7
この第7話の前に当たる時期の閑話として、
同シリーズの短編『ハルがサークルを辞めた理由』があります。
ハルくんの友達、西井君視点のお話です。
読んでやってもいいよ、という奇特な方は、あわせてどうぞ!
……CMでした(((^^;)
冬の足音が近づいてくる。
ハルくんは、顔を会わせればごく普通に、挨拶したり、話しかけてくれる。
「おはよう、美緒」
「あれ、今日はもう帰るのー」
「これから? 歴史研究会」
なにげに名前で呼ぶのも当たり前のように。
でも、それ以上のことはなくて。
三限目の法制史の講義のあと、千裕と構内を歩いていたら、ハルくんを見かけた。カフェテリアの方に歩いていく。けっこう距離があったので、ハルくんは、私に気づかない。
隣には、ショートレイヤーの黒髪が大人っぽい女のひと。
遠くからでも、楽しげに会話が弾んでそうなのがわかる。
「美緒?」
足を止めた私に 、怪訝そうに千裕が振り返る。
今日は、このあとまだドイツ語が残ってる。講義室に向かわなくちゃと思うのに。
「あれ、ハルくんだよね?」
私の視線の先に、千裕が気づいてしまった。
「うん」
「隣のひと……」
「最近、よく一緒みたい」
「先輩っぽいね」
「うん……行こう?」
自分が立ち止まったくせに、私は千裕を引っ張るように歩き始めた。
翌日、学食でのランチ。千裕とさっちーとテーブルにつき、明日菜を待っていた。明日菜だけ別の講義で、でもお昼にはいつも合流していたから。
やけに遅いなーと、三人でとりあえず注文を済ませ食べようとしかけたところに、
「なんでオレー?」
「どうせ、これからお昼食べるんでしょ? だったら、いーじゃない」
ばたばたと明日菜が意外な人を連れてきた。
昨日の千裕との会話が明日菜に流れていて、たまたま講義の一緒だった西井君を見つけて、強引に連れてきたらしい。
気を回してくれるのは、ありがたいけど、反面ちょっといたたまれない。
「だから、なんなんだよ」
と、普段それほどしゃべらない女子のなかで、居心地の悪そうな西井君を、明日菜は私たちのテーブルに座らせた。
「西井君って、ハルくんと仲良しでしょ、確かサークルも一緒だったよね?」
明日菜が唐突に切り込むと、
「あー、ハルなら、テニス辞めたよ」
西井君はあっさり言った。
「え? そうなの? ううん、聞きたいのはそういうんじゃなくて」
明日菜が首を振る。
「最近、よく一緒にいる……」
「ああ、歴研の先輩だって」
それから西井君は、
「腹減ったー」
と、食べ盛りの男性らしく大盛の定食を頼みに席を立った。
「やだ、ずるい、私も!」
明日菜も好物の親子丼を頼みに行った。
二人がカウンターに向かうと、
「美緒、こーゆーの、いやじゃない?」
とさっちーが小声で聞いてきた。
「ああ、うん、まあ。でも、気にならないって言ったら嘘だし」
私はどっち付かずな返事を返し、少し冷めたオムライスに口をつけた。
西井君と明日菜が戻ってきて、一緒に食べ始める。
「あれ、多分カノジョだと思うよ」
西井君は、ほんの少し言いにくそうに言った。
「歴研でも、すごい趣味が合うんだ、って言ってた。今までも、ちょくちょく博物館巡りとかしてたらしいし」
そこまで言ってしまうと、西井君は、勢いづいたかのように話してくれた。
彼女は、歴研に所属する文学部の三回生、篠沢芹さん。ハルくんのほんとにやりたいサークルの先輩で、落ち着いた感じの美人。もちろん、お互い歴史好きで、趣味はぴったり。
「ハルもさ、一時期ちょっと落ちてるなーって感じだったから。え? そっち行くのって、びっくりしたけど」
言いながら、西井君は、ちらりと私の方を見た。
「でも、まあ、今は。もとのハルに戻ったんで、これでよかったのかな、って」
「よくないわよ!」
明日菜が、ばんっとテーブルを叩いた。
騒がしい学食でも、音が響き、一瞬注目を集めてしまった。
「ぜんぜん、よくない」
私じゃなくて、明日菜が泣きそうだ。まあまあって、さっちーが明日菜の背中をさする。
「オレに言われてもなー」
ぼそりとこぼした西井君の独り言。確かに、いい迷惑だよね。それでも、
「……ごめんなさい」
と私が言うと、
「長谷川さんが謝ることじゃないよ。オレも配慮が足りなかったし」
西井君は慌てて応えてくれたのだった。




