61話 《正義》
――――夢だろうか。
どこかの森の夢を見る……。
そこには一匹の狼がいた。
その狼は仲間の狼達と暮らしていた。
とても静かな森の中、何もない。だけど幸せに満ちていた。
森はとても広く、その先には何があるのかすら分かっていなかった。
ただ、人間という生き物がいることは分かっていた。
その生き物は同じ種族で殺し合い、憎しみあいながら暮らしていた。その刃はなんであろうと切り裂く。森を出ていけば帰ってこれないと言われていた。
だから、森からは出ない。そうすれば死ぬこともない。もしも、その生き物にあったのならば逃げればいいだけだ。その生き物は食料に困っているわけではないから、逃げれば追ってくることもない。
だから逃げろ、絶対にだ。
そう言われ続けていた。
――でも、狼が初めて見る、目の前の人間達はそんな怖いものには見えない。いや、むしろ狼を目の前にして怯えていた。
人間達は我先にと逃げ出した。狼はそれを追うこともなくその場を後にした。
――それから数日して、人間達はまた森にやってきた。
今度は前回よりも沢山いた。だけど、特に気にもとめずその場を後にしようとした。
だけど、叫び声がしたので振り返ってみた。人間達の視線を追っていくと、一匹の狼が倒れていた。いそいで姿勢を低くし、様子を伺う。倒れていたのはそれなりに親しいやつだった。
人間の方を見ると、変なものを沢山抱えていた。長く細い木の先に、石の牙をつけたもの。長く鋭い石の爪。先頭に立っている奴は曲がった細い木に蜘蛛の糸をくっつけたものを使っていた。そいつは、他の奴が持っていた木と石の牙で出来たものを小さくし鳥の羽をつけたものを取り出した。そして、それを最初から持っていたものと組み合わせ、引っ張り、手を放した。
ヒュンと風を切る音が聞こえ、すぐに叫び声が聞こえてきた。
逃げていた狼達が次々と死んでいく。
訳が分からなかった。逃げようと振り返ると、人間が走ってきていた。
だけど後ろに行っても人間がいる。だから狼は前に進むことにした。
人間達は狼に殺気をぶつける。前回あった奴らとは全く違う。
そこで思い出した。人間は自分たちで自分たちより強いものを殺すための牙と爪を作ったと。奴らが持っているのがそうだという結論に至るのに時間はいらなかった。
槍、剣、弓。それは人間が作った人間の武器。簡単に命を奪えてしまうものだ。
人間は槍で狼を貫こうとする。それを避ける。だが、すぐに近くにいた人間が剣で斬りつけようとする。それすらもなんとか避ける。そして思い切り地面を蹴り、距離を取ろうとする。
だが次の瞬間、戦いは直ぐに終わった。いや、戦いとも呼べなかっただろう。
弓矢が狼を貫く。
鮮血が吹き出し、その場に倒れる。すぐに起き上がろうとするも、何本もの弓矢が降り注ぎ、体を貫いていく。
体は言うことを聞かない。目は掠れて前がはっきり見えない。
人間は喜びの声を上げ、その場を後にする。
信じられないことだが狼には憎しみがなかった。
ただ、死を受け入れ目を閉じた。




