職業Ⅲ・⑪ 奴隷購入
アナティフ奪回戦から何日か後のことだ。
この間に俺はいくつものクエストに行き、報酬金と素材を手に入れ、武具を強化していた。
港近くに奴隷商の店が開かれていた。。海の向こうから奴隷を買い付けに来た人たちにも売っていた。
俺も一人くらい手下がいればいろいろ出来るのだが。報酬金で儲かったとはいえ、さすがに奴隷を買うほどの金額にはならない。
そう思いつつ近づいてき、値札を見て驚いた。安い。人の値段とは、こんなに安いものなのか。
よく見れば盗賊や山賊の値段が安い。危険な人物をわざわざ近くに置きたい人は少ないだろうからこんな値段になるのだろうか。
この前の狼人間も檻の中にいた。男の狼人間は戦力となるため冒険者に買われていく。
その奥に、子供の狼人間が入れられている檻が並んでいた。子供では戦力にならないと思われているのか買う人は少ない。時々、成長させれば従順で強い奴隷を作れると考えた冒険者が買って行く。
この前見かけた狼人間の少女が檻に入れられていた。
前を通っていく冒険者は物騒な格好をしていて奴隷をにらみつけて見ていくものだから、この少女がおびえていた。
こんな少女を買おうと考える冒険者はおらず、無視して通り過ぎていく。
「買われなかった奴隷はどうなるんですかね?」
近くにいた奴隷商に聞いてみた。
「買われなかったらですか。船員として船に乗るか、鉱山に送られるかして一生働かされるですね」
少々しゃべり方にクセのある人だ。
俺は少女の入っている檻のほうを見る。
狼の耳と尻尾の付いた少女だ。狼人間はほぼ不死身である。全く戦力にならないことはないだろう。
「その子ですか。怯えてるですから、誰も買ってくれないみたいですね」
そんなことをはっきり言っていいのかよ。
船か鉱山と聞いた少女は俺を見つめてきた。買ってもらいたいのか?
自分で言うのもなんだが、他の冒険者に比べて俺は優しい顔をしている……と思う。
だからこの際俺に買ってもらいたいと思ったのか。しかし、奴隷というのはそう簡単に買えるものではない。
そう思い俺は通り過ぎようとする。すると、少女がさらに強く俺を見つめてきた。無視して通り過ぎるのは俺の良心が痛んでしまう。俺のお人よしが恨めしい。
「いくらだ?」
「値段ですか。このくらいですね」
そう言って左手で5を出し、右手で3を添える。つまり8だ。
俺は2を示して返す。
奴隷商は右手をおろして5を示す。
俺は3に増やす。
奴隷商は困った顔をしてから4にした。
「よし、決まりだ」
少女の檻が開けられ、別の部屋に連れて行かれる。
俺も来るように指示されたので、付いていく。
少女に首輪が取り付けられ、首輪の後ろのパネルで指紋認証させられた。
血の契約とかするのかと思ったから、ちょっと拍子抜けした。
値段交渉して下げた金額を払い、少女を引き渡される。
そんな予定はなかったのに。買っちゃった。




