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春の嵐と小さな棘

 




 まさかの悪役令嬢乗っ取り事件勃発!?


 何言っているんだ、ローゼ!?

 本気なのか!?なんて動揺していたら、


「なんて、嘘よ。ちょっとそれもありかなぁと考えていたのだけれど。」


 とローゼはころころと屈託なく笑う。

 びっくりだよローゼ。何てこと考えるんだよローゼ。冗談でそんなこと言わないでおくれよローゼ。


 ふぅぅぅぅと重いため息をつく。


 危うく私の悪役令嬢が乗っ取られるところだ!私のアイデンティティ崩壊だよ!

 ……ってあれ?悪役令嬢回避が私の目標だよね?

 しまった!なんかすごいアンビバレンスな気持ちだこれ!

 ええー、でも悪役令嬢としてやってきたからにはそう簡単には渡したくないけど、あれぇ。

 う、うむ。複雑な気持ちを持つのが人間だよね☆(←秘儀☆考えてもわからないので誤魔化す☆)


「『可愛いは正義』を主張する私の矜持が許さないので、エルリアを虐めるのはなしにして。」

 

 ローゼがふっと息を吐きだす。


「王子様たちをからかって、父様ごと爵位を剥奪されようかと。死刑はさっきのエルリアが言ってくれた言葉で踏みとどまってくれるでしょうから、あとはどんどん追い込むだけですわね。やり過ぎて、ついでに国外追放されても構いませんわ。どっちにしてもフレッドと世界中を見て回ろうって話していたところですもの。」


 あのミジンコさっさと没落してしまえ、とどこから出すのか地獄の底のような声でローゼが呟き、にたりと口角を上げる。

 見ると腕に鳥肌が立っていた。

 ええと、つまり。

 自分は最初から高飛びする予定だから、変態ミジンコの爵位は剥奪・没落させようってことですのね?

 さっき卒業時に爵位剥奪どうの言っていたのは、これですか。なるほど。

 わぁ、計画的犯行ですね!

 なんかすごい子とお友達になったな。

 私が思い描いていたヒロインちゃんと全く違うぞ?

 こんなアグレッシブに自分の人生勝ち取りに行くとか、どこぞの姉様を思い出すよ。


「というわけで、私はフレッドと世界を回るからこっちは任せたよ。あ、でも嫌なら言ってね!私にできることするからね。」


 ローゼが私に明るく笑いかける。



 ……ちくり。



 その笑顔に、小さな痛みが走った。

 あれ?なんだろうこの棘は?

 小さな痛みが、胸騒ぎとなって心に広がっていく。

 あ、だめだ、これ。まっすぐに見ちゃいけない感情(やつ)だ。


 ローゼは軽やかな足取りで廊下を歩いていく。

 追いかけなきゃって思うのに、私の足はうまく動かない。





 **********




 がつん!



 廊下の窓から大きな音が鳴り、はっとした。

 音の出元を見ると、そこにはヒュー先生の頭と白衣が見えた。どうやら転んで窓に頭を打ち付けたらしく、頭部をさすっている。


 なにしているんだ、あの人は。


 ふ、と小さく息を吐いて硬くなった頬を緩ませる。

 ひょろひょろさんなのに、さらにドジっ子さんなのでしょうかね、ヒュー先生は。と思ったがどうやら事情があったらしい。

 外はいつの間にか春の嵐に変わっていた。

 ごうごうと吹き荒れて花びらがすごい勢いで散って舞って、舞いまくって最後には突然発生した竜巻によって巻き上げられていった。

 ヒュー先生が声を上げて生徒たちに避難を呼びかけている。そして前へ進もうとするも、ひょろひょろの体はすぐに風に押し戻されてまたがつんと窓にぶつかる。


 大丈夫かな、ヒュー先生。やっぱり筋肉つけないから。筋肉は裏切りませんものね。今度スクワットくらいするよう勧めてみよう。


 とりあえず声かけよう。私は窓に駆け寄る。

 強風でなかなか開かない窓をなんとか開けて、ヒュー先生を見ると疲労困憊(こんぱい)だがなんとか無事そうだった。


「ヒュー先生、大丈夫ですか!?体力も筋力もなさすぎですよ。しかもこういう力仕事(?)はあのムキムキ先生に任せればいいのに。」


 私は先生の髪や肩や背中、頭についたり乗ったりしている花びらや葉、枝、どっからきたお前ら!の数匹の猫ちゃんズを取っていく。

 みゃ~みゃ~。

 かっわいいいいいいい!


