお話ではありますが、お時間あるときにまた足をお運びいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたしますー!




