35話 罪の重さ
ハーデスは消えた。だが全てが終わったわけではない。
雪は吉良に視線を向け一瞬で移動すると剣を軽く吉良に当て回復してあげる。
僕が雪に近づくと雪の髪と目は普段通りになっていた。
「お疲れ様」
「ありがとう、和真君もお疲れ様」
雪はかなり疲労していた。インペリウムを使ったのだから当然だろう。
「ん――」
吉良に視線をやると目を開けていた。
「大丈夫? 立てる?」
雪は吉良が起き上がるのを助けてあげる。
「白金さん……」
吉良は警戒の色を浮かべ距離を取ろうとする。しかし何かに気づいたように突然動きを止める。
「ハーデス様? ハーデス様!?」
吉良は焦ったようにあたりを見回す。
「ハーデスなら死んだよ」
僕が無慈悲に言い放つと、吉良は顔を青白くさせながら僕の顔を見返してくる。
「私を殺すつもりなの?」
吉良は僕の肩に手を置いて縋り付いてこようとしたが、それを避け再度口を開く。
「お前は今まで何人の人間を殺した?」
「ごめんなさい、白金さんの両親のことも謝るから命だけは助けて」
我慢していたがもう限界だった。
「お前のせいでどれだけ雪が悲しんだかわかるか!? なにが命だけは助けてだ!」
「だってハーデス様に魂を捧げなきゃ私が死んでたのよ!?」
確かに吉良が死んでいたかもしれない、それは事実だ。自分を助けるために他人を犠牲にするのは間違っていると僕は言い切れない。それでも僕はこいつのことを許せない。
「わかった……」
今まで口を閉じていた雪が唐突に口を開いた。
「もういいよ、これ以上何もしない」
雪はそれだけ言うと吉良に背を向け歩き出そうとする。
「待てよ、こいつはお前の親を……」
僕が声をかけると雪は体をこちらに向ける。
「いいの、人は殺したくないし」
雪は笑顔でそう言う。そこに沈んだ様子はない。
しかし、僕は少し悩んでから自分の考えを言うことにした。僕の考えはよくおかしいと言われる。でも、雪には思っていることをちゃんと伝えよう。
「僕も人は殺しちゃいけないと思う。これは自分が楽をしたい、死にたくない、でも他の動物ならいいというエゴから来ているものかも知れない。でもそれと同時に人間には他の動物と違って理性があるんだから殺すのはダメだとも思うからね。まあ、これすらも僕の思い上がりかもしれないけど」
そこまで雪の目をまっすぐ見ながら喋る。
そして今度は自分がどうなるかに怯える吉良に目を向ける。
「でも、こいつは人をたくさん殺した。そんなやつを野放しにしておいていいのか? こいつはアンノウンと変わらないんだ。」
吉良は息を呑み微動だにしない。
「うん……。危険なのは分かってるよ。でも私は殺せない、殺さない。もう私の親のことはいいの、昔のことだし……」
もういいか……。雪がそう言うなら僕に吉良をどうこうする資格は無い。
「分かった。吉良さん悪かった、行ってくれ」
「いいんですか?」
「ああ、雪がいいって言うならいいよ。僕が直接危害に合ったわけじゃあないからな。関係のない僕が吉良さんに何かをするのはおかしいだろ?」
「……ありがとうございます。それから雪さん……ごめんなさい……」
「うん」
それだけ言うと吉良は去って行った。もうすぐ吉良の中に残った力もなくなって止まった世界で動くこともできなくなるだろう。
周りを眺めてみると壊れたものが逆再生でもするかのように元の形に戻ろうとしていた。今回はかなり悲惨な状態になっていた。まあ、大体が僕の魔法で壊れたものだったが、もう少しすれば全部直るだろう。