「お、おお、気遣いどうもな、ウィスタンブル嬢。そしてムキムキ先生って。彼は今日は出張中だ。」


 みゃ~みゃ~みゃ~

 おっと、お前たち、校舎内は立ち入り禁止よ。ごめんね。猫を撫でていたら、


「お、どうした?なんか泣きそうな顔して。」


 とダメ教師にふいをつかれて、黙り込む。


「どうしたよ、この前までの勢いは。」


 はは、とヒュー先生が笑いながら、なんかあるなら聞くぞ?と窓枠に腕をかけて、尋ねる。

 そんな、葉っぱも猫もくっつけて、髪ぼさぼさにして、眼鏡もずれてかっこ悪いダメ教師に見破られるなんて。


「うっさい、ダメ教師。貴方に相談することなどありません。」


 思わず、不貞腐れた態度を取ってしまう。


「ああー、そうだな。まだダメ教師脱却はできないな。ま、でもダメ教師の汚名を晴らすためにも、なんかあれば言えよ?」


「別に。今回は貴方(せんせい)にいうことじゃないだけですわ。」


「そうか。まだしばらく風が強そうだからな。治まってから、気を付けて帰れよ。」


 優しく諭すように、ヒュー先生は言う。

 やめてよ。心が弱っているときに、優しいことを言わないでよ。

 その言葉だけは、声に出さないように気を付けて飲みこんだ。

 その代わりに、


「ふふん、先生もお気をつけて。飛ばされない筋力をつけるためにも、今後はスクワットすることをお勧めしますわ。」


 そうかっこよく(私当社比)髪を払いのけながら言う。

 まぁ、窓から入ってくる風が強すぎてばっさばっさと髪は舞いまくってますけどね!


「おお。そうだなぁ。お前のいうムキムキ先生に教えてもらうわ。じゃあな。」


 ヒュー先生が風に向かってのろのろと歩いていく。その後ろを悠々と猫たちが列をなして歩く。

 頭いいな、猫ちゃんズ。風よけをゲットだぜ。一匹は先生の白衣に爪を引っかけて風に舞っている。楽しそうだな。



 ……泣きそうな顔して、か。

 ヒュー先生。そんな顔してましたか、私。

 

 猫ちゃんズを撫でてちょっとだけ、心が解れた。

 大丈夫。大丈夫。そう、自分に言い聞かせる。

 呼吸をしろ、エルリア。

 ちょっと、情けなくなっただけ。

 他人を(うらや)む前に、自分がすべきことをしないとね、エルリア。

 なら。笑え、エルリア。

 泣いた自分より、笑った自分が好きでしょう?皆で幸せになるって決めたでしょう?

 

 大きく、一つ息をする。



 だだだだだだだだだだだだだ

 ききーっ!


 そう、音がするほどの勢いでローゼが廊下を駆けてきて私の前で急に止まる。


「エルリア!よかった!話しかけても全然返事がなくて見たらいなくて!大丈夫!?」


 可愛いローゼ。勝手に比べて、勝手に情けなくなって凹んでしまっていたけど。

 

「大好きだよ、ローゼ。」


 そうローゼに微笑む。急に言われてローゼは意味が分からないと首を傾げるが、


「私も、好きだよ。エルリアが、こんな素敵な子でよかったよ。」


 そう頭を撫でてくれる。

 ああもう。だから弱っているときに優しくしないでくれよ。


 ぐっ、ぐぐぐ、ぐぎゅご……ごぅっ?

 

 お腹がなる。ナイスだ、ちゃんとタイミングを計ることもできるんじゃないか私のお腹の中のモンスターは!


「お腹が空いたから早く行こう、ローゼ。お菓子食べたい!」


「そうね。私の手作りなの。」


「え、ローゼってお菓子作りもできるの!?」


「ふふ、前世も含めて色々やってきたらからね。任せてよ。」


 そう言ってなぜかローゼは力こぶを作ってみせる。

 ううーん、前世も含めて色々ってなにやってきたんだろう。すごい興味あるな。今度色々聞いたいなぁ。

 

 まぁ今日はとりあえず、フランスパンを持たせてくれたリリアを、帰ったら褒めてあげよう。

 こんないいタイミングでお腹を鳴らしてくれたんだものね。

 

 ……でも、天然もたいがいになさいね、リリア。





メイドのリリアは、フランスパンを持たせるのは個人的にはドSっぽいと思っていたのに、なぜか褒められてあれ?と思いつつも嬉しくてまぁいっか☆となります。←訂正します。ごめんなさい!あれですね、リリア、うまくドS的なことをできたから褒めてもらえたと喜ぶところですね(笑)


ヒュー先生、少しは名誉挽回できてますかね?ちょっと騙されやすいですが、根は正直な優しい人です。最初こそ碇〇ンドウ並みに丸眼鏡を反射させてましたが、実際にはのんびりやさんでちょい猫背、無精ひげ、よれよれの白衣をなびかせる素敵なおっさんです☆猫ちゃんズにも隠れて餌あげて可愛がっている様子(笑

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