40話 支える
喋り始めようとすると士希が手を前にだし待ったをかけてくる。
「やっぱこんな所で話すのもなんだしユグドラシルに行こう」
それもそうだな。夜とは言え夏は暑い。
とりあえずユグドラシルについた。そして士希が自分の部屋で話そうと提案したので広間を出て歩き出す。
その途中で雪に会った。
「あれ、和真君どうしたの?」
雪は寝ぼけたまま出てきたのか大きめのパーカーを着ているだけだった。そして僕に気がつくと袖で目をクシクシと猫のように擦りながら眠そうな声を上げる。
「あ、あの雪さん……目のやり場に困るのですが……」
雪はなんのことか分かっていないのか首をコテンと横に倒す。
とりあえず目線をあまり下げないようにして指をさす。すると雪はその先を見るためゆっくりと顔を下に向ける。そこでやっと気づいたのか雪はビクッと肩を揺らし顔を上げる。
「こ、これは違くて! その寝ぼけていただけでそういう趣味とかじゃないの!」
ものすごく焦った様子で顔を赤くさせながらアタフタとする。そのせいでパーカーが揺れて見えそうになる。
うん、完全に目は覚めたな。
雪はすぐにデニムの短パンを作るとガバッと履く。そこでまた見えそうになりバッと顔を背ける。
雪は取り繕うようにコホンと一度、咳をする。まあ、顔は赤いままだけど。
「そ、それで和真君はそうしたのこんな時間に?」
「あ、ああちょっと色々あってそれを今から士希に聞いて貰うところ」
こちらの気持ちが落ちたのを察したのか心配そうな顔になる。
「私もその話、聞かせてもらえる?」
「いいよ。士希もいいか?」
「和真がいいなら僕もそれでいいよ」
とりあえず話もまとまったので士希の部屋へ再び歩き出す。
そういえばなんだかんだで殆ど士希の部屋に行ったことはない気がする。
士希の部屋に雪と二人で小さく「おじゃましまーす」と言いながら入る。パット見は雪の部屋と同じだった。
「奥の部屋はどんな感じなの?」
ふと好奇心がくすぐられて聞いてしまう。
「ん? 別に変わったものは置いてないよ」
そこで雪が苦笑したのが気になって、さらに好奇心が増す。
士希はそのまま奥の部屋へ続く扉を開けて中に入っていく。
士希を追って中に入ると部屋の両側に天井まで続く本棚がそびえ立っていた。多分ジャンプでもしないと取れないだろう。
本の背を見ると英語で書かれたものから何語で書かれたものかすら分からないものまであった。日本語で書かれている題名を見てみると哲学だとか古典だとかまであった。
とりあえず、雪の苦笑の意味がわかった。
「あの、変わったところあるよね?」
士希はなんのことか分かっていないのか首をかしげる。
「普通はこんな何語かも分からない本は置いてないの」
士希の肩に手を置き諭すように言う。後ろでは雪が静かに頷いていた。
「ふ、普通なんて人それぞれだよ!?」
「僕もそう思うけど日本人の平均で見た場合は普通にはならないよ」
確かに普通なんてのは人によって違う。しかし平均という意味ではその限りではないのだ。
「で、でもそれでいくと和真の本棚にあるラノベも普通じゃなくなるぞ?」
「よし、この話は終わりにしよう!」
士希には勝てなかった。分かっていたさ……。
「ところでお話はいいの?」
ここまで笑って聞いていた雪が本来の目的を思い出したらしい。
僕と士希はこのくだらない議論をすぐにやめてテーブルのある部屋に出る。
「じゃあ、長くなるけど喋らせてもらうね――」
僕が天野家に引き取られた経緯、どんな扱いを受けていたか、そして今日あったこと、全てを話した。
話を終え、士希がだしてくれていたホットココアを一口飲む。ちなみにココアはパウダーにお湯を入れるだけだったけど、透明のガラス瓶から出したのを見る限りパウダーは士希が作ったのだろう。
コトンとカップを置くと同時に士希が口を開く。
「ごめん和真、その問題を僕は解決してやることは出来ない。でも僕達は絶対に和真の味方だ、だからせめて頼ってくれ。和真の背負っている荷物を支えてやることは出来ない。でも和真のことは支えてやれるつもりだ」
「うん、私も和真君の味方……。私は和真君に救われた。だから私も和真君に頼って貰えたら嬉しいな」
士希の言葉に雪も頷き微笑む。
「ありがとう。でも、僕はもう二人に十分助けられてるよ。だからこれからも支えてくれたら嬉しい」
二人の言葉に対して素直な気持ちを言葉にする。
話が終わった後、士希は今日からしばらくユグドラシルに泊まることを提案してくれた。その提案に僕は甘えることにしてこの前使った部屋の鍵を貰った。
今はシャワーを浴び部屋でゴロゴロしているところだ。部屋の構造としては士希や雪の部屋と変わらない。
明日になったら一旦家に帰ってとりあえず、しばらくは家に帰らないことを伝えなければならない。
時計を見ると12時を指していたので電気を消して眠りにつく。しかし、目を瞑って数分もしないうちに扉を叩く音がした。
扉を開けると雪が立っていた。
「あ、ごめん。眠ってた?」
「いや、大丈夫。どうかしたか?」




