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この世界で願いのために戦う僕の物語  作者: KOKOA
第六章 絶対者《ストゥルティ》
53/66

52話 理由

 部屋から出て体を思いっきり伸ばす。

 昨日は少し早めに寝たせいかいつもより早く目覚めてしまった。

 時計はまだ五時を指している。まだ誰も起きてないのだろう、しんとした静寂に包まれている。

 とりあえずもう一度寝たら起きられなくなるだろうからコーヒーでも飲もうと自販機のある部屋を目指す。

 カツカツという靴音が響き渡る。朝特有の静けさは夜の静けさとはまた違う。

「あれ、和真さん?」

 部屋に入ると希美が椅子に座って、紅茶を飲んでいた。

 手を軽く挙げて挨拶すると、希美も手を挙げてくれた。

「朝早いんですね」

 コーヒーを持って希美の前にあった席に腰掛ける。

「いや、いつもはこんな早くないよ。昨日は寝るのが早くて起きちゃっただけ。そっちこそいつもこんな早いの?」

「一応早起きは心がけています」

 えへん、と少し胸を張って言う。

「もうすぐ、ロキさんとの戦いですね……」

 希美は紅茶を一口飲んでからそんなことを言った。

「そうだな……」

 間違いなくあいつは強い。勝てるかどうかは分からない。もしかしたら誰かが……。

「士希さんは、ずっと世界を救うために頑張ってたんです……。たった一つの約束を守るために。ただそれだけのためにどんなに苦しくても進み続けた。だからいざとなったら自分の身を投げ捨てでもロキを倒そうとすると思います……」

 きっと希美は不安なんだ。この戦いで士希が居なくなってしまうのではないかと。それは僕も同じだ。きっと、いや間違いなく士希は無茶をする。

「だろうな……。だから僕たちで守らないと」

 残ったコーヒーを一気に飲み干し立ち上がる。

「まあ、なんだ、とにかく頑張ろう! なんて、こんなことしか言えなくて悪いけど、僕もあいつがいなくなるなんて嫌だしな」

 部屋から出ようとすると、少しだけ安堵の表情を浮かべた希美が「ありがとう」と言っていた。




 そろそろ二人も起きる時間だろうと部屋に戻ってきた。

 寝室に入ると、翼が座っている雪に抱きつきながら寝ていた。

「あ、和真君おはよう」

 軽く手を挙げて返事をする。

 どうやら起き上がろうとした時に抱きつかれたらしい。

 

――ビービー、とけたたましい音が鳴り響く。

 

 一瞬で穏やかな空気が張り詰める。

 翼も一瞬で立ち上がり、三人で外に駆け出す。

[三人とも、ロキが現れた。そっちにつき次第テレポートするから戦闘用意をしてくれ]

 外にでるとすぐに士希と希美が駆けつけてきた。

 リーヴを出し、この一週間で覚えた覚えた魔法も使う。

 ロキは攻撃力が高い。だから防御が肝となるのだが一々防御魔法を使う時間もない。そこで魂で編まれた戦闘服を纏い、攻撃されそうな瞬間に力を込め、防御力を上げるという単純な方法で対抗することにした。これはかなり力を消耗するが、相手の知力はあまりにも高い。緻密な魔法を作って対抗したところで一瞬で解かれて、無効化される。

 ならば解かれてもすぐに再構築できて、扱いやすいものがいい。

 もはや賭けでしかないが、勝率があるのならばそれで勝負するのみ。

「行くぞ、三、二、一、――――」

 次の瞬間には目の前は赤い世界が広がっていた。

「よう、オーディン」

 上を見上げると真っ赤に燃え盛る剣を持った災害が退屈そうな顔でこちらを見ていた。

 周りは全てが炎に包まれていた。ここがどこなのかも分からない。周りにはなにも残っていなかった。ただ、幸いにもユグドラシルからは離れているらしい。もしもユグドラシルの近くでこうなっていたらさらに勝率は下がっていた。

「ロキ、どうしてここまでする」

「なんでかだと? 支配するためだよ。ただこの世界を。そんなのお前も分かっていることだろうに」

 ロキはゆっくりと降りてくる。

 少し距離が縮まっただけで本能が危険だと、今すぐ逃げなければ命はないと警告してくる。

 そんなことは分かっている。こいつは危険すぎる。一切の容赦なく僕達を殺すだろう。それは兄弟である士希も例外ではない。現にロキは士希に対して一切の情を感じさせない目で見据えている。

「どうやら話し合いは無駄なようだな」

 対して士希はロキのことを完全には敵と見なすことが出来ていない。口では無駄と言っても、どこかで話し合いができるのではないかと思っている。いや、本人にその自覚はない。士希はあいつと敵対して命を取る覚悟もしているだろう。ただ、心のどこか、本人が気づけない場所であいつに対する甘さが残ってしまっている。

 あいつと戦うのにその状態は危険だ。

「お前なら分かるだろ?」

 青い目がこちらを向く。

「どういうことだ?」

 聞いてみたものの奴の言おうとしていることは察しがつく。

「俺が人を殺すのに理由などいらないということだ。お前ら人間も理由なき殺戮をする。なら神である俺がお前らを殺すのに理由が要らぬは道理。違うか?」

「…………」

 返す言葉もない。人は他の生き物を理由なく殺している。

 例えば食べるために殺す、防衛のため殺す。これなら他の動物もやっているだろう。だが、人はそれ以外にも殺している。

 例えば、虫が居たら何となく殺す。害がなくても関係ない。――殺すことに理由はない。 

 例えば、要らなくなった動物は殺される。まるで道具だ。――殺すことに正当な理由はない。

 例えば、自分のために他人を殺す。自分の事以外はどうでもいい。――殺すことに正常な理由はない。

 人間なんてものは理由もなく他の生き物を殺す。そこに善悪はなく正義もない。ただそれが当たり前だというように罪を重ねる。

 ああ、あいつが人間を殺すのに理由などいらない。

 そうだ、人間なんてそんなもんだ。だから僕は少しでも正しい人になろうとした。

「お前はこの世界では生きづらいだろう。こちらに来ればいい。お前は大義名分があればいいはずだ。こちらは自由だ。何をしてもそれがルールだ」

 青い目がこちらを見据える。こちらに来いと。

 ああ、それは楽しそうだ。

「断る」

――だけどその楽しさは要らない。もう楽しさを手に入れるという願いは叶った。

「僕は士希の味方をすると決めたんだ」

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