45話 三つの世界
『お前……オーディンか?』
男は士希を睨みつける。
『……久しぶりだな、ロキ』
士希もまたロキと呼んだ男を睨みつける。
『その槍はグングニルだな。どうしてお前がここに居る?』
男にさっきまでのふざけた調子はない。その碧眼は士希の持つ二メートル位の槍に向けられていた。
その槍は両鎌槍で穂から石突まで銀色をしているシンプルなものだ。だけど神々しさがあり、見た者の記憶に深く残るだろう。
ロキは視線を士希に戻すと口を開いた。
『俺と殺り合うつもりか?』
『ああ、そういうことになるな』
ロキに目を向けているとふと視線があった。
『そこの二人はなんだ? まさに善と悪だ。そんな神々もいたが……神の実でも食わせたのか?』
善と悪の神々というのはスプンタ・マンユとアンラ・マンユのことだろうか。
でもロキというのは北欧神話の神だ。だがスプンタ・マンユとアンラ・マンユは北欧神話の神ではなかったはずだ。それに神の実というのも何か分からない。
『いや、この二人はただの人間だよ。僕とは違う……』
士希が少し悲しそうな顔をする。
それで思考が切り替わった。今、考えている暇はない。
ゆっくりとロキから視線を離さないようにしながら士希の隣まで移動する。
横を見ると雪も移動してきていた。
『二人共……』
士希は驚いたような顔をする。しかし直ぐに気を引き締め、ロキをまっすぐに見る。
その視線を受け、少し考えた後、ロキはため息をついて背を向けた。
『オーケー、とりあえず今は帰ろう。だが次に来た時がお前らの最後だ』
それだけ言うとロキは去っていった。
ユグドラシルに戻り、士希の部屋で一旦話し合うことになった。
「二人共、今まで騙してて本当にすまなかった……」
座ってしばらく立つと突然、士希が頭を深々と下げた。
驚いて雪と顔を見合わせる。
「し、士希君そんな、顔をあげてよ!」
「そ、そうだよ! 別に大丈夫だよ! 訳があるんだろ?」
それでも士希は顔を上げてくれない。
「命をかけさせてたのに騙してたんだ……」
「いや、承諾したのはこっちだし……。それにちゃんと今生きてるじゃん?」
雪がこくりと頷く。
「それでも生活を壊してしまったんだ……」
「いや、今の方が昔より全然楽しいし感謝してるくらいだよ」
雪がこくこくと頷く。
「それに僕は人間じゃないんだ……」
「いや、僕は人間嫌いだから気にしない。人間ほんと嫌いだし……」
雪はこくりと頷きかけて一回止まったが少し経ってから頷いた。多分、気にしてないというところに同意したのだろう。それとも人間嫌い? やったー同じだね。……うん、違うよね。
「…………」
「…………」
沈黙が流れる。
「本当に気にしてないから大丈夫だよ。嫌じゃなかったら説明をしてくれたら嬉しいな」
「そうだよ。大丈夫」
僕の言葉に雪も続いて大丈夫という。
するとやっと士希は顔を上げてくれた。士希の目から一粒、涙が流れる。
「ありがとう。ちゃんと話させてもらううね。本当にありがとう」
そう言って士希は笑うと話し始めてくれた。
まずこの世界には三つの世界がある。神の世界。生命の世界。死の世界。これらが合わさってひとつの世界だ。そしてこの世界以外にも無限に並行世界がある。
神の世界には世界の種というものがあり、それによって平行世界と交わらないようになっている。そして世界の種は神々が守っている。神がいなくなると死後の世界から世界に選ばれた者が最高神として神の世界に送られる。そして最高神は死の世界から仲間として神の世界に魂を神として召喚できる。
次に生命の世界。つまりは僕たちが生きている世界だ。ここには生命の種――僕たちが守っている種がある。この世界が三つの世界の中心であり、独得の世界にして並行世界と違う世界にしている。
最後に死の世界。ここは他の二つの世界で死んだ者が送り込まれる場所だ。送り込まれた魂は魂の色の濃さなどによって違うが、時間が経つとこの世界の種――魂の種に集まり、その種から新しく魂が作られ生命の世界に送られる。
このように世界はそれぞれの役割が有り基本的に無干渉を貫いている。干渉するのは世界が危機の時だけだ。
「こんな感じで世界は成り立っているんだ」
「なるほど。で、士希は神の世界の神だと」
「そういうこと。でもロキはこの世界を壊して自分が全てを支配しようとしている。そして並行世界との球界を壊してこの世界にアンノウンを送り込んできてるというわけだ」
「神はロキ以外にもいるのか?」
「いるよ。しかも神の実を食べてる奴らばかりだ」
神の実。そういえばロキもそんなことを言っていた。
「ああ、神の実というのは神の世界にある実で、神話時代にいた神々の能力が使えるようになる実だよ。本来は封印されているんだけどね」
「黄金のリンゴみたいだな」
「ああ、そんな感じだね」
士希は少し微笑み、直ぐに顔を引き締める。
「一回、こうなるまでの経緯を説明しないとね。遠い遠い昔の話だ」




