~桃色星~
「オリオン座だ」
すこし暖かな冬の夜だった。
当然といえば当然なのだが、ふるさとから遠く離れたフランスでも同じ星座がみえることにここにはじめてきたとき感動した。
ふるさとをたって二十年近くこっちにいる。そのあいだ、むこうに帰ることは一度もなかった。帰りたくないわけではない。ただ帰る理由もなかった。
すこし温かみを帯びた街なみ。建物が石でできているからだろうか。それとも街灯がオレンジ色なせいだろうか。
こんなに星がみえるのは久しぶりで、もう少しみていたくなった。
街かどのカフェにはいり、テラス席に腰をおろす。空を見上げるとオリオン座がわたしをみおろしている。
コーヒーと同じように私の口からもゆげがたちのぼる。
「とおいなあ」
この光が遥か彼方先からきているものだとはとうてい信じられない。私の想像力ではそのとおさを想像することさえできない。それは遥か遥か先の光。
一見、平面にならんでいるようなこれらの星も、立体的にならんでいて地球上からみたときだけ平面にみえるのだという。私たちもそうだったのかもしれない。もとからそうだったのかもしれない。私たちもひとつの方向からみたら平面だっただけで、別の方向からみたらものすごくはなれていたのかもしれない。私たちが平面でいられたのは神話の中だけのはなしだったのだろう。
先生がいなくなったのは、私に月の影響がではじめた頃だった。それをさかいに私たちは一緒にいることができなくなった。私たちは星座でなくなった。
ぬるくなってしまったコーヒーを一口に飲みほすと、私は席をたった。
オリオン座をみるとついつい感傷にひたってしまう。でもそれは仕方がないことだとも思う。オリオン座は記憶の道しるべなのだ。
これでよかったのかもしれない。どうなるのがよかったかなんてわからない。でも多分これでよかったのだ。
だって、まだどこかの方向からみたら平面にみえるはずだから。




