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この世界で願いのために戦う僕の物語  作者: KOKOA
第六章 絶対者《ストゥルティ》
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50話 翼の話

 訓練を終え、寝る前にココアを飲みながら一段落する。

「はぁ~、疲れた~。まさか丸一日訓練するとは」

 椅子に思いっきりもたれかかる。

「明日も頑張ろうね!」

 翼は元気だった。

 雪のほうをちらりと見るとうつらうつらと船を漕いでいた。

 まあ、そうだよね。一日訓練していたら疲れるのが普通だ。僕だってベッドに今すぐ飛び込んで眠りたいぐらいだ。

 そう、異常なのは今だにぴんぴんしている翼の方だ。確かに訓練の対象は僕と雪だが翼が全く動かなかったわけではない。それなのにさっきから幸せそうな顔をして机にあるクッキーをパクパク食べている。

「あんだけ動いてまだ元気って凄いな」

 呆気にとられてそんな言葉が口から洩れた。

「そお? まあ、私はシキ達に出会ってから訓練を結構やってるから慣れてるのかも。まあ、強さはカズマ達に負けるけどね」

 その言葉は意外だった。模擬戦をやった限り雪はともかく僕よりは強かったと思う。

 そんな僕の心中を知ってか知らずか笑いながら言葉を続ける。

「まあ、スキエンティアはイメージ力だから使う人の想像力が大きいし、インペリウムも人によって能力変わるしねー」

 まあ、僕は想像力だけには自信あるよ。楽しいことがないから一人で楽しいことを空想してたし! 

「ところで翼の願いってなんだ?」

「ん……翼ちゃんの願い……?」

 ここで雪は目覚めたらしい。あくびを手で隠しながら眠そうな声を発する。

「私? 私の願いは元々楽しく暮らすことだったけど、それが叶ったから、今は今の暮らしを守ることだよ」

 その回答に目を見開く。それは僕の願いにそっくりだった。

 普通の人がそんな願いを本気で願うはずがない。そんな願いは七夕かお正月に願うくらいだろう。それを本気で願うということはどこか歪だ。

 願いとは本来どういうものか。

 例えば、服が欲しい、時計が欲しい、医者になりたい、パイロットになりたい、お金が欲しい。こんな感じで要は無い物ねだりをするのが願いというものだ。

 でも翼は楽しい暮らしという、何でもない当たり前にあるものを欲した。そしてそれが叶ったらそれを守るだけといった。

 普通の人はそんなことを願わない。人間というものは欲の塊だ。一つのものが手に入ったら二つのものを求め、一つ目のものを忘れる。そしてなくしてからまた求めるのだ。つまり人間は手に入れたものを守ることを願いにはしない。なぜならないものを求めることが願いだからだ。

翼は今までどんな風に生きてきたのだろう……。聞いていいことなのかが分からない。そもそも聞くべきことなのかも分からない。

 ーーでも。でも今聞かなかったら後悔する。なぜかそう思ってしまった。

 二人に気づかれないように息を軽く吸い込む。そして出来るだけ自然に聞けるよう考えながら口を開く。

「あー、えと、翼って、今までどんな風に暮らしてきたの?」

 うん、無理! そもそもコミニケーション能力のステータス最低値の僕がそんな自然に聞くとか無理。

 声は裏返るわ、なんかめちゃくちゃ失礼な言い方になるわでもうなんかすいません。

「えっと、シキとノゾミに会う前の話ってことで合ってる?」

 翼は少し首を傾げてからすぐになにかを理解したようだった。 

「あ、うん。でも、ごめん。聞いといてあれだけど話し辛かったら、なかったことにして」

 今更感が凄いが、翼は嫌な顔一つせずに話し初めてくれた。

「うーん、話し辛いわけじゃないんだけどあんまり覚えてないんだよね……。まあ、大体こんなだったって感じで聞いてもれえると嬉しいかな。それじゃ、昔の話になるけどーー」




 翼はなんてことのない平凡な夫婦の間に生まれた一人娘だった。でも両親はすぐに死んでしまい、一人残された翼は色々な場所にたらい回しにされた。物心が付く頃にはどれだけの家族の間をわたっていたか分からなくなっていた。最初から善意で引き受ける人達なんていなかった。押し付けられて、仕方なく引き取る。そして育てなくていい理由を探し、今度は押し付ける。それの繰り返し。

 一人で生活が出来るようになったら今度はもう、どこかに引き取られることもなくなった。いや、生活が出来るようにといってもそれは引き受けたくない人達が引き受けるのを拒否するために勝手にそう言っただけだ。

 追い出された時は本当だったらまだ親に甘えているような年だ。でも、翼は誰かに助けを求めることもなく一人で生きていくことにした。それでもまだ子供だ、そんな簡単に生きていけるわけがない。


「ーー私は誰かを恨んだり憎んだりはしなかった。でも、少しだけ家族っていうものが羨ましかった」


 ある雪の日、星空の下とうとう歩く力もなくなって道端で倒れて一人で死を覚悟していた。苦しかったことと寂しかったことは覚えている。でも、死を恐れはしなかった。

 目を閉じて最後の時を静かに待っていると突然声がかけられた。

 



「ーーそれがシキとノゾミだったの。で、あとは二人に助けてもらって今に至るって感じだね」

 翼はなんでもないことのように語っていた。でも、こんなことがあっていいわけがない。

 僕の想像もつかない程の絶望を味わったはずだ。それなのに翼は誰も憎まなかったといった。そんなのおかしいじゃないか……。なんでこんなに良い奴がこんな目に会わないといけないんだ。

 だからこの世界は……。

 

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