~リーダー星~
数日つづいた雪がやんだ。
久しぶりに雲のない夜だ。こういう日は寒い。こんな田舎だと紅葉くらいからずっと寒いのだが、よりいっそう身にしみる。だが、家の中であたたまっているというのも芸がない。バルコニーにでて一面の冬化粧をながめる。それは氷の絨毯だ。雨がもしそこにとどまることができるなら、このくらいのサイズの水たまりができるのかと思うとぞっとする反面、スケールのでかさに笑いがこみ上げてくる。
久しぶりの星空だ。星をみるとなにか落ち着くものがある。はじめて田舎にきたときあまりにも星がみえるものだからこわくなった。僕が以前にみたことのない星ぼしが僕をみおろしていた。
「風邪ひくわよ」
「大丈夫大丈夫。それよりみろよ。久しぶりの星空だ」
妻もバルコニーにでて空をみあげる。なんだろう。なにか懐かしいものを感じる。なにかが身体のどこかでふるえている。
「ひさしぶりね、こんなにみえるのは」
妻と眼が合う。
「どうしたの?」
「いや、なんでも」
「これだけみえると、なにがなんだかわからないわね」
「それ、ここにきた時も言ってたな」
身体のなかで時がさかのぼる。ここにきた日。あの日も凍えるように寒かった。氷の絨毯の中を僕らはあるいた。
「あ、オリオン座だ」
三ツ星が光っている。それをみまもるように四ツ星がならぶ。
「どこどこ?」
「ほら、あそこの三ツ星」
「三ツ星?」
「そう。仲良さそうにみっつならんでるのが俺たちで、その周りをやさしく力強く囲んでいるのが先生たちだ。三ツ星だけじゃ弱くてなんにもならないけれど、三ツ星がないと四ツ星も四ツ星でいられなくなるのさ。俺らと先生はみんなでひとつの神話なんだよ」
声が響く。バルコニーには僕と妻以外誰もいない。僕の中でなにかがあばれている。なにかが僕をでたがっている。
「どうしたの?」
みれば妻が私をみている。
「なんでも」
「そう。それでそれで。あの三ツ星と?」
「ああ。その周りを囲んでる四ツ星でオリオン座だよ」
「へえ~。そうなんだ。かっちゃん物知りだね。私そういうの全然わからないから。でも綺麗だね。三ツ星が私たちで四ツ星が先生たちかあ。素敵ね。このままずっと一緒にいれたら幸せだね」
僕のなかでなにかがはじけた。
「うん」
小高い丘の上に寝転んだ僕は空をみあげる。隣に立っている少年も空をみあげている。
「かっちゃん」
「ん?」
少年はふりかえる。暗くて顔はみえない。
「じゃあ、かっちゃんが三ツ星のまんなかだな」
「ったりめえじゃねーか」
「じゃあ、私はあのちょっとピンク色のやつがいい」
「じゃあ僕は一番うえのやつだな」
「なんでお前が一番うえなんだよ」
「だってそれしか残ってないじゃんかよ」
「うるせー」
「どうしたの?」
「え?」
妻が心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。
「え、あ、いや。大丈夫。なんか思い出しちゃって」
バルコニーには誰もいない。満天の星が僕をみまもっている。
「昔のこと?」
「うん」
「どんなこと思い出してたの?」
妻の表情は僕をからかう時のものだ。
「はなさないよ」
そういって僕は家の中に引き返す。
「えー、なんでよ」
「ほら、中に入らないと風邪引くぞ」
「はーい」
「晩飯は?」
「シチューよシチュー」
「お、やった」




