44話 色
物思いにふけっていた頭を切り替え花火を楽しむ事にする。
光の線を引きながら空に昇っていく数多の玉。
そして大輪をいくつも咲かせようと広がり―――そこで止まった。
いくら待ってもその花は咲かない。中途半端に広がったままだ。
「二人共、僕は急いでユグドラシルに戻る。僕がユグドラシルに着くまでの間、何かあったら直ぐに知らせてくれ!」
そう言って士希は全速力で駆け出す。
「「分かった!」」
あたりを警戒しながら二人同時に返事をする。
そして花火に穴が開いていると気が付く。
いや、花火に空いているのではない。ただ空に穴が開いているのだ。
そこから一つの影が出てくる。
そしてその影はゆっくりと僕たちの目の前まで降りてきた。
そいつは一言で言えば美しかった。少し長い髪は月のような金。青い瞳は深い海のよう。纏う黒いローブがさらにその男の美しさを際立てる。
どこか……士希に似ていた。
だけど決定的に違う。普通の人ならいい人だと思うだろう。しかし思ってしまった。こいつは本気で危ないと……。
僕は基本的に人を信じない。そのせいか人の悪いところばかりが見えてしまう。いや、そのおかげで助かったこともある。何しろ本当に悪い奴を遠避けることが出来るのだから。
そして……こいつは本当にやばい。
邪悪。その言葉がしっくりくる。
おそらく気まぐれで僕達を殺すだろう。
『なあ、人間。その目はなんだ?』
男の掌がこちらに向く。
「雪、逃げろ!」
リーヴを左手で掴み、全力で男に斬りかかる。
『おっと、危ない危ない。俺に歯向かうつもりか?』
『インペリウム!』
男には返事を返さずただひたすらに斬りかかる。
そしてやっと一発だけ当たった。これでもう終わ――
『触れたものを殺す力か……。だがその程度では俺に触れることすら出来んぞ人間」
――当たっていなかった。当たったと思った場所には光の盾が作られいて剣が跳ね返される。
盾はインペリウムの力で消えるが直ぐに次の盾が形成されてしまう。これでは永遠に触れることは出来ない。
『和真君、今!』
突然、雪が僕と男の間を通り過ぎ、少し離れたところで止まる。
髪は白く目は赤い。
すぐさま男に斬りかかる。雪が通り過ぎる時に斬った場所は再生出来ない。雪が斬ったのは盾ではなく空間。空間は斬られたまま治ることはないので盾は形成されない。
しかし剣が届く前に男は突然姿を消す。
『おっと、今のは危なかったな』
男は薄く笑いながら拍手をする。
僕と雪はインペリウムを解除する。長く使えば魂が持たない。今のでさえかなり負担をかけたのだ。他の手を考えなければ。
『興味深い能力だ。自分の魂をそのまま形にしているのか。そういえばそんな奴も昔はいたな……』
「それはお前らもだろ?」
他人事のような言い方に疑問を覚え時間稼ぎついでに聞いてみる。
『いや、俺は違うぞ。魂の力を変換して使っているだけだ。まあ、やろうと思えばできるがこっちのほうが楽だしな』
なるほど僕らの魔法と似たようなものか。確かに魔法の方が応用力が高い。
『それにお前らの色も興味深い』
「色? 何を言っているんだ?」
『なんだお前わかってないのか?』
不可解なことをいいだしたので顔をしかめると、嘲るように笑う。
『まあいい。まずお前ら人間は色で例えると生まれた時はほとんど無色だ。そして成長していくに連れてそいつなりの色がついていく。だが普通は大して色など付かない。色は願い、戦うことで濃くなる。だが大抵の人間は戦わない。戦うというのは自分とだ。考え悩み足掻くということだ」
確かにそれには同意だ。人は自分と戦わない。確かに世界は間違っている。だけどなぜ周りに流され自分と戦わないのか。なぜ正しくあろうとしないのか……。
いや、今はあいつの話を聞かなければ……。
「で、何が言いたい?」
『じゃあ、結論に入ろう。お前の色は黒だ。とてつもなく濃い黒だ。黒と言う色は他を拒絶し、ほかの色では染まらない。――お前、他の奴を認めてないだろ?』
ドクンと心臓が止まる。
『例えばの話だが……お前は正しさを追い続け、間違いを許せなくなっている。他の人間にはそいつらなりの正義があるのに。確かにそいつらは矛盾があり間違っているかもしれない。だが、普通はそんなことは気にしない。違うか?」
呼吸ができない。気持ちが悪い。
僕は雪と士希は認めている。でも確かに他のやつは認めていない。僕は自分の正義を押し付けたりしないし、人にはそれぞれ正義があるのも分かっている。だけど、認めてはいないのも確かだ……。
それでも否定しようとなんとか声を絞り出す。
「いや、違うな」
しかし男は全てを見透かすように笑う。
『ならばなぜお前の能力は相手を殺すことなんだ? 願いの根本はそこの白いやつと同じだろう? だがそいつは生かす能力で、お前は殺す能力。なぜだろうな?」
ぐらりと世界が揺らぐ。
『和真、しっかりしろ!』
ふと顔を上げる。
そこには士希が立っていた。だが、髪は白く、目は赤い。
「え?」




