63話 《正義》
何も守れなかった。
理想も願いも。
『はぁ、お前はちゃんと守れよ……。じゃあな過去の僕』
いつだったか、そんなことを言った奴がいた。
ああ、僕は守れなかった……。何も守れなかった。
あいつは願いのために理想を捨てた。僕は何を捨てればいい。
リーヴを、僕の魂を握り締める。
僕はどうしたらいい――――。
『――さあ、世界を守ろう!』
約束をした。
大切な仲間を守ろうと願った。
正義であることを理想とした。
理想はこの世界では求めてはならない。願いを求めるなら理想を捨てなくてはならない。
ああ、そうだ。この世界で両方を手に入れることは出来ない。
でも、手に入れてしまった。
だから、僕は約束したんだ。
――理想を守ると約束した。
――願いを守ると約束した。
僕は理想でありながら、願いを守ることを願った。
――ああ、だったらやるべきことは一つじゃないか。
「――――僕は世界を守る!!」
ユグドラシルに剣を向けて吠える。
世界を守ってやるんだ。力を貸せよ、ユグドラシル!
これは――この世界で願いのために戦う僕の物語。
力が体の中に雪崩込む。人が耐えられる量じゃない。
一瞬で魂が崩壊する。
それを馬鹿みたいな量の力を使って無理やり魂を修復させる。
次の瞬間の崩壊をその前に修復する。
左手には黒い剣、右手には白い剣が握られている。
世界の終わりに生き残っている人間は二人だけだった。
リーヴとリーヴスラシル。この二つは神話で生き残った最後の人間の名だ。
その名を冠する二つの剣に力を注ぎ込む。
二振の剣が光を強める。朧げな光で出来ていた刀身は研ぎ澄まされ、ここに完全な形を得て具現した。
――アンラ・マンユ。悪の神。
――スプンタ・マンユ。善の神。
正義とは善であり悪である。
絶対的な正義はない。
だけど――正義であろうとすることは出来る――。
敵がこちらに敵意を向けてくる。いつまでこの僕が持つかも分からない。だけど、まだ死ぬわけにはいかない。
星空を切り取ったかのような翼を具現化させ、思い切り羽ばたかせる。
今度は完璧に出来た。敵の群れに躊躇うことなく入っていく。
敵を切り刻み数を減らしていく。何度も剣を振るう。敵の攻撃が当たろうと関係がない。何しろこの体はもうとっくに朽ちている。血が出ることもない。失われた部分は光で補填され、元に戻っていく。
死に逝く敵の叫び声が轟く。だが数が減っていっても奴等は嗤う。人の身で何ができるかと。神々は力を振りかざし最強であることを高らかに叫ぶ。
奴等は何も考えてなどいない。ただ欲に塗れ、自己に溺れているだけだ。
そんな奴等が正義を謳う。
奴等は僕にとって完全な敵だ。正義を謳うならばそれ相応の覚悟をしろ。
白と黒の二刀を魂を賭して振るい続ける。
僕は夢を見続ける。夢は時が来れば覚めるものだ。だからこそ美しく心引かれる。もしも、覚めないのだとしたら溺れることになる。
だが、それでも見続ける。手にしたのならば放さない。強く握り締める。
――最後の敵を力の限り斬りつける。




