職業Ⅳ・④ 通じるなら
カラマロから逃げ切った。
俺は、もう一度笛を吹いて再度鳥を呼んでみるが、何も反応がない。
今度は狼少女も反応しないほどだ。
何故か、奏者の能力が消えてしまった。
転職したわけでもない。
船縁から海を覗く。晴れ渡った空の太陽が反射して輝いているだけで、魚たちは来ていなかった。
穏やかな波に乗る船の上で、狼少女が呑気に毛づくろいをしている。
俺の能力が消えてしまったことを別にすれば、なんとも平穏な風景である。
鳥と、魚と話が出来れば良いのに。そうすれば、俺が能力を取り戻す方法がわかるかもしれない。
だが、奏者としての能力さえ失った俺に、動物と会話する能力などない。
このまま、リタイアして帰るか。
そんな考えが頭をよぎる。
このクエストは指名で依頼された。それだけの信用を、裏切るわけにはいかない。
短剣だけでカラマロを狩るか。
狼少女もいる。不可能ではないだろう。だが、俺の受けた依頼を狼少女主体で進めていくわけにもいかない。
どうする……。
会話。狼少女は、人間の言葉を理解する。その気になれば、彼女に狼人間語を教えてもらうことはできる。
その言葉で、鳥とも、魚とも話せないだろう。だが動物たちは、異種の仲間とも意思疎通をしていた。
もしかしたら、もしかすると。笛だけでない。俺は動物たちと話せるようにならないか。
毛づくろいをしている少女に向かい歩いてゆく。
「俺に、狼人間語を教えてくれないか?」
「ワタシ、デス、カ?」
「あぁ」
彼女に教えてもらっただけでは動物たちと会話ができなくても、俺が能力を失った理由が何かわかるかもしれない。
「頼む、教えてくれ」
「ドレイ、ゴシュジンサマ、メイレイ、シタガウ。ダカラ、デキルコト、スル」
奴隷だから命令には従う、か。でも何故そんな前置きを。
「デモ、オオカミニンゲンコトバ、ナイ。ワタシ、オオカミ、オナジコトバ、ツカウ」
――俺は狼人間の言葉があるものだとばかり思っていた。だが、狼と同じ言葉を話して暮らしていたのか。
「なら、狼の言葉を教えてくれないか」
「オオカミコトバ、ヒト、ハナス、ムズカシイ」
「何故だ?」
「オオカミ、ヒト、チガウ」
そう言って彼女はうなり声を上げた。確かに、この音を俺が出すことは出来ない。
つまり、狼語で意思疎通を図ることは難しいというわけか。
なら、どうする。自問自答しても答えは出ない。
突然、船が動き出す。カラマロの動きを警戒していた小船から、こっちに向かってきているとの報告を受けたらしい。船の修理は終わっておらず、俺は戦えない。逃げるほかないだろう。
逃げているだけではクエストクリアにならない。
考えていたら、狼少女が顔を上げた。
「デモ――」




