33話 剣と鎌
「間に合えーー!」
鎌が雪に当たる直前になんとか剣を割り込ませ、攻撃を弾く。そしてすぐさま雪を抱え、離れる。
「おい、大丈夫か!?」
「……うん、大丈夫」
雪はそう答えると剣を支えにして起き上がり、吉良の方に向き直る。
吉良を僕がインペリウムを使って殺せばそれで終わりだ。でも、それでは雪の仇討ちは成立しない。だったら僕が吉良の体力を削るしかない。
「雪は少し休んでろ……」
雪の手を掴み声を掛ける。
「でも!」
雪は焦った様子で振り返り声をあげる。
「大丈夫、雪の体力が回復するまでだ」
「……わかった」
雪が一歩引いて僕が前になる。
「あら? 話し合いは終わりましたか?」
「ああ、終わったよ」
吉良は少しだけ浮いていた。どうやら空中戦にするつもりらしい。まあ、こんな狭い所では、あの大きな鎌は存分に振れないだろう。
風が吹いていて吉良のローブが揺れる。結界の中では生命の動きは止まっても自然の動き等は止まらないらしい。要するに時間も進む。それを加速させたのだろう、もう辺りは暗くなり月が出ていた。まあ、こいつを倒せば戻るから混乱が起こるようなことはない。
空を見上げると星が瞬いていて綺麗だ。その綺麗な空に風に棚引く黒いローブ、手には大きすぎる鎌。その姿は死神そのものであった。
「夜になると私の力はますので夜にさせていただきました」
吉良は邪悪に微笑むと鎌を一振りし再度声を発する。
「その首、頂戴いたします!」
凄まじい勢いで迫ってくる吉良からは目を離さず魔法陣を描く。
「アストラ!」
前回使った時は手に書いたので小さかったが今回はでかでかと書いた。その魔法陣から大量の流れ星が放たれる。吉良はもうスピードを緩めても当たってしまう距離まで来ていた。
「くっ――!」
激しい爆音を響かせながら砕けていく星屑。これは間違いなく当たった。
煙が風に流され、消えると中からは所々穴の空いた吉良が出てきた。その姿は普通の人間だったら死んでいるぐらいボロボロだった。しかし、この程度で死ぬようなやつではない。
「よくもやってくれましたね!」
吉良は怪我を瞬時に治すと再び襲いかかって来る。だが、その攻撃をギリギリのところで躱す。しかし吉良は体をありえない角度で回し、鎌を僕の肩に深々と突き立てる。
なんとか抜こうと鎌に力を込めるも、ますます鎌は僕の肩に沈んでいった。しかも力が吸い取られていく。このままでは殺られてしまう。
「あなたの魂、全て頂きますね!」
吉良は恍惚とした表情で更に力を込める。鎌は更に深く突き刺さり、力の吸収速度も上がる。
「ウィルトス!」
力が湧き上がるような感覚が訪れると同時、一気に鎌を引き抜く。そしてそのまま鎌を前方に吹き飛ばし傷口を塞ぐ。おそらく今ので五分の一は持って行かれた。このまま全ての攻撃を避けきるのはかなり難しい。
「あなたも早く本気を出さないと殺してしまいますよ?」
ふと――瞬きをした瞬間に吉良は目の前まで来ていた。
吉良は死神の名を冠する鎌を大きく振り上げそのまま勢い良く振り下ろす。
本当に今までのは本気ではなかったのだろう。目で追うことは出来ても体が動かない。このまま行けば次の瞬間には体は真っ二つだ。だったら僕も本気を出すしかない。
「インペリウム!!」
目に力を入れると鎌が止まっているように見える。釜の軌道から少しだけずれ、軽く剣を振り、鎌を粉砕する。
「なっ――」
吉良は驚きに目を見開き自分の手を見る。そこには砕かれた鎌があるだけだ。
吉良はすぐに状況を把握し鎌を修復する。
インペリウムを使った今、吉良を殺すことは簡単だ。だが殺してはならない。
考えを巡らせると一つの解決策が浮かんだ。
インペリウムを使った今の状態だと使える魔法の幅も広がる。ペルソナ――未来の僕に出来なかったインペリウムを使える僕ならあいつの魔法も使えるだろう。
本来、魔法は呪文が長い魔法ほど強力だが、この魔法は雪の使う絶対零度等と同じで長ったらしい呪文なしで強力だ。その魔法は――
『デウス・エクス・マキナ!』
僕がそう叫ぶとともに馬鹿でかい砲台が現れる。
僕はトリガーに指を掛け、銃口を吉良に向ける。そして、ゆっくりとトリガーを引く。
『耐えろよ』
銃口から目に痛い程の光が迸り光が吉良目掛けて放たれる。吉良は避けようとしたが、遅かった。光は吉良を包み込み、やがて消える。
中からは吉良が姿を現したが次の瞬間には地面へと急降下していく。
僕はインペリウムを解除し、限界を迎えつつある体に鞭打って吉良のそばまで行く。少しすると後ろから雪が歩いてくる。
「う……あっ……」
十秒もすると吉良は突然目を開け苦しそうに声を出す。
「まだ……やれます。もう一度だけチャンスを……」
ボソボソと懇願するように発せられる声。
しかしその声が突然止み、水を打ったように静かになる。
「死んだのか……?」
確認するため数歩近くに寄る。すると突然頭が引っ張られたかのようにグンと不自然に起き上がる。
すぐさま距離を取ろうとするがその前に見えない何かによって吹き飛ばされる。
「和真君!」
雪がすぐさま近寄って来て心配そうに僕の名前を呼ぶ。
「どうなっている?」
吉良を――いや吉良の形をした何かを睨みつける。すると、ふわりと中に浮きこちらを見返してくる。
その見返してくる目と視線が交わる。刹那――体から冷や汗が吹き出る。この感覚はカオスと対峙したした時に感じた絶対的な者への恐怖だ。だが今回はカオスよりずっと強力だった。まるであいつ自体が死そのもののような……。




