空耳と傾国の、
話は少し巻き戻る。
そう、スキップしながらオープニング曲を鼻歌で歌い、周りから奇怪な目で見られるも気にも留めずに、学力試験の結果を見に行った頃に。
順位表を見ると、クリスは当然のように一位だった。
うんうん。ずっと誰より努力してきたもの。さすがだよ。
お、二位はカタールじゃないですか!
おおー!幼馴染がワンツーって、なんか自分のことでもないのに、すごい嬉しいな。
因みに、私は八位。よしよし、まぁまぁだな!えへん!
そして、ヒロインちゃんは……あれ?
ヒロインちゃんが二位で、それでクリスたちが生徒会へ誘うはずだったよね?
話が変わっている!
まさかカタールがヒロイン化!?それって物語が違う話になっちゃうよね!?まさかのロレーヌ姉様のせい!?
いや待て待て。
あの二人がそんな空気を醸し出したことがあったか!?
今までの彼らの普段を思い返してみてそんな雰囲気は……。
「ほら、クリス頬にクリームついてる。」
「どこ?」
「あー、そっちじゃないって。もういい。」
そういって、カタールがクリスの頬のクリームを手で掬って舐める。
どこのバカップルだよと口から砂糖吐きそうになった。
「お疲れ、カタール。これ西の領地の新しい織物なんだけど、吸水性がすごいんだよ。お前訓練でよく汗かくし、ひとつもらってきたんだ。」
「おお、ありがとうな、クリス。」
先輩、どうぞこのタオル使ってくださいという映像が背景に流れる。
アオハルかよ。
……あったわ。意外とそんな空気醸し出してたわー。
いやでも、私にちょっかい出していたこともあったし。ん?あれもしかして、カモフラージュ的な?ありえるわ。
もうそれで物語完結でいいかな。迷宮になんて迷い込む前に、終わらせてしまえばいいんだよね。そうだそうだ。
ヒロインちゃんには申し訳ないかもしれないが、困難を乗り越えて二人はずっと仲良く暮らしましたとさ、めでたしめでたし☆
うむ、きれいにまとまった。
それでは、私はどうしようかな。ギース義兄様にずっと面倒見てもらうわけにはいかないしなぁ。旅に出てみるのも面白いかもしれない。エドはついてきてくれるかな?そうか、そんな世界もあるのかぁ。面白そうだな。
……なんてちょっと現実逃避していたのですけど、さすがにそろそろ外野の騒音が無視できなくなってまいりました。
廊下が学力試験の結果にざわつく中、私の名前がちらほらと上がる。
「おい、あの馬鹿で名高いウィスタンブル令嬢が八位だぞ!?」
「まさか、あの三国一の馬鹿と噂のウィスタンブル令嬢が!?」
「えっ、あの傾国の馬鹿といわれる!?」
「親の権力のみで殿下の婚約者の座を手に入れたといわれるあの馬鹿令嬢が!?」
おい、ちょっと待て。
おかしいな、空耳アワーズの時間じゃないよね?私、どれだけ馬鹿だと思われているの?
なんだよ、傾国の馬鹿って。
傾国するほどの馬鹿ってただの馬鹿じゃないか!まんまだよそれ。飛べない豚どころの話じゃないよ。お馬鹿な転生令嬢は、ただのお馬鹿さってこんちくしょう言い出しっぺは誰だ!?
せめて傾国の『美女』部分の名残を残してほしかったよ!そこを抜かすなよ!
だれか一人くらい私を褒めろ!私は褒めて伸びるタイプの馬鹿だぞ!?
しかしあれか、お茶会でよくご令嬢たちに見下された目をされていたのは、それだけお馬鹿だと思われていたからなのか。クリスの婚約者の立場を嫉妬されているのにしてはちょっと目にこもった蔑みの色が意味わからなかったが、納得した。
そして、侯爵令嬢である私をそこまでディスれるなんて逆にお前らすげえな。侯爵家の権力舐めるなよ?
私だって、面倒だがつぶそうと思えばお前らなんかつぶせる……ああー、数が多すぎてこれは無理。
赤信号、みんなで渡れば怖くないってわけのわからん標語を思い出す。多数派民主主義ってつらいなぁ。
しかし、どんだけ私の評判、奈落の底なんだ。エルリアちゃん悪魔とは名高かったけど、馬鹿で有名ではなかったはずなんだが。
くそう、皆まとめて覚えてろよ!?
今はそれどころじゃないんだ!




